エッセイ/私と戦いの女神と日曜日と
今日、戦いの女神が自宅に現れて三度目の日曜日になる。
戦いの女神と過ごし始めて、早いもので半月が経過しようとしている。
月日の流れは早いものだ。
ビールの苦みと酔いを味わいながら、私はあの日を思い出す。
自宅に現れて二日目、戦いの女神はこう言っていた。
私の喉元に鋭い槍先を突き付けながら、
「すまぬが、しばらく匿ってほしい。迷惑はかけぬ。頼む」
異世界から追放された戦いの女神の懇願を拒絶できようか。
私の喉元に鋭い槍先を突き付ける戦いの女神の懇願を拒絶できようか。
到底、私にはできない。
戦いの女神であっても、私の喉元に鋭い槍先を突き付けたとしても、だ。
彼女にとって異郷のこの世界に、たった一人で流浪させるわけにはいかない。
断じて、そうであってはならない。
私は戦いの女神の懇願を快諾し、匿うことにした。
戦いの女神は異郷のこの世界に好奇心を隠さない。
新聞や書籍を読むのも、テレビやYouTubeの視聴をするのも、私に深い質問を投げかけて答えを乞うのも、その好奇心を満たすためであった。
私は願う。
いつの日か、戦いの女神が異世界先に帰った時、天界の神々や下界の人々に胸を張ってこう言ってくれることを。
「我を匿ってくれたおじ様は誰よりも格好良かった。そして、おじさまのいた世界は素敵な世界だった」
(おわり)
……、……、……。
……、……。
……。
我ながら、このエッセイは傑作だ。
俺には文才があるかもしれない。
そんなことを思いながら両手を組んで背伸びをすると、両手首を掴まれた。
驚いて振り返ると、入浴を終えた戦いの女神が俺の両手首を掴みながらノートパソコンを凝視していた。
「いつから、俺の背後に?」
「随分と前からだ。我の気配に気付かず、間抜けな笑顔でキーボードを打っておったので、キモい奴だと思って声を掛けなかった」
「キモい奴って言い方、酷くないか?」
反論したら、戦いの女神が鼻で笑いおった。
「酷いのは、おっさんのこの文章のほうだ。日本には義務教育というものがあるらしいが、おっさんは義務教育から文章力を学び直したほうがよい。貴様もその文章もキモい」
「キモいとかいうな。というか、その言葉をどこで覚えた?」
「インターネットだ。しかし、おっさんのようにキモい奴は現実世界にもインターネットの世界にもいるものだな」
「そういうこと言うのやめなさい。炎上するから。異世界を炎上させたように現実世界でも炎上したいのか?」
反論したら、戦いの女神は自信ありげな表情で笑った。
「おっさんが炎上しても我が守ってやる。どんなにおっさんがキモくてもな」
「炎上するのはお前だ」