第十四話 哀愁
第十四話です
この話を書いている時、結構悩みました
でも今はそれを超えて書けています
これからも楽しく書いていきます。
シロイとクロイが去っていく姿を目で追いながらデスモンドは動けずにいた。
なんだ今のは? 決して表情に出すことはなかったが予想していない出来事だった。
なるほど力の程度までは分からなかったがサイラスがイレギュラーだと言っていた事もあながち嘘ではなさそうだ。そう思わざるを得なかった。
人は老人であれば警戒心を抱きずらい、それがワシの強みだ。しかしあの2人はあの雑踏の中でワシをピンポイントで見つけ、あまつさえ話しかけてきた。なぜだ? 自問自答するデスモンド。
もし奴らが同業であるならば話しかけたりはしない、何を考えている? 答えの出ないまましばらくベンチから離れられなかった。
2人の姿が雑踏の中に消えていくころようやく思考の渦から現実に意識が戻って来る。
奴らに対する認識を変える必要がある、他の仲間にも伝えねばならん。わしらは幹部付きのソルジャー、ドエイドの最強戦力なのだ。そのプライドでようやくデスモンドは動き出すことができた。
そのあとの動きは早かった。
まずは今日この後の予定を全て中止するようサイラスに連絡を入れる。そして全員に今の出来事を共有できるよう招集の要請を合わせて伝える。
このまま何もしなければただ偵察が失敗したという結果が残るだけだ、次を考えろ。そう自分に言い聞かせデスモンドはようやくその場を離れることができた。
デスモンドからの連絡を受け、サイラスは直ぐに動く。もう失敗はできない、必ず結果を出さねばならない。サイラスにはもう後がないのだ。
全員に連絡を入れその日の行動を全て止める。そして全員を呼び戻した。
「爺さんが下手を打つなんて珍しいな」珍しく真剣な表情でクライドが言う。
「ワシが下手を打ったわけじゃない、奴らが異常だっただけじゃよ」ミスはしていない、何度も反芻したうえでデスモンドの出した結論だった。
「あら、結果としては同じことなんじゃないの?」誰かに気を使うという思考はアイリーンは無いようだ。
「……」相変わらず無口ではあるが会話には参加しているダリル。
「それだけの相手だってことなんだろ」ジェラルドは冷静に状況を把握しようとしていた。
「そんなことよりこの映像ちゃんと見てよ」シロイとクロイが現れた瞬間の映像を繰り返し見ながらルーファスが訴える。
「まあ待て、最終的に求める結果が得られればそれでいい。今はこれからの動きを焼き直す方が先決だ」ブランドンがその場を押さえサイラスの方を見る。
デスモンドの話とルーファス達が持ち帰った映像を見ながらサイラスは考え込んでいた。
ドエイドとしてこれ以上ない人選であったはずだ、なのにいきなり躓いた。どうする?
「認識を大きく変える必要がありそうだ。奴らと接触することはしばらく避けた方がいいな」
全員を見回し今後の方針を練り直し伝える。
イレギュラーとはこれほどのものなのか……サイラス自身もその認識を改めざるを得なかった。
トラビスは前回のカーチェイスで修理に出していたシボレーを引き取り、車の状態を確かめるため街を流していた。
この間の事は現実にあったことだよな? 改めて考えると信じられないようなことだったと思えてきていたからだ。
大抵のことは受け入れる性格だがあまりにも現実離れしている。いきなり現れてアルカトラズだと名乗る2人組。しかもどう見てもあれは子供だろ? そう考えながらルームミラーに目をやった時に後ろに人影が見える。
「ねえ、今日はカーチェイスやらないの?」運転席と助手席の間から顔を覗かせシロイが楽しそうに尋ねる。
「お前らドエイドとやりあったってのはホントなのか?」
シロイの問いかけを無視し、いつの間にか後部座席に現れていた2人に話しかけるトラビス。
「あー、この間のドエイドだったんだ、まあヴァレンティノのとこが依頼するとしたらそうなるか」シロイは相手が誰であるかはあまり興味がないようだ。
「ドエイドってのはなんだ?」クロイに至っては全く興味が無いようだ。
「しかし毎回いきなり現れるのはやめてくれよ、心臓に悪い」そうは言いながらもどこか嬉しそうにトラビスは言う。
「そのうち慣れるよ。気にしない、気にしない」そんなことよりカーチェイスを期待するシロイ。
「慣れろって……ところで俺は今後どうすりゃいいんだ?」トラビスは気を取り直し今後の身の振り方を確認する。
「今まで通りに過ごしてくれればいいよ、何か用事があればこっちから来るから」トラビスの運転する様子を楽しそうに眺めながらシロイが答える。
「車は良い」外の景色を眺めながらクロイが言う。
「その時は普通に来てくれよな」一応念を押すトラビス。
「考えとくよ」そう答えはしたがあまり考える気はなさそうなシロイ。
「ところでアルカトラズって組織なんて作って何をやる気なんだ?」素朴な疑問をシロイに投げかけるトラビス。
「特に何かやるってのはないよ。ただ僕たちは護りたいだけだよ、もう大切なものを失うわけにはいかないからね」雨の降りだした窓の外を遠く見つめながら答えるシロイの顔にいつもの笑顔はなかった
「そうだな、俺たちは護れなかった」クロイの言葉にも雨に紛れいつもは感じられない悲しみのような感情が籠っていた。