お、おう
戦いの女神が我が家で過ごすようになって、今日で五日目。
多少は環境に慣れ、緊張と警戒心が緩んだらしく、あれやこれやと好奇心を示すようになった。
「おっさん、この四角く薄い板のようなものはなんだ?」
「テレビだよ。電源をつけてみようか。こんな風に電源をつけると映像が流れる」
「こ、こやつらはいかにして薄い板の中に……???」
テレビ画面の中にいる芸人たちを睨んだかと思えば、テレビの裏側を確かめたり、拳でテレビを突き始めたりした戦いの女神。
テレビ番組さえ見たことのないわけだから、戸惑うのも仕方がない。
俺がテレビの仕組みをあやふやに説明すると、戦いの女神は「お、おう」と呟いた。
「それなら、このテレビよりも小さき薄い板のこれはなんだ?」
「ノートパソコン。これで文章やグラフを作ったり、インターネットに接続してメールを送ったり、遠くの人とリアルタイムで会議したりできる」
「お、おう」
ノートパソコンを拳で叩こうとして俺に阻止された戦いの女神は、別の部屋に置いてある洗濯機を指差す。
「この大きな樽のようなものは?」
「洗濯機だよ。蓋を開けて衣服とか下着とかを洗剤や柔軟剤と一緒に入れると、自動的に洗濯をしてくれる」
「この洗濯機があると、川や湖で洗ったりせずとも済むのだな」
「戦いの女神がいま着てるジャージとかを洗濯機で洗濯すると、一日で綺麗になる」
「お、おう」
洗濯機をコツンと軽く裏拳で叩いた戦いの女神が次に指差したのは天井照明。
「あの眩い灯りはどの部屋の天井にも貼りつき、眩しく照らし出しておる。夜になっても、あの灯りのおかげで昼間のように明るい。なにがどうなっているのだ?」
「あれはね、」
と俺は天井照明については家具屋の店員さんの説明を思い出しながら話し、電気については小学生が理解できるくらいの説明でその場を乗り切った。
「つまり、その電気がなければ、テレビもノートパソコンも洗濯機も天井照明も生きられぬということだな」
「電気を利用する器具は他にもあるよ。電気がなければ動かない器具もある。もし電気のなくなった時代が来たら、俺たちの生活も相当不便になるね」
「お、おう」
「戸惑いながら、天井照明に昇竜拳しようとするなって」
戦いの女神は電気の存在に戸惑いつつも、好奇心の行くままにあれやこれやと指差した。
スマホ、冷蔵庫、エアコン、扇風機、空気洗浄機といった電気を必要する器具のほか、タンス、本棚、キッチン用品、蚊取り線香といった家の中に存在するものすべてを指差し、俺が説明すると「お、おう」と呟き、拳で叩いたりしていた。
時間を費やして説明を終えた後、寝るために自家用車に向かおうとした時、戦いの女神に髪の毛を掴まれて引っ張られた。
振り向くと、戦いの女神は嬉しそうな表情で、
「おっさん、いろいろと教えてくれて感謝する」
と言うと、逃げるように寝室に駆け込んでいった。
その場にひとり残された俺が思わず呟いた言葉はこれだ。
「お、おう」




