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食べ過ぎにはご注意を

五月八日(月曜日)


~~~~~~


 ゴールデンウィークを爽やかな感じで締めた。

 しかし、ゴールデンウィーク明けの仕事はしんどい。

 おまけに昨日の午後から降り出した雨がまだ続いている。

 気温が上がらないので、外に出たら肌寒い。


 この雨、天気予報だと午前中で止むらしいが、会社のオフィスの窓から空模様を見る感じでは午前中に止みそうとは思えない。


「先輩」


 午前中に処理する仕事が早く終わり、あと十分で昼飯だ、と思いながら仕事をしているふりをしていると、隣のデスクの後輩に声を掛けられた。


「なんだ?」

「これ見てくださいっす」


 チャックの空いたスポーツバッグの中に、おせち料理に使いそうな重箱がふたつ見えた。

 後輩が彼女さんに手作り弁当を作ってもらった日に持ってくる重箱だ。

 しかし、いつも重箱はひとつだけだが、今日はふたつある。


「彼女さんの手作り弁当ね。わかった。昼飯、俺ひとりで食べに行ってくる」

「違うっす。今日は先輩の分まで作ってくれたっす。だから、一緒に食べるっす」

「俺の分まで作ってくれたんだ?」

「そうっす。だから、一緒に食べるっす」


 彼女さんの厚意に感謝する。

 でも、俺は怖気づいた。

 彼女さんの手作り弁当は量が半端ないからだ。

 ご飯の量も惣菜の量も、それ何人前?と聞きたくなるくらいの量だ。

 後輩は三十分以上かけて手作り弁当を食べている。

 俺は一時間かけても完食できる気がしないし、完食できなくても確実に消化不良を起こして腹を壊しそうだ。


 かと言って、断るわけにはいかないし。


「あ、ありがとう」


 そんなこんなで時間が過ぎて昼休みに。

 後輩を連れて社内の休憩室に移動する。


「これが先輩の分っす。遠慮なく食べてくださいっす」


 後輩がスポーツバッグから重そうに重箱を持ち上げると、重たいから早く置きたい、といった風に俺の目の前に置いた。


 テーブルに置く時にドスンと音を立てたんだけど?


「さあ、食べるっす」


 後輩が重箱の二段目を取り外し、一段目の隣に置いた。

 俺は一段目と二段目の中身を見て腹痛を感じたね。


 信じられるか、読者諸氏。

 どちらの箱もぎりぎりまでご飯が盛られていたんだぜ。

 一箱二等分したら四人分くらいの量になる。

 俺、四人分も食えないって。


 さらに驚くべきなのは彼女さんからの後輩へのメッセージだ。

 一段目の箱のご飯の上にはふりかけがかけられていたのだが、二段目の箱のご飯には『I LOVE ME』と刻んだ海苔で作られたメッセージ。

 いや、そこは『I LOVE YOU』だろ。

 相思相愛の後輩に食べさせる手作り弁当に『I LOVE ME』のメッセージは違うだろ、彼女さんよ。


「後輩、ちょっと待て。俺、完食できないぞ」

「今日も愛がいっぱいっす。いただきますっす」

「シカトするなって」


 あー、だめだ。

 食べ始めちゃった。もう誰の声も後輩の耳には届かない。


 二段目の箱の『LOVE』の『LO』と『VE』を箸で器用に切り離して口に放り込んでいく後輩。

 愛を分断してどうする。

 男なら『LOVE』の部分を分断せずに切り離して丸飲みしろよ。

 ただ、その『LOVE』はお前充てではないだけどな。


 ずっと後輩が食べているところを眺めていても仕方がない。

 俺のために作ってくれた彼女さんの手作り弁当を食べよう。

 覚悟を決めて、重箱を一段目と二段目に分けて並べた。


 一段目の箱と二段目の箱はどちらともぎっしりとご飯が、というところは一緒だった。

 一段目の箱のご飯にはふりかけ、というところも一緒だった。

 二段目の箱のご飯の上のメッセージが海苔を使って、というところも一緒だった。


 ただ、メッセージが若干違っていた。

 『YOU LOVE YOU HAVE A NICE DAY 1+1=? HAHAHA』。

 直訳すると『あなたはあなたを愛している。良い一日を。一足す一の答えは? ははは』。


 彼女さん、意味わからねえよ。

 俺に何を伝えたかったんだよ?

 俺がナルシストだと言いたいのかよ?

 どうして算数の質問をしてくるんだよ?

 笑う要素がどこにあったんだよ?


 俺、笑われた?


「あっ、答えは二っすね」

「知ってるわ!」


 もう意地でも完食してやる。




 雨が上がった遅い夕方。


「おっさん、どうした。顔が青いぞ」

「胃薬を飲んでゆっくりする。悪いけど、夕食はいらない」

「胃の調子が悪いのか?」

「意地になって完食しようとしたのか命取りだった」

「おっさんの仕事は食べることだったか?」

「そんなわけないだろ」

「ならば、意地になって完食する必要もあるまい?」

「意地って言うのがあるんだよ、意地というものが」

「あ?」


 後輩は自分の分を完食したが、俺は俺の分の完食できず。

 その残った分は後輩の胃袋に収められた。

 約六人分のご飯を平らげたことになる。


 本当に後輩は胃にも歯があるんだなって思った。

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