4話:イセラ王城へ
――イセラ王国 王城内――
親衛隊員数名に連れられて召喚の間を後にした俺は、
人々が寝静まった街の中を先ほどの2名に監視されるように馬車に揺られ、王城へとやってきていた。
中庭のようなところで親衛隊員たちが二、三会話をしたあと、先の2人が俺についてくるよう指示する。
ガチャリガチャリと鎧の音を立てながら王城の廊下を歩く。
(親衛隊員か・・・・・・いい鎧着てんなあ。
それに引き換え・・・こうして明るみに曝してみるとひどいな・・。)
俺の鎧はすっかり塗装が落ちており、至るところが欠けたりひしゃげたり、錆と焦げで変色したりていた。
(直してもらうか・・・。腕のいい職人を探すところからだな・・。)
スプーンでえぐったようにきれいに無くなっている鎧の左腕を回して眺めながら、そんなことを考えた。
(そんで・・・、細身だがニールってやつはそこそこやりそうだな。
あとは・・・50m後ろ両脇の花瓶の裏に目視で2人、屋根裏と壁裏の空間に15人が待機中ってところか。)
俺は今後の予定やらなんやらを考えつつ、王家の暗殺部隊であろう周囲の人員の配置を確認していた。
スキルは使わず、魔力操作と鍛え抜いた感覚だけでレジスト加工が施された壁や天井の裏などをくまなくチェックしていく。
今のところ殺気はないので、監視役というところだろう。
(こりゃ早々に体制を整えるのはちょっとハードかもな。)
やがて階段横の小部屋の前で、ニールがこちらを振り向いた。
「この詰所から先は4階層と呼ばれる区域になります。
詰所を通るには身分証明が必要となりますが、リック様はこの後の能力測定の後に身分が登録される形となります。
リック様には4階層に住んでいただきますので、登録後は1から4階層までなら自由に行き来ができるようになります。」
詰所を通過した後で、気になっていたことを確認してみる。
「なあ、簡単に王城の作りの説明をしてもらえないか?」
「・・では私から。」
大柄な親衛隊員、グラッツが口を開いた。
「ここイセラ王城は小高い丘を覆うように、縦に5つの円柱を重ねた形になっている。
低い1・2階層は丘の斜面を囲んで立てられ、3階層以上は整地された丘の上に建てられている。
階層といっても高さは10mくらいあり、実際は1階層ごとに複数階が入っている。
各階層ごとに詰所を通らないと通過できないようになっているので、お気を付け頂ければ。
先ほど我々は馬車で上ってきたが、1・2階層には王城職員の宿舎、各役所の窓口のほか、学校、商店なんかがある。1・2階層は1周するだけで50分くらいはかかるな。
許可証があっても市民が入城できるのは基本1・2階層までとなっている。
3階層より上は丘の上に立てられていて・・・特徴的なのはそこに見える広大な広場だろう。
奥の建物群に演習場、図書館、温泉なんかも入っていて、3階層以上の利用者だけが使える設備が多くある。
3階層内部には各官公庁や研究機関が入っている。一部の来賓用スペースや我々親衛隊員の宿舎も3階層にある。
4階層は大臣級の居住区と、執務室のほかは各種会合スペースとなっている。重要な意志決定は4階層で行われるのがこの国の通例だな。
5階層より上は基本王族方のスペースとなっていて、許可なく立ち入ることはできない」
「なるほど。助かる。」
そうこうして4階層を10分ほど歩いたところで、30代くらいのメイドが立っている部屋の前でニールがこちらを向く。
「さて、ここが今日からリック様に滞在いただく部屋となります。
侍女が控えておりますので、部屋内でのお困りごとは彼女にお声がけください。
この後は能力測定ですが、その前にシャワーや着替えをしていただいて構いません。
簡単なものであれば食事のご用意も可能です。1時間くらいしたらまた我々が呼びにまいります。」
「わかった。ありがとう。」
――――――――
メイドの手で鎧を取り外された俺は、一通り部屋の設備の説明を受ける。
その後、しばらく一人でシャワーを浴びるからと彼女に告げ、着替えを手に脱衣所へ向かった。
浴室は広さがある以外は、地球の設備と同じような作りになっている。
頭から熱いシャワーを浴びていると、それまで張り詰めていた糸が緩んでいくような気がした。
俺はこの世界に来るまで一晩中流されていたような気がするし、こっちに来てからも念の為いつでも戦えるような体制を取り続けていた。
(もうここまでくれば、すぐに戦いになるような心配はなさそうだな。)
暗殺部隊の動きから今のところ身の危険はないと判断した俺は、この部屋に入ってからは魔力探知などの戦闘体勢を解除していた。
戦闘体勢は熟練の俺でも全身の筋肉に力を入れ続けるくらいの疲労感があるため、できれば止めておきたいところではある。
(何はともあれこっちに来た以上は、数年はこの世界に滞在することになる。
やることは山積みだが、急いてもしょうがないな。)
俺はシャワーの水音を聴きながらリラックスし、段々と置かれた状況を現実味のあるものとして捉えることができるようになっていた。
勇者召喚。
勇者といえば異世界から召喚されたまさに英雄で、人々からしたら華々しい称号のように聞こえるかもしれない。
だが俺にとっては決して手放しに歓迎できるというものでもなかった。
(まあこれも因果、必然性ってやつなのかもな。)
これからのことを考えると頭が痛くなるが、その実、俺は久々の高揚感を体験していた。
(結局俺は好きなんだよな。魔法が、この世界が。)




