ルールを守る現場猫、ヨシッ!
昼過ぎに会社から家に戻ると、戦いの女神はタオルで槍を拭っていた。
「ずいぶんと丁寧に綺麗にしてるね」
「当然であろう。我はこの槍ひとつで戦ってきたのだからな」
槍は相棒みたいなものか。
「これお昼ご飯」
戦いの女神にミックスサンドイッチとぶどうジュースを手渡す。
実は昨日も同じものをあげた。
神様だから何も食べないだろうとスルーしていたけれど、腹が減ったと睨まれたので、西洋の神様っぽいからとパン類とぶどう系の飲み物をあげてみた。
戦いの女神は目を輝かせて大変お喜びになり、同じメニューを所望された。
「この世界のパンはふわふわしておる。野菜と薄い肉が挟まれたパンを食べたことがなかったが、とても美味である。ぶどうジュースも葡萄酒とは違う格別の味だ」
薄い肉とはハムのこと。
葡萄酒とはワインのことだね。
「まったくの美味であるッ!」
目を輝かせる戦いの女神がミックスサンドイッチとぶどうジュースを胃袋に収めるのを待ってから、俺は話を切り出した。
「これから同居するにあたり、守り事を決めておきたいんだ」
「守り事とは?」
「あなたは女神でも、俺から見れば年頃の女性。そして、俺はおっさんだけど、健全なおっさん。男女の火遊びを犯さない為にも守り事を決めておきたい」
戦いの女神は神妙な顔で首を傾げ、宙を睨み、そして、鼻で笑って溜め息を吐いた。
「そういうことか。我が世界にも姦淫に暮れる奴らがおった。余りにも見苦しいので、我が手で瞬く間に追放してやった。しかし、案ずるな。貴様が襲い掛かってきたら、この槍で成敗してやる」
戦いの女神との情事を赤裸々に投稿してアカウントBANになりたくないし、槍で刺されて死にたくもない。
そんな切なる思いを吐き出すように、俺は戦いの女神にこう伝えた。
我が家には脱衣所がない。入浴前後は声を掛け会おう。ヨシっ!
戦いの女神が寝る時は寝室を使用。俺は当面の間、自家用車で寝る。ヨシっ!
二、三週間に一回だけ、時間にして三十分だけでいいので、戦いの女神は俺の自家用車で待機。終わったら、呼びに行く。待機させた理由は聞かないこと。ヨシっ!
戦いの女神はいまは鎧を着ているけど、この世界の服や下着を着始めたら、俺は不純な気持ちで洗濯を干していると疑わないこと。ヨシっ!
「承知した。しかし、ヨシっ!とはなんぞや?」
「現場猫です。ヨシっ!」
神妙な顔で首を傾げる戦いの女神を連れ、水洗トイレの使い方、お風呂の使い方を教えた。
「我はトイレなど使わぬッ! 女神だからなッ!」
赤面してなに言ってんの、この戦いの女神。
「温泉でもないのに、温かい湯が出るではないか……ああ、戦いの疲れを癒してくれそうな湯だ」
蛇口から三十八度設定のお湯を両手に当て、うっとりとしている戦いの女神。
湯気がでているせいか、鎧に水滴がついてるんだけど錆びないのかな。




