オンライン辞書vsAI 仕掛け人は後輩
今日は出社日。
昼は後輩を連れて、職場近くの牛丼屋に食べに行った。
牛丼を先に食べ終わった俺は後輩が食べ終わるのを見計らって、
「お前に訊きたいことがある」
と、切り出した。
後輩はコップの中の水を一気飲みしてから、
「急に改まって、どうしたんすか? 女神さんとなにかあったんすか?」
「まぁ、戦いの女神を含めて、だ」
「ついに女神さんとの結婚を決意したんすか?」
後輩は戦いの女神がいつまで経っても異世界に戻らない、いや、まだ戻れないので、このままこちらの世界で生き続け、いつか俺と結婚すると思い続けているらしい。
俺は否定するように顔を横に振る。
「結婚を決意したわけじゃない。俺は人間で、あいつは神だ。結婚できるわけがない」
「ああ、とうとう手を出しちゃったんすね」
昼間からなに言ってんだ、こいつ。
「手を出すわけがないだろっ。そんなことしたら、俺たちのことを全年齢向けに伝える事ができなくなるじゃないかっ」
「先輩、なに顔を赤くしてるんすか。手を出すって、そういう意味じゃないっすよ。先制パンチを出したという意味っすよ」
「紛らわしいわっ! そういう意味でも手を出してないわっ!」
このまま後輩のペースに巻き込まれると、訊きたいことを訊けずに昼休みが終わってしまう。
俺は昨日と一昨日の家での出来事を後輩に話した。
つまり、戦いの女神や黒猫のAIに対する関係性だ。
戦いの女神はAIを論破しようと戦いを挑み続けている。
あわよくば、AIの息の根を止めるために俺のノートパソコンを壊そうとしている。
黒猫はAIに教え助ける立場を奪われたと嫉妬し続けている。
AIをプログラム的に破壊してほしいと俺に頼んできた。
俺はそこまで一気に話し、後輩に訊きたかったことを口にした。
「後輩はAIに対してどう思ってる? 俺たちの会社も『ChatGAT』の導入と活用を検討してるだろ。だから、その点を先輩として訊いておきたいんだ」
これまで、AIチャット『ChatGAT』についてはもちろん、ほかのAIについて、後輩とまともに話す機会がなかった。
この際だから、後輩がAIに対してどう思っていて、どう捉えているのかを確かめておきたかった。
もしも後輩が戦いの女神や黒猫と同じようにAIに過激な好戦的言動を示すのであれば、こちらも対策を講じなければならない。
「そうっすね」
後輩は考え込むように腕を組んだ。
「俺もプライベートで『ChatGAT』を使ってるんすけど、超便利っすよ」
「後輩も使ってたのか。俺もたまに使ってるけれど、確かに便利だよな。そんで、プライベートでどんな使い方をしてるんだ?」
「漢字の読み方っすね。これでよく使うっす」
後輩はのんきそうな顔でのんきに口にした。
「・・・・・はっ?」
「ネットニュースとかブログとか読んでると、読み方がわからない漢字が出てくるんすよ。なので、その漢字をコピペして、読み方をチャットで教えてもらってるっす」
なんだ、その使い方?
AIの能力を無駄遣いしてるような使い方じゃないか。
「いや、待て待て待て。オンライン辞書があるだろ。どうして、そっちを使わないんだ?」
「AIにチャットで訊くと、答えてくれるからっす」
「そりゃチャットで聞いたら、答えてくれるだろうよ」
「学校で習わなかった漢字の読み方まで知ってるんすよ、AIは」
「そりゃ常用外漢字も知ってるだろうよ」
「じょうようがいかんじって、どういう意味っすか?」
うーん……。
「意味は……AIにチャットで訊いてみてくれ」
「わかったっす。意味の分からない言葉もAIにチャットで訊いてるっすから、それも訊いてみるっす」
「オンライン辞書を使えって」
「あと、漢字の部首を調べる時も訊いてるっす」
「オンライン辞書を使え」
「漢字の画数を調べる時も訊いてるっす」
「オンライン辞書を使いなさいって」
大人が日常生活の中で漢字の部首や画数を調べる時って、なかなかないだろ。
AIの使い方と同時にそれも突っ込みたかったが、切りがないので、
「まさか、俺の会社に『ChatGAT』が導入された時にもオンライン辞書代わりに使うつもりか?」
「そうっすね」
そうっすね、じゃねえわ。
のんきそうな顔をして、のんきに言うなよ。
そんな使い方をしてたら、AIの能力と導入予算の無駄遣いになるわ。
いやぁ、後輩にAIについて訊いておいてよかった。
これで事前に対策を講じられる。
どんな対策かって?
後輩にAIをオンライン辞書代わりに使わせないようにする教育だ。
一度、後輩と戦いの女神、黒猫にAIの使い方などに関する教育をやっておいたほうがいいかもしれないな。
俺もAIの使い方に関して誰かに教育できるほどのレベルではないけれど、後輩たちよりは有効に使っている。
「後輩、明日は予定があるのか?」
「ないっすよ」
「そしたら、明日の午後、俺の家に来い。AIの正しい使い方を教えてやる」
「わかったっす」
後輩はやはりのんきそうな顔でのんきに言った。




