コンビニ
三連休最終日の午前。
俺は戦いの女神を連れて、近くのコンビニに歩いて行った。
目的はふたつ。
一つ目は、いつも買っている週刊スポーツ雑誌と缶ビールを買いに行くこと。
二つ目は、戦いの女神にコンビニの利用方法、商品の買い方、お金の払い方を教えること。
俺が仕事で家にいない時でも、戦いの女神ひとりで買い物ができるようにしておきたい。
「お金を払えば、ここに並べられている物を買えるのだな?」
「お金があればね」
戦いの女神に財布の中身を見せる。
いつ見ても札の少ない寂しい財布だ。
「お金がなかったら、買えぬのだな?」
「当然」
「お金がなかったら、店員を槍で倒して奪えばいいのだな?」
好戦的な眼差しで店員を見据える戦いの女神。
こいつ、誰に好戦的になってるんだ。
「やめてね。それ、コンビニ強盗の発想だから。店員さんは倒すべき相手でもないから」
「それなら、この拳で?」
俺に拳を見せつけてきた戦いの女神。
店員さんを何者だと思ってるんだ。
拳で店員さんを殴ったりしたら、大変なことになる。
異世界炎上女神を現実世界炎上女神にさせるわけにはいかない。
「駄目だから。お金が無くなったら、俺に言ってくれ。戦いの女神は『神さま』なんだから、誰かに迷惑を掛けるような悪事を働かないでくれ」
「承知した」
買い物かごの中に雑誌、サンドイッチ、缶ビール、ぶどうジュースが入れられていく。
買い物を済ませて、レジへ。
「いらっしゃいませ、おはようございます。レジ袋はご利用ですか?」
高校生っぽい店員さんが戦いの女神に尋ねる。
戦いの女神が戸惑ったように俺を見たので、頷いてみせた。
「戴こう」
「レジ袋代五円戴きます」
「なんと! レジ袋も商品なのか?」
「レジ袋は有料で提供させていただいています」
「お、おう」
レジ袋にもお金を払わないといけないことに驚いた様子の戦いの女神。
そんな戦いの女神を前に、店員さんが商品を買い物かごから取り出し、バーコードを当て、レジ袋に入れていく。
「お会計は……」
支払い方法はお会計セルフレジ。
戦いの女神に液晶画面を押させ、渡した紙幣を投入させる。
お釣りの小銭が出てきたので、戦いの女神に取らせた。
「これで買い物は終わりだよ」
「お、おう」
戦いの女神はお会計セルフレジにいたく興味を抱いたようで、拳で撫でていた。
帰宅後にゆっくりしていると、戦いの女神がひとりでコンビニに買い物に行きたいと言い出した。
それが今から十五分前の出来事。
俺は千円札だけを渡し、家から送り出した。
現実世界炎上女神にならないように祈っていると、無事に買い物を済ませて帰宅した。
「美味そうなぶどうジュースを買ってきたぞッ!」
戦いの女神が買ってきたのは、ぶどうジュースではなくて赤ワイン。
まあ……原料がぶどうであるのは間違いないけど。