人はそれをフラグが立ったと呼ぶんだぜ
五月七日(日)
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俺の気持ちを戦いの女神に話す必要がある。
恋愛ベタだとしても、きっちりと気持ちを伝えなければならない。
そうでなければ、戦いの女神の苦悩が続いてしまうことになる。
その苦悩から解放し、楽にして上げないと。
……人間が神を楽にさせるというのは変な表現だけど。
戦いの女神が新聞の朝刊を読み終えたタイミングで、俺は散歩に誘った。
「この時間から散歩か?」
「午後からの散歩もいいけれど、遅い朝の時間帯の散歩もいいぜ」
戦いの女神の昼食後の行動は昼寝か散歩のどちらかだ。
午前中からの散歩は滅多にない。
戦いの女神はいつもと違った時間帯の散歩に誘われて怪訝そうな表情を顔ににじませたが、まぁよかろう、と誘いに応じてくれた。
それぞれ運動服に着替えて外に出る。
空を見上げれば真っ青な五月晴れ。
肌を触っていく風が爽やかだ。
「……」
散歩を始めてしばらく経っても、戦いの女神から俺に話しかけてくることはなかった。
むしろ、あまり視線を合わせたくないような感じで顔を背けがちだ。
戦いの女神は俺が散歩中に何かを伝えてくることを察しているようだった。
それなら、俺のほうも気を回したりせずに気持ちを伝えることができる。
「一昨日の夜、戦いの女神はこう訊いてきたよな。『おっさんは我と共に眠りたいか?』って」
そう切り出すと、戦いの女神が散歩中に俺の目を初めて見た。
恥ずかしそうに上目遣いで、だったけれどね。
「やはり、その話であったか。しかし、何故、その話をするためにわざわざ散歩に誘ったのだ。部屋でも話せたではないか。小声で話せば、外におる精霊やタマには聞こえなかったというのに」
「普通に話しても聞こえやしないよ。そんなに外壁の薄い家じゃないからね」
「それでは何故だ?」
「結論から先に言うと、俺は戦いの女神と共に寝ることに拘らない。今まで通り、別々の部屋で寝ても構わない。それが俺の気持ちだ。だから、もう気を使う必要はないぞ」
「それならば、我もおっさんに気を使わぬともよいと申すのか?」
戦いの女神がはっきりと俺のほうに顔を向けた。
「その通りだ。相思相愛の二人が共に寝ることは一般的には普通のことだ。でも、共に寝るだけが相思相愛の形じゃない。このように二人で散歩に出かけるのも、二人でどこかに出かけるのも、二人で料理を作るのも、相思相愛の形と言える。だから、共に寝ることにこだわる必要がない」
「それならば、二人で入浴するというのはどうなのだ?」
そう来るか。
「それも相思相愛の形じゃないのかな。ただ、俺はゆっくりと一人で風呂に入りたいタイプだから、悪いが、一人で入浴させてくれ」
「承知した」
戦いの女神が考え込むように腕組みをした。
俺の気持ちをどう受け止めてくれたかはわからない。
ただ、俺は頭上に広がる真っ青な五月晴れのように爽やかな気分だ。
昨夜、リビングで一人で眠りながらシミュレーションしていた通りに話せたから。
「おっさん」
戦いの女神が拳で俺の背中を殴った。
しかし、外にいるから加減をしてくれたのだろうか。
拳で殴られても、それほど痛くはなかった。
「なんだ?」
「我は元の世界では神ぞ。故に人間であるおっさんとは相思相愛の下で新たな家庭を築くことはできぬ」
「わかってる」
「しかし、元の世界では抱き得なかった淡い気持ちを抱いて戸惑っておる」
「わかってるよ」
「それ故におっさんに迷惑を掛けてしまったかもしれぬ。申し訳ない」
「謝る必要はないよ。答えられるかどうかはわからないけれど、戦いの女神ひとりで抱え込まずに話して来いよ」
俺がそう言うと、戦いの女神は大きく頷き、俺に笑顔を見せた。
「その時は頼むぞ、おっさん」
その後、俺と戦いの女神は家に帰るまで様々な話をしながら散歩を続けた。
爽やかな五月晴れ。爽やかな風。爽やかな俺の気持ち。
そして、爽やかな戦いの女神の笑顔。
こんな爽やか尽くしで終わるゴールデンウィークも爽やかだよな、と俺は思った。




