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第十六話 3つの幸せ①

第十六話です


優しい気持ちにあふれた空間と言う物はとても心地が良い

そんな事を考えながら書いた回でした


ひと時の安らぎをあなたに

シロイとクロイがリンダと共に過ごすようになって1週間程たった。


リンダはケーブルカーが通る道沿いにあるレストランで働いていた。

この1週間、出掛ける時にいつもシロイに「早く帰ってきてね」とお願いされる。

そしてそのたびに「分かったわ」と小さな約束を交わす。

なんということのない小さな約束。そんな小さな約束を果たし早く家に帰ると2人の笑顔が出迎えてくれる。

そんな小さな約束と小さな喜びのある日々にリンダは幸せを感じていた。


リンダの働くレストランは地元の人達に愛される店で「銀の月」と言う名前だった。リンダはこの店でウエイトレスをしている。

広めの店内にはテーブル席の他にカウンター席もある。リンダの受け持ちはカウンターだったのだが、リンダ目当ての男たちでいつもカウンターはごった返していた。

「シロイとクロイはちゃんとお留守番できてるかな?」カウンターに居れば忙しく仕事をするので手一杯なのだが、バックヤードで休憩しているときにはそんなことばかり考えていた。


仕事が早めに終わった時はリンダはよく店から歩いて家まで帰っていた。

まだ早い時間だと道沿いの店が開いているのだ。特に何をというのは無いのだが色んな店を通り沿いから眺めては進んいく、それだけで楽しかった。

しかし、昨日も今日も早めに仕事を終わらせ帰るリンダはケーブルカーに乗り、いつもより急いで帰っていた。周りから見れば急いでいるようには見えないようだがリンダ自身は急いでいるのだ。

そしてその時に感じている、ソワソワとワクワクとが入り混じったようなその感覚が好きになってきていた。


今日の晩御飯は何にしようかしら? そんなことを考えながら家の近くの駅より1つ手前の駅で降りると、スーパーに夕食の食材を買いに行く。

誰かに作る食事というのがこんなにも楽しいものなのだとリンダは初めて知った。

一緒に今日あったことを話す。自然とみんな笑顔で、2人はご飯をおいしいと言って食べてくれる。そんな日々を幸せだと感じていた。

今日の2人はどんな1日を過ごしたのだろう、そう思ったところでふと、まるで自分の子供のようだなと思い独り恥ずかしそうに少し照れたように顔から笑みがこぼれる。


「ただいま、シロイ、クロイ」スーパーで買った食材が入った紙袋を両手で抱えながら肩でもたれかかるようドアを開け、リンダが帰って来る。

「お帰りリンダ」リンダの声を聞きつけシロイがリビングの椅子から飛び降り駆けてくる。

「お帰り」椅子に座ったままリンダの方を向き、紙袋を抱える姿を見てその荷物を受け取りにクロイも出迎える。

「ねえねえ、聞いてよリンダ」急いで駆け寄りながらシロイがリンダに話したくてしょうがないと言わんばかりに話しかける。

「そんなに慌ててどうしたのシロイ?」紙袋をクロイに預け、とても緊急で楽しそうなシロイの話に耳を傾ける

「僕ね、今日のお昼にホットサンドを作ったんだ。リンダの好きなベーコンとチーズのホットサンドなんだよ。クロイもおいしいって言ってくれたよ」ボールを取ってきて飼い主に褒めてもらいたい子犬の様にキラキラと瞳を輝かせシロイはリンダを見上げる。

「うまかったぞ」キッチンに紙袋を置き野菜を冷蔵庫に入れながらクロイが合の手を入れる。

「それでね、それでね、明日の朝リンダにも作ってあげるから朝起こしてほしいんだ」

本当は内緒で作ってリンダを驚かせたかったのだが、クロイと相談した結果、2人では朝起きれないという結論に至り、先に全部話してしまうことにしたのだった。

「分かったわ、良いわよ。シロイの作ってくれるホットサンド楽しみね」シロイの前にしゃがみ込み抱きしめながらその幸せに自然と笑みがこぼれる。

「おいしいんだから、リンダもきっとびっくりするよ。明日ちゃんと起こしてね」シロイもリンダを抱きしめリンダの喜ぶ顔を思い浮かべ嬉しそうに笑う。

「はいはい、分かったわ。シロイもちゃんと起きるのよ」シロイの背中をトントンと優しく手で叩き、今日も何でもない小さな約束を交わす。

「さあ、おなか減ったでしょ? ご飯作るからお手伝いお願いね」キッチンの入口に掛けてあるエプロンを取り、ヒモを後ろ手で結びながら2人に呼びかける。

「リンダ、今日のご飯は何?」急いで手を洗いリンダの元に駆け付けシロイが訊ねる。

「今日はハンバーグよ、玉ねぎ切っちゃうからミンチと混ぜてちょうだい」シロイがキッチンで手伝いができるように、小さな踏み台を置き、リンダはお手伝いをお願いする。

「僕も玉ねぎ切るんだからね」シロイはいつもリンダのやることをやりだがる。

「シロイ、玉ねぎちゃんと切れるの? 涙が出て泣いちゃうよ?」リンダはそう言いながら半分に切った玉ねぎをシロイの前にそっと置く。

「できるもん」そういうとリンダを真似して包丁で玉ねぎを刻み出す。

「俺はバゲットを切る」そう言うと、クロイはさっきの買い物袋からパンを取り出しブレッドナイフを前後に動かし斜めにバゲットをカットしていく。

この1週間の間その小さな空間はそんな3人の幸せで溢れていた。


シロイとクロイと交わす小さな約束はいつしかリンダにとって毎日の楽しみになっていった。2人と交わす約束は、その約束を果たした後必ずそこには2人の笑顔があった。リンダはその笑顔が好きだった。



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