戦いの女神の苦悩
今日はどっと疲れた。
おかげさまで入浴後に飲んでいる缶ビールの酔いがいつもより早い。
戦いの女神はというと、入浴後から槍や鎧の手入れに勤しんでいる。
そんな戦いの女神が着ているのは、白色のパジャマ。
今日、ショッピングモールで買ってきたパジャマだ。
しかし、パジャマを着ている戦いの女神を見ていると、西洋の若い女性という感じだ。
異世界から追放された女神という雰囲気が掻き消されている。
これまで魔法っぽいのを使った形跡もないし。
「戦いの女神、ちょっといいか?」
「どうした?」
「戦いの女神って魔法を使えないのか?」
「魔法?」
神妙な顔で首を傾げる戦いの女神。
「呪文を唱えてさ、掌から炎を出して攻撃したり、瞬間移動で遠くの場所まで行ったり、瀕死の人の傷を全回復させたり」
「ああ、それか。この世界では魔法というのだな。我が世界の天界の神々も下界の者たちも、神念力と呼んでおった。我も天界の神々も下界の者たちも、神念力、否、魔法を使える」
おお、魔法が存在していたのか。
オラ、ワクワクしてきたぞ。
「しかし、我や天界の神々と下界の者たちには大きな違いがある」
「どんな違い?」
「我や天界の神々は呪文など唱えん。念ずれば、それでよい。また、あらゆる魔法を自由自在に使えた。下界の者たちは魔法を使う前に呪文を唱えておった。しかし、あらゆる魔法を使えなかった。よって、より多くの魔法を使えるようになるため、協力し合いながら勉強や修行を励んでいた。これが大きな違いだ」
戦いの女神や天界の神々はチート能力を持っている。
しかし、下界の人々は多くの魔法を獲得するために、友情・努力・勝利をテーマに汗を流している。
なんだか胸熱だな。友情・努力・勝利って。
「それじゃあさ、いま魔法を使ってみてよ」
俺が希望すると、なぜか戦いの女神が目を逸らした。
「何故だ?」
「戦いの女神が魔法を使ったのを見たことないから」
「魔法は見世物ではないぞ。我が念ずれば、この世界は瞬時にして滅ぶぞ。貴様、それでもよいのかッ!」
エメラルド色の瞳が俺を睨んだ。
俺は多少ビビりながらも、缶ビールを一口飲んでから、
「世界を瞬時に滅ぼす魔法じゃなくてもいいよ。こうさ、掌から炎が出てくるレベルの魔法でいいからさ」
「……」
沈黙する戦いの女神。
そして、意を決したように俺に駆け寄る戦いの女神。
どうした、戦いの女神?
拳で俺の太腿の叩くのはやめろ、戦いの女神。
「それがだなッ! この世界に来てから魔法とやらを使えぬのだッ!」
「……え?」
戦いの女神が言うにはこうだ。
今週の日曜日、俺が電気を消して就寝した後に戦いの女神は魔法を使おうとしたらしい。
理由は、急に電気を消して驚かせた俺を攻撃するため。
しかし、いくら念じても魔法は使えない。
そこで戦いの女神はこう悟ったそうだ。
この世界では魔法は使えない。槍での攻撃こそ、唯一の攻撃手段。
あぶなッ。
この世界で魔法を使えたら、俺、やばかったやん。
その翌日、俺が戦いの女神の異世界炎上話を否定してたら、槍でグサッだったやん。
この『同居人は戦いの女神さま』は、この世に存在してなかったやん。
「魔法を使えぬとは情けないッ! まったく情けないッ! これでは、我は戦いの女神とは言えぬッ! これでは天界の神々、魔王、下界の者たちに笑われるッ!」
そう口走りながら、俺の太腿を拳で容赦なく連打する戦いの女神。
「この世界では魔法なんて使えないんだ。それが普通なんだ。でも、魔法を使えなくても、戦いの女神だよ」
そう慰めるも、俺の太腿を砕かんとばかりに連打し続ける戦いの女神。
痛いんだけどな。
連打している位置がずれると、痛いじゃ済まされないんだけどな。
そこを連打されると魔法や槍を使われなくても、俺、死んじゃいそうだな。
さて、どうしようか。




