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同居人は戦いの女神さま  作者: あしのクン
シーズン1
30/72

「あ゛あ゛あ゛っ゛?゛」

「今日の昼飯は春巻き定食じゃなくていいんすか?」

「しばらく春巻きは食べたくない。昨夜は春巻き尽くしで夢にも出てきた」

「だから、寿司を買ったんすか?」

「本当は刺身を食べたい気分だけど、会社で刺身を食うのもなあって」

「コンビニの寿司でいいんすか?」

「いいんだ。だから、後輩もここで食べるんだ」


 というわけで、コンビニのイートインで昼食を取る俺と後輩。

 俺はコンビニの寿司。後輩はコンビニの牛丼。

 こいつ、本当に牛丼が好きだな。

 俺も好きだけど。


「雨っすね」


 後輩が窓越しに外を眺めた。


 外は本降りの雨。

 朝は小雨程度だったんだけど、とうとう本格的に雨になってしまった。

 気温も下がりつつあるようで寒い。

 朝の天気予報で寒くなると言っていたので、一枚多めに着て正解だった。


 戦いの女神、まさか薄手の服装で毛布にくるまってないだろうな。

 黒猫、家の中でも寒がっていないかな。


「先輩」

「なんだ?」

「明日から三連休っすね」


 雨の話はどこにいった?


「そうだな」

「俺、明日からの三連休、彼女と二泊三日の旅行に出かけるっす」

「おっ。それは楽しみだな。彼女さんと楽しんでこい。お土産を期待しているぞ」

「期待しないでいいっす。勝手に期待されても迷惑なだけっす」

「はっ?」

「この三連休、先輩は戦いの女神さんとどっか出かけるんすか?」


 後輩に突っ込んでおきたいことがあるが、そこはスルーで先輩の懐の深さの見せどころ。

 俺は引き攣った笑顔を見せつつ、明日からの三連休の予定を思う。


 実は三連休初日となる明日以外の予定は決まっていない。

 唯一、予定の決まっている明日は、家族の一員となった黒猫に必要な物を買いに行くつもりだ。

 食器、ゲージ、爪とぎ、おもちゃ、ペットシート、トイレ、などなど。

 必要な物を買っておいて、様子を見て必要な物が出てくれば、その度に買う予定だ。


 出費が重なるが、大切な家族のためだ。


「実はさ、野良の黒猫が我が家の一員になったんだ」

「あ゛あ゛あ゛っ゛?゛」

「『あ゛あ゛あ゛っ゛?゛』!?」


 びっくりした。

 初めて聞く後輩の叫びにびっくりした。

 いや、突然、本当になんだ?

 なんだ、今の後輩の叫びは?


「いつからっすか?」

「あの……まっ、正式には十月五日だな」

「先輩は犬派だったっすよね?」

「そんなに驚いた顔をするなよ。まっ、俺も猫の可愛さに心射抜かれるとは思わなかったけどな」

「信じられないっす」

「そうだろ」

「あ゛あ゛あ゛っ゛?゛」

「だから、その『あ゛あ゛あ゛っ゛?゛』ってなんなんだ?」


 いや、本当になんなんだ。


 そりゃ俺だってさ、『あ』『?』に濁点を付けたような声で叫びたいと思う時はたまにあるよ。

 自分のミスが発覚した時の上司が、はいはい☆てへぺろ、ミスは誰にでもある☆てへぺろ、と流そうとした時にね。


 そういう意味でこの後輩の反応は異常だ。

 黒猫が我が家の一員になったと聞いただけで、この反応だもん。

 後輩は犬派でもあり、猫派でもあるんだけどなぁ。


 明日からの彼女との三連休でテンションが高いんだろ、きっと。

 きっと、そのためだ。

 そういうことにしておこう。


「明日は黒猫に必要な物を買いに行く。明後日以降は未定」

「そうなんすか」


 後輩は異常な反応を示さず、俺の寿司のガリを食べた。

 『あ』『?』に濁点をつけたような叫び声を上げそうになったけど、俺は我慢した。

 懐の深い先輩を見せるために。


 ちょっとした苛立ちを抱えながら帰宅し、家の中に入ると無性に暖かい。

 外が寒くても、いくらなんでも暖か過ぎる。

 食器乾燥機の中に小皿があるのが気になるけれど、それ以上にこの暖かさのほうが気になる。


 リビングのドアを開けると、真夏のような熱気が来た。

 真夏だ。リビングに季節に逆行した真夏があった。真夏のリビングだ。


 リビングに真夏をもたらしたもの。

 それはフル起動のエアコン。

 リモコンで設定温度を確認すると、MAX。

 まだ十月だというのに、MAX。


 そりゃリビングに真夏が来ちゃうよ。


 その真夏のリビングで寛いでいるのは、戦いの女神と黒猫。

 戦いの女神はTシャツ(下にブラ着用)に短パンを穿き、タオルで汗を拭いていた。

 黒猫は水の入ったお椀の横で、膨らんではへこむお腹を見せて大の字になっていた。


「帰ったか。仕事、ご苦労」

「ニャー」

「仕事、ご苦労、じゃねえよ。黒猫、だだいまニャー……でもねえんだよ。なんだよ、この暑さは!?」


 俺は流れ出た汗を拭きながら言うと、戦いの女神はペットボトルの水を美味しそうに、それはァそれはァ、美味しそうに飲んでから、


「今日は寒かったであろう。よって、エアコンでこの部屋を暑くしておるのだ」

「いや、その、あのね、今日は寒かったよ? でもさ、エアコンでここまで暑くすることないじゃないか!」

「エアコンをつけなければ、寒いではないか」

「そりゃ、Tシャツ(下にブラ着用)と短パンじゃ寒いだろ! 俺は言ったよな! 寒かったら、ここに服があるから着替えろって!」

「案ずるな」

「何がだ!?」

「この電気で生かされておるエアコンを使えば、着替える必要はない。我はそれに気づいた」

「……!!」


 戦いの女神の言う通りだ

 エアコンを設定温度MAXでフル起動させれば、Tシャツ(下にブラ着用)と短パンでも過ごせるだろう。


 でもな、金が掛かっているんだ。

 戦いの女神のために買った秋に着る衣服代。

 エアコンを使用する度に発生する絶賛値上げ不評中の電気代。

 それだけではないぞ。

 絶賛高止まり不評中の車のガソリン価格。

 ほかにも値上げされている物はあるけれど、きりがない。


 エアコンの適切な利用を教えなかった教育係のワタクシメにも非はあるだろう。

 でも、叫ばしてくれ。

 戦いの女神に叫ばしてくれ。

 懐の浅いおっさんだと思われてもいいから、叫ばしてくれ。


「あ゛あ゛あ゛っ゛?゛」

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