職場の後輩
今日の昼、同じ部署の後輩と職場近くの牛丼屋に食べに行った。
後輩は二十代後半で、タイプが体育会系。
体育会系なので社交的でいいが、調子に乗り過ぎて俺や先輩方に怒られることもある。
「先輩、ちょっと訊いていいっすか?」
お互いに牛丼を食べ終えた後、後輩が尋ねてきた。
「業務のことか?」
「違うっすよ~。最近の先輩の様子の変化のことっす」
「俺の?」
後輩に指摘されるような俺自身の変化ってなんだ?
俺は職場での最近の自分の言動を頭の中で振り返る。
最近はちょいミスしてないし、報連相を滞りなく実施しているし、後輩を厳しくしかった覚えもないし。
「そうっすよ。最近、女子社員の先輩方がこう言ってるっすよ。最近の先輩は明るくなったなぁって」
「明るくなった?」
「実は俺も先輩が明るくなったって感じてるっす」
うーん。ますますわからない。
「やっぱ先輩は自分の変化に気付いてないようっすね~。先輩、女子社員と話をするのが苦手っしょ」
「そうでもない」
と言ったものの、意識して言葉を選んで話しているのは確かだ。
俺の発言で不愉快にさせないためにもね。
でも、それが苦手というほどでもない。
だって、当然のことだから。
「そうっすか~? そうっすか~? そうっすか~?」
本当にあいかわらずウザいな。
「いいから早く話を続けろ。昼休みがなくなるぞ」
「なら言っちゃいますけどね~、先輩の明るくなったという変化は、女子社員の先輩方とフランクに話せるようになったってことっす。俺もそう感じてるっす」
「ちょっと待て。俺がフランクに話すようになったということが、俺が明るくなったっていう変化か?」
「そうっす」
ますますわからん。
言葉を選びつつも、誰へだてなくフランクに話をしてきたつもりなんだけどな。
「実は俺、先輩の変化は彼女ができたからじゃないかって睨んでるんすよ」
「彼女?」
思わずむせた。
俺に彼女ができた?
そんなわけがない。
俺に彼女がいないことは、読者の皆さんもよくご存じですよね。
「先週から先輩がフランクに話すようになったという点においては、俺も女子社員の先輩方も同じ意見っす。つまりっすよ、先週、先輩に彼女ができたっていうのが、俺の推理っす」
推理って、おまえは名探偵のつもりか。
「彼女ができたことと女子社員とフランクに話せるようになることが繋がるのか?」
「当然っす。つまり、先輩が女性慣れしたってことっす」
「馬鹿言うな」
まっ、それはともかくとして。
俺は意識せずとも、後輩や女子社員の目からは変化があったようだ。
しかも、先週から急激に。
先週、何があったっけ。
あっ。先週、大きな出来事があった。
戦いの女神と同居を始めた週だ。
いや、まさか。
戦いの女神は神さまだけど、性別は女性になる。
でもさ、戦いの女神と同居し始めて、まだ一週間ちょいだぜ。
同居の影響が職場での俺の変化として出てくるってことがあるか?
もしかして、後輩の指摘通りに女性慣れしたってことか?
「どうっすか? 俺の推理、当たってるっすか? 当たってるに決まってるっすよね? 今度、彼女と会わせてくださいよ。未来の先輩の結婚候補と会わせてくださいよ。俺、先輩をとことんまで推して、結婚に導くっすよ。先輩もそろそろ結婚しないとヤバいっすから。ここで結婚を逃すと、年老いた先輩を俺が面倒見なきゃいけなくなるっすから。頼みますよ、先輩。ここで今の彼女と結婚を決めちゃってくださいよ」
いろいろと突っ込みを入れる必要があるが、俺は一点だけに絞った。
「後輩、悪いな。俺に彼女はいないんだ。このまま結婚できなかったら、俺の面倒を見てくれ。頼むぞ、後輩」
仕事から帰宅後、戦いの女神にこう尋ねた。
「戦いの女神と同居を始めてから、俺になにか変わったところがある?」
戦いの女神はこう即答した。
「そうだな。忠義の高き我がシモベになったところだろうな」
我が後輩、俺は戦いの女神のシモベらしいぞ。
俺の老後の面倒を頼むぞ。
……しかし、シモベって。