相手は戦いの女神さま
昨夜、お酒の飲み過ぎで幻視と幻聴に襲われたって言ったでしょう?
そうそう、無駄に肌の露出の多い鎧を着た自称戦いの女神の女性が仁王立ちしてたって。
今朝、起きたでしょう?
リビングに行ったでしょう?
そしたら、その自称戦いの女神の女性が部屋の片隅で体操座りして俺を睨んだんだよね。
驚いたでしょう?
幻視でもなく幻聴でもなく、自称女神の女性が俺の家にいたんだよね。
「我の申すことを聞けッ!」
今日はテレワークの日だったから、仕事をしながらの話を聞いてあげたんだよね。
彼女はなんて話したと思う?
彼女が戦いの女神として君臨していた異世界に魔王がいて、その魔王を倒さんとする冒険者たちがパーティーを組み、冒険を始めたんだって。
しかしだ、冒険の進行が遅遅として進まんから、業を煮やした彼女が魔王を倒しちゃったんだって。
そしたら、魔王に冒険者たちに天空の神々から非難轟々。
そりゃそうだよね。
例えば、ロールプレイングゲームでレベルを上げている最中にレベチの奴が魔王を倒して、いきなりエンディングを迎えたら、クソゲーとしてSNS炎上間違いないもんね。
リアル炎上を経験した彼女は魔王に冒険者たちに天空の神々に追いかけられ、洞窟の中に隠れ、そのまま眠って目を覚ましたら俺の家にいた、と。
「我は悪くない……冒険者たちの不甲斐なさが悪い……魔王が魔王城に引きこもり、冒険者たちの到着を待っていたことが悪い……」
俺はね、エメラルド色の瞳を涙で揺らす彼女に同情してやったさ。
そして、彼女の異世界炎上話も信じてやったさ。
だってさ、喉元に槍を突き付けられてたんだもん。
これで話を否定してごらんなさいよ。喉元、グサッだよ?
やりかねないよ、彼女なら。
だって、魔王を倒した戦いの女神だもん。
俺はまだ死にたくないよ?
「すまぬが、しばらく匿ってほしい。迷惑はかけぬ。頼む」
もちろん、彼女を匿ってやることに同意したさ。
槍でグサッと刺されるの、嫌だもん。
仕方ないだろ? 相手は戦いの女神なんだから。
戦ったことのない俺が勝てっこないよ。
今、戦いの女神は何してるかって?
俺の寝室で鎧を着たままで大の字になって寝ていると思うよ。
そんなら、お前は何してるって?
自家用車の中にいますよ、それは。
驚いたでしょう?
家主なのに家ではなくて自家用車の中でいるなんて。
仕方ないでしょう?
相手は戦いの女神とはいえ、彼女は若い女性なんだ。
その若い女性に三十代後半のおっさんの俺が過ちを犯したら、炎上しかねないでしょう?
全年齢向けに話ができなくなるでしょう?
触らぬ神に祟りなしとも言うでしょう?
とりあえず、今夜は自家用車でこのまま寝る。
明日は出社する日だけど、半日で仕事が終わる。
午後からは彼女といろいろと話し合いの時間を持たないと。
それじゃあ、おやすみ。
また明日。




