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同居人は戦いの女神さま  作者: あしのクン
シーズン1
50/72

感覚

 夕食と入浴を終え、炬燵に入ってテレビを見ながら寛ぎタイムを過ごしていた時だった。


「おっさん、明日はこの寒さが和らぐようだな」


 ぶっ壊されるかもしれない〇HKの天気予報が終わった後、戦いの女神が膝に乗った黒猫の背中を撫でながら呟いた。


 背中を撫でられている黒猫は目を閉じて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

 一見すると喉を鳴らしている黒猫はそのまんま猫なんだけど……信じられるか、こいつ、異世界では戦いの女神のシモベの一人だった精霊なんだぜ。

 この世界に来て、精霊は黒猫の姿で猫を堪能している。

 でもね……これも信じられるか、こいつ、猫なのに日本語を話すんだぜ。

 キャットフードより特上マグロの刺身はやっぱり美味しいニャー、てな具合に。

 あと、ムーンウォークとかきつねダンスもできる、というね。


 俺は気持ちよさそうに目を閉じている黒猫を見ながら、


「少しは気温が上がるみたいだな。でも、寒さはこれからが本番だ」


 〇HKの天気予報によると、明日一月十八日の最高気温は今日の最高気温よりも五℃くらい上がるらしい。


「これからもっと寒くなるのか?」

「来月二月にかけて寒さが強まる。これからが寒さの本番だよ」

「そうなのか。寒さは二月以降も続くのか?」

「いや、三月になれば徐々に暖かくなる。寒さも二月までの辛抱だよ」

「そうか。安心した」


 戦いの女神がこの世界に追放……ではなくて、颯爽と現れたのは、去年の九月十一日の日曜日。

 今から約四か月前の出来事だ。

 つまり、戦いの女神は日本の一年を経験していない。


 日本人の俺たちには冬の寒さは何月まで、春の暖かさは何月まで、夏の暑さは何月まで、秋の涼しさは何月まで、と言うふうに感覚的に大雑把に答えられる。


 けれど、戦いの女神にはそういった感覚がない。

 異世界の天空の世界から追放……ではなく、それまで異世界の天空の世界に君臨していた戦いの女神が、約四か月の間に日本の四季を感覚的に理解できるわけがない。

 下手したら、この世界に颯爽と現れた時は暑かったけれど、これからはずっと寒い時期が長く続く、と思い込んでも不思議ではない。


「戦いの女神は寒さが苦手か?」


 そう訊くと、戦いの女神は睨んできて、でも、すぐに柔らかく笑って、


「苦手ではない。しかし、寒さが続くと重ね着をせねばならぬだろう? それが窮屈で仕方がないのだ」

「重ね着をすると、どうしても動きづらくなるもんね」

「重ね着をした分だけ洗濯量が増える」

「平日の洗濯、本当にありがとうございます」


 俺は戦いの女神に深々と頭を下げた。


「それにだ、」


 と、戦いの女神が眉間に皺を寄せて、


「炬燵や暖房の使用で電気代が高くなる。風呂の湯の設定温度を高めにしなければならないし、食器を洗う時の湯の温度もそうだ。必然的にガス代も高くなる。その分だけ出費が増える」

「仰られる通りで」

「暖かくなるまで、ほかの部分で出費を抑えねばならぬ。我のいた世界の下界の者たちも『金が尽きれば天命が尽きる』と申しておった。おっさん、金は大切ぞ」

「まさに仰られる通りで」


 いつの頃からか、我が家の家計をノートパソコンのエクセルで計算し始めた戦いの女神の言葉は重い。

 俺は我が家の財政健全化の女神……ではなく、戦いの女神に何度も深々と頭を下げた。


 日本の四季を感覚的に知らなくても、お金の大切さを感覚的に知っていた戦いの女神。

 そんな戦いの女神に背中を撫でられていた黒猫が、ニャアアアア、と大あくびした。

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