戦いの女神の寝言
戦いの女神の寝言が凄い。
俺が自家用車から家の中で寝るようになって、それがわかった。
家の中で寝るようになったといっても、俺と戦いの女神が同じベッドで寝ているということではない。
戦いの女神は寝室のベッドで寝ている。
俺は寝室の隣のリビングに布団を敷いて寝ている。
二人は同じ部屋で寝ていない。もう一度、言う。二人は同じ部屋で寝ていない。
隣の寝室で寝ている戦いの女神の寝言を初めて聞いた時は驚いた。
声の大きさが寝言で言うようなレベルではなかったからだ。
大きな寝言を初めて聞いた時は、寝ぼけて枕を投げてしまったくらいだ。
その時の戦いの女神の寝言はこうだ。
「おっさん、魔物たちが攻めてきたぞ。その岩を投げよ!」
しかし、昨夜から早朝にかけての戦いの女神はいつも以上に凄かった。
実は起きていて、わざと寝ているふりをして俺を驚かせているんじゃないかってくらい。
だからといって、寝室を覗くようなことはしなかった。
本当に起きていて、寝室を覗き込んだ時に拳で殴られるのは嫌だったからね。
では、昨夜から早朝にかけての戦いの女神の寝言を幾つかご紹介しよう。
「おっさん、魔物が攻めてきたぞ。自家用車で侵攻を阻止せよ!」
「おっさんも空を飛べるようになったのか。愛い奴じゃ」
「何たる屈辱よ! おっさんがスマホを差し出せば、下界の者たちは救われたというのに」
「おっさん、お前が魔王だったのか! しかし、容赦はせぬ。我が槍を受けてみよ!」
「追放された身である我を天界に帰ることをお許しいただいただけではなく、このように温かく迎え入れてくれることに感謝致します」
「見ろ、おっさん。魔物たちがごみのようだ!」
「いつも感謝しているぞ、おっさん。そんなに喜び回るな。頭髪の抜け毛が酷くなるぞ」
「おっさんはもうひとつ地球が欲しいのか。任せておれ。地球のひとつやふたつ、我が誕生させてやるわ」
「サンドイッチを食べるな! このサンドイッチは売り物だぞ! まったく仕方のない奴だな、おっさんは!」
とまあ、昨夜から早朝にかけて寝室から大声で聞こえていたんですわ。
寝れないよね。
大きい声と寝言の内容が気になって。
おっさん、おっさんって呼ばれて。
おかげで今日は寝不足だった。
目の下にクマができた。
「寝れなかったのか、おっさん」
戦いの女神はすっきりした表情で起床し、朝食の準備に取り掛かった。




