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ダブルデートをありのままに(前半)

 今日は、二〇二三年四月十五日(土曜日)のダブルデートを時系列で。



・午前六時~午前七時


 俺と戦いの女神、午前六時に起床。

 後輩と彼女さん、午前六時に来宅。


「昨夜、家に来るの朝の八時ごろって言ってなかったか!?」

「ダブルデートが楽しみで早く目覚めたんで、来たっす」

「あたしも早く目覚めたっす」


 お前ら、遠足が楽しみ過ぎて朝早く目覚める小学生か。


 俺と戦いの女神、大急ぎで準備。

 大粒の雨の降る中、物置に向かって黒猫にタマとの今日の三食分を用意した場所を教える。


「土曜日なのに、お仕事ですかニャ?」

「いや、仕事じゃない。戦いの女神も連れていくんで、留守番を頼む」

「わかりましたニャ。タマ様とゆっくりと過ごしますニャ」

「そうしてくれ」


 午前七時、後輩の車に全員乗って出発。


・午前七時~午前七時十分


 車内にて。


「昨夜、戦いの女神と今日の予定を話してたけど、俺は話を聞いてなかったから、さっぱりわからない。後輩、今日はどんな予定を立ててるんだ?」

「車でいろんなところに行くっすよ。楽しみっすね」

「後輩よ。今日は一日を通じて悪天候らしいぞ。悪天候での車の運転は無理をせぬ方がよいのではないか?」

「大丈夫っすよ。先輩と女神さんは後部座席でゆっくりしてくださいっす」

「大丈夫っすよって、いま運転してるのは彼女さんじゃないか。それにこの車はお前のだろ」

「そうっす。でも、今日は彼女が運転するっす。だから、大丈夫っす」

「おまえ」


・午前七時十分~午前七時十二分


 午前七時十分、市役所着。

 土曜日なので、市役所の建物内に人の気配がない。

 駐車場にも俺たちの乗る車以外の車はない。


「市役所に何しに来た?」

「彼女と出会い、彼女に告白し、彼女と初デートに来た思い出の場所っす」

「ああ、それは知ってるよ。それで、誰もいない市役所に何しに来た?」

「市役所を眺めるっす」

「……はい?」

「しばらく市役所を眺めるっす。ここからダブルデートのスタートっす」


 デートで市役所を眺めるなんて聞いたことがない。

 そんなの何が楽しいんだ。


・午前七時十二分~午前七時十七分


 戦いの女神が運転席と助手席の間に身を乗り出し、彼女さんに顔を向ける。


「失礼でなければ、出会って日が浅いので、色々と訊いておきたいことがある。訊いてもよろしいか?」


 俺も知りたかった彼女さんについての質問。

 彼女さん、大きく頷いてポニーテールを跳ねさせる。


「よろしいっす」

「感謝する。後輩はおっさんと同じ会社で部下として働いておるが、貴女はどのような仕事に就いて生活の糧を得ておるのだ?」

「ここで働いてるっす」


 彼女さんが市役所を指差した。


「市役所で働いておるのか。と申すと、公務員か?」

「そうっす。地方公務員っす。市民課で窓口を担当したり、事務処理をしたりしてるっす」


 驚いた。後輩の彼女さんが公務員だったなんて。


「後輩と市役所で初対面を果たしたと申しておったな。それは貴女のいまの仕事と関係があったのか?」

「今から三年前っす。彼氏が用事で市民課の窓口に来たとき、あたしが担当だったっす。その時に彼氏と知り合って、数週間後にやっぱ窓口担当をしてる時に告白され、その次の日に市役所で初デートしたっす」


 驚いた。市役所の業務中の窓口で相手に告白する人がいたなんて。


「そのような馴れ初めがあったのか。貴女は彼氏のどこに惹かれて告白を受け入れたのだ。二度目の出会いで告白を受け入れたのだろう?」

「ダメもとっす」

「ダメもと、とは?」

「あたし、告白したことはあるんすけど、告白されたことがなかったんす。だから、ダメもとで付き合ってみようと思ったんす。彼氏のどこかが魅力的だからじゃなくて、ダメもとっす」


 驚いた。相手からの告白をダメもとで受け入れる人がいたなんて。

 ダメもとで始まった交際が三年も続いてるなんて。


「お、おう」


 戦いの女神が、我は解せぬ、というような表情で俺の顔を見た。

 俺も解せぬ。


・午前七時十七分~午前七時二十分


「続けて、後輩にも尋ねる。後輩は彼女のどこに惹かれたのだ? 二度目の出会いで告白したのだろう?」

「感電っすね」

「感電、とは?」

「彼女を見たとき、感電みたいにビビビって体と心が痺れたっす」

「つまり、彼女を一目見て恋に落ちたということだな」

「ちがうっす。感電みたいにビビビって体と心が痺れたんで、クラゲみたいな女性だなって思ったんす。それでクラゲみたいな女性と付き合ってみたいと思って、告白したっす」

「……お、おう」


 戦いの女神が、我はさっぱり解せぬ、というような表情で俺をまた見た。

 俺も解せぬ。さっぱり解せぬ。


・午前七時二十分~午前七時二十五分


「あたしも女神さんに訊きたいことがあるっす。彼氏から聞いたんすけど、異世界から来たんすよね」

「申す通りだ」


 この期に及んで異世界から来た事実を否定しても、またはその話を止めようとしても、もう無駄だろう。


「異世界では神様だったんすよね?」

「我はいまも神ぞ」

「神様なら願い事を聞いて欲しいっす。明日も彼氏と二人きりでデートするんで、明日こそは晴れさせてほしいっす」

「我は天候を操る神ではないぞ。戦いの女神ぞ!」

「そこをなんとかしてほしいっす」

「無理なものは無理だ!」


 天気の女神にさせられた戦いの女神、八つ当たり気味に俺の太腿に怒りの拳を振り下ろした。


 俺は無罪だ。


・午前七時二十五分~午前十一時五十五分


 午前七時二十五分、眠たそうに欠伸をした後輩と彼女さんが眠りに入る。

 慌てて、寝るなよ、と止めたものの、彼女さん曰く、朝が早かったんで眠いっす、後輩曰く、五分だけ眠らせてほしいっす、と。


 しかたなく五分だけ眠らせて起こそうとしたが、後輩と彼女さん、完全に熟睡モード。

 その後、戦いの女神と一緒に二人の肩を揺らしたり、大声を出して起こそうとしたりしたが、まったく覚醒せず。


 大粒の雨が車に打ち付ける音と二人の寝息を聞きながら、無為な時間が過ぎていくのを感じる。


「おっさん、どうするのだ?」


 苛立ちと困惑の入り混じったような声で訊いてきた戦いの女神。

 苛立つ気持ちと困惑する気持ちはよくわかる。

 なにが悲しくて、大粒の雨粒が流れるフロントガラス越しに市役所を眺め続けなくちゃいけないんだ。


 呆れと諦めの入り混じった気持ちで戦いの女神にこう答える俺。


「どうするったって、ここで二人を置いて帰るわけにはいかないだろ。雨も強まってきたし、風も出てきたし、傘を差しても濡れそうだし。ここから家まで相当歩くし」

「そうは申すが、この二人はいつ目を覚ますのだ。目を覚ますまで、我とおっさんは黙って待つほかないと申すのか」

「かと言って、手荒な真似はできないだろ」

「二人が眠り出して、もう二時間ぞ。我とおっさんは二時間もこうしておるのだぞ」

「昼前になったら、腹が減って目を覚ますと思うんだよね」

「昼を過ぎても起きぬ場合はどうするのだ」

「そのときは……俺と戦いの女神の分だけの昼飯をウーバーで頼むか」

「おっさんは呑気だな」


 戦いの女神が本日二度目の俺の太腿殴打事件を起こしたあと、ふて寝に入る。

 俺は無罪だ。


 俺もスマホで暇をつぶしていたけれど、眠たくなったので寝に入る。

 果報は寝て待て。


・午前十一時五十五分~午前十一時五十七分。


「先輩! 女神さん! 起きてっす! 昼飯を食いに行くっすよ!」


 午前十一時五十五分、後輩の大声で目を覚ます。

 目を覚ますと、彼女さんが車のエンジンをかけようとしていた。

 戦いの女神も目を覚まし、けだるそうに背伸びした。


「すっかり眠っちゃったなぁ……昼飯はどこに食べに行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみっす」


 午前十一時五十七分、出発。


 後半に続く。

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