戦いの女神さんちの黒猫さん
今日も今日とて、戦いの女神さん。
出勤前、『電話を使ってみたいのだが』と唐突に電話に関心を持たれた、戦いの女神さん。
電話の使い方と俺のスマホの電話番号を教えると『なるほど』と頷いた、戦いの女神さん。
黒猫に『精霊も電話を使ってみるがいい』と言っていた、戦いの女神さん。
午前の仕事中に何度もスマホの着信音を鳴らしてくれた、戦いの女神さん。
昼休み、何度も自宅に電話しても出てくれない、戦いの女神さん。
午後の仕事中に何度もスマホの着信音を鳴らしてくれた、戦いの女神さん。
仕事が終わって車に乗り込み、自宅に電話しても、やっぱり出てくれない、戦いの女神さん。
家に帰る途中、俺のスマホに電話を掛けてこなかった、戦いの女神さん。
家に帰ると『おっさんに電話をしても通じないのだが』と苛立つ、戦いの女神さん。
俺が電話に出られなかった理由を話すと『なるほど』と納得された、戦いの女神さん。
逆に電話に出てくれなかったことを尋ねると『我が電話を掛けていないのに、電話が勝手に鳴り出した』と答えた、戦いの女神さん。
自宅に電話に掛けたんだよ、と言うと『なぜ掛けていたのだ?』と首を傾げた、戦いの女神さん。
スマホに電話が掛かってきたから折り返しでしたんだよ、と言うと『我は自宅に電話を掛けろと申してはおらぬ』と不満顔の、戦いの女神さん。
もう面倒なので、あれだけ電話を掛けてきたら心配して掛け直すものなんだよ、と言うと『そういうものなのか』と頷いた、戦いの女神さん。
さらに、電話が掛かってきたら電話番号が表示される電話機のディスプレイを見ろよ、俺のスマホの電話番号だったら出ればいいんだよ、今朝、俺のスマホの電話番号を教えただろ、と言うと『承知した』と頷いた、戦いの女神さん。
「それで電話してきた理由は?」
「精霊がいなくなったのだ。それを伝えるために、何度も電話をしたのだ」
「はっ?」
そういえば、帰宅してから黒猫の姿を見ていない。
出勤前に二本足で立って見送ってくれたのは見た。
「いつからだ?」
「おっさんが仕事にでてからだ。外に出て散歩に出たいと申したので、ひとりで散歩に出かけた。それきり、この家に帰ってこぬ」
「黒猫を一匹で散歩に出させたのは、今日が初めてか?」
「そうだ」
「とりあえず、二人で家の周辺を捜すぞ」
「承知した」
俺は戦いの女神と別れ、黒猫を捜すために家の周辺を歩き回った。
散歩に出かけて迷子になるほど、方向音痴ではないはずだ。
だとすれば……。
自宅に帰ると、まだ戦いの女神は帰宅していなかった。
戦いの女神が帰ってきたのは、俺が帰宅してから三十分後だった。
「見つかったか?」
「おらぬ。おっさんはどうだった?」
「見つからなかった」
「精霊が自宅に電話を掛けてくるということはないか?」
「スマホもお金もテレホンカードも持っていない黒猫が、自宅に電話を掛けることはできないよ」
「こちらから電話を掛けるということは?」
「スマホも携帯も持ってないしなぁ」
「うむ……」
今も黒猫は行方不明だ。
俺は明日も仕事なので、まもなくリビングに敷いた布団に入る予定だ。
戦いの女神はキッチンで黒猫の帰りを待っている。




