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同居人は戦いの女神さま  作者: あしのクン
シーズン1
39/72

説教タイム

 昨夜、読者の皆様に宣言した通り、これから戦いの女神と後輩に説教する。

 戦いの女神と後輩に説教したいことを一つずつ絞っている。

 匿っている立場として、会社の先輩として、それをガツンと言ってやる。

 レッドラインを超えたら怖いということを知らしめてやる。


 俺は黒猫を抱えて、戦いの女神と後輩の前に仁王立ちした。

 説教を受ける覚悟を決めたかのように、二人は正座し、こうべを垂れ……てないんだわ。

 戦いの女神はつまらなそうな顔をして、胡坐をかいちゃってるし。

 後輩にいたっては呑気な顔をして、まるで我が家のように寝転んでるし。


「後輩、さすがに座ってくれ」

「わかったっす」


 後輩が座ってから、俺は大袈裟に咳払いをしてみせた。

 よくあるでしょ。

 身分が上の人が大袈裟に咳払いをして、シーンと静まり返らせたり、注目を集めさせたりするでしょ。

 あんな感じ。


「おっさん、風邪か?」

「先輩、ゴホンといえば龍〇散っすよ」


 体を労わってくれるのは嬉しいけれど、そうじゃない。


「俺は風邪をひいていない。今は龍〇散に世話になる状態でもない。だから、安心してくれ」

「おっさん、無理するな。無理をすると、頭髪の抜け毛が増加するらしいぞ」


 養毛剤をただの水にしたのは誰だ。


「先輩、ゴクウといえばドラゴ〇ボールっすよ」


 悟空ゴクウといえばドラゴ〇ボールだけど、太陽拳を使えるクリリンを忘れるな。


「わかった。わかったから、俺の説教を聞け」

「おっさんこそ、我の話をよく聞け。朝の枕元の清掃が面倒なのだ。頭髪の抜け毛を減らす努力をしろ」


 俺だって抜け毛を減らす努力はしてるんだ。その努力を水の泡にしたのは誰だ。


「先輩、ゴといえばゴっすよ」


 ゴはゴに決まってるだろ。ゴがアだったら驚くだろ。


 もういい。なかなか説教に入れないから、俺はキレる。おっさんだけど、キレる。

 キレるおっさんがネットニュースで社会問題として取り上げられているけれど、俺はもうキレるオッサンになる。


 俺はキレて怒鳴るために限界まで息を吸って、怒鳴ろうとした直後!


「ゲホ! ゲホ! ゲホ!」


 意味不明の咳が出た。三回も出た。

 大きな声を出そうとした直後に意味不明の咳が出ることってあるでしょ。

 そう、そう、それ、それ。それなんです。


「おっさん、大丈夫か? その咳で頭髪の抜け毛が散らばらないか?」

「先輩、ゴリラといえばライオンっすよ」


 もういい。俺はもうキレない。意味不明の咳が出るから怒鳴らないし、突っ込まない。

 咳だけで頭髪が抜けるほど、俺の毛根は弱ってないしな。

 しりとりが終わってるけどな。


 俺は黒猫を抱えたまま、その場で正座した。

 そして、二人と視線を合わせた。


「いいですか。俺の説教をきちんと聞いてください」

「おっさん、急に畏まってどうしたのだ? なんだかキモいぞ」

「先輩、ンといえばングラ・ライ国際空港っすよ」


 まずは、しりとりを再開させた後輩に説教を。


「あなたは俺や上司、先輩がまだ仕事をしているのに定時で上がりましたね」

「そうっす」

「あなたの仕事のミスとあなたの仕事を丸投げにして、定時で上がりましたね」

「上がったっす」

「それは許されないことですよ」

「そうっすね」

「明日、俺と上司とあなたの三人で、あなたの仕事のミスで迷惑を掛けた取引先に謝罪をしに行くことになりました」

「そうっすか」

「責任を痛感してくださいね」

「痛感するっす」

「謝罪した後に始末書を書いてもらいます。これは業務命令です。始末書を書き終えるまで帰れません。俺も帰れません。ですので、そのつもりで、明日は出社してくださいね」

「わかったっす」

「深く反省してくださいね」

「反省するっす」


 呑気な顔をして親指を立てた後輩。

 何もわかってないだろうな、やっぱり。


 次に、俺を気味悪そうに見つめている戦いの女神にとびっきりの笑顔で説教を。


「戦いの女神さんの文章力は上達しましたね。俺は匿っている立場として嬉しいです」

「お、おう……笑顔がキモいぞ」

「さらに散歩中でも全力で走る描写に感激しました。寒ければ、散歩でも全力で走ればいい。匿っている立場として、それは大きな知見でした」

「お、おう……その目が笑っていない笑顔はやめろ」

「しかし、匿っている立場として申し上げておきたいことがあります。俺の私用品を勝手に扱わないでいただきたい」

「お、おう」

「養毛剤はとても大事に使っていた私用品です。その私用品を勝手に扱われ、ただの水にされてしまったことに憤りを感じています」

「承知した。承知したから、そのキモい笑顔はやめろ」

「いいえ、やめません。例えば、戦いの女神の私用品である槍と鎧を俺が勝手に扱い、ただの折れた棒とただの傷ついた塊としてしまったら、どう思いますか」

「それは困る! あの槍と鎧は我が戦いの女神であるあかしなのだ!」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも。それと同じことですよ。ですので、俺の私用品を断りもなしに勝手に扱わないでくださいね」

「我の槍と鎧はおっさんにとっての養毛剤なのだな。承知した。これからは養毛剤のほか、おっさんの私用品を断ることなく勝手に扱わぬ」


 俺の養毛剤が戦いの女神の槍と鎧と同じ価値があるかどうかは知らない。

 けれど、戦いの女神は俺の私用品を断りもなく扱うことをしないと言った。


 とりあえず、二人の説教はこんなものだろう。

 後輩はこれ以上の説教をしても、明日にならなければ、事の重大さを知らないだろうし。

 戦いの女神は養毛剤を含めた私用品を断りもなく勝手に扱うことはないだろうし。


 俺は抱えている黒猫にトリを取ってもらおうと思った。

 なぜなら、黒猫には説教する必要がなかったからだ。

 黒猫は俺の腕の中で眠っていた。


「女神様は寝言がうるさいニャ……家主様はいびきがうるさいニャ……安眠できないニャ……」


 黒猫は俺にしか聞こえないほど小さな声で寝言を言っていた。

 戦いの女神の寝言も酷いが、どうやら俺のいびきも酷いらしい。


 説教をしている立場として、俺のいびきが黒猫の安眠を妨げていることを知られるとまずいので、戦いの女神と後輩に時代劇の名奉行のような口調でこう言い放って終わらそうとした。


「これにて一件落着っ」

「……うるさいニャ……眠れないニャ……」

「あっ、ごめんなさい」

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