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転生勇者の千年綺譚  作者: 陣者
【プロローグ】
1/6

プロローグ:天才科学者

俺の名前は宗谷陸翔(そうやりくと)


これから話す物語は俺の人生のごくごく一部であり、大半の人々の人生には何ら影響を及ぼさない、遠い遠い世界の話である。

知人はおろか親族にすら話したこともない、この話をするのはこれが最初で最後だろう。


それでもこれを語ろうとしているのは、ただ誰かに理解してもらいたいという俺の自己満足にすぎない。

この話は、俺のごく一部であると同時に、俺のほとんど全てだから。





――西暦20XX年 春 都内某所――


さて、25歳になる俺は、某国立大学で教授として教鞭を執りつつ研究をする傍ら、欧米のいくつかのIT企業で開発顧問として活動している。

専門は素粒子物理学と計算機科学で、数年前に量子を用いた全く新しいAI理論の確立に成功したことで世界的に有名になった。

特に自立型と呼ばれるAI研究の基礎を築いたことで、少しは知っている人もいるんではないだろうか。


小さい頃にも何度かニュースで紹介されたことがあり、15歳でアメリカの大学に飛び級入学、18歳で複数の分野で博士号を取ったことなどから界隈ではそこそこ名が通っている。


ただし、俺だってボーっと生きていたらこうなったわけじゃない。

10代のほぼ全てを脇目もふらずに勉強と研究に費やし、引き換えに生活や娯楽、社会性など、多くのものが犠牲になった。

家族には心配も迷惑もたくさんかけただろうが、それでもただ応援してくれた家族には感謝している。



物事にはほとんどの場合理由がある。これは俺の持論だが、そこには明確な意志があり、望むと望まざるにかかわらず、こうなるべきという必然性(・・・)がある。




話を戻そう。18歳で博士号を取って以降は、ありがたいことに色々な方面から(色々な思惑を孕んだ)ありとあらゆる援助があったから、生きていくうえで何一つ不自由はなかった。

衣食住とセキュリティが完備された新築タワーマンションの最上階では、自分だけの研究室と口の堅い優秀な助手とともに今の世には出せないような研究も進めている。


大学にも宗谷ラボと銘打った新設の研究所が用意され、国内外400人以上の研究員によってAI工学の基礎から応用まで多岐にわたる研究が行われている。



「・・・てますか!聞いてますか!宗谷センパイ!」


「・・・ああ、智美(さとみ)か。すまん。なんだっけ?」


「もう・・!依頼されていた授業の代講と、先方に頼んでジオデータの抽出やっておきましたよ。データはさっき全部メールで送っておきました。約束どーり、今度ご飯連れてってくださいね??」


「ああそのことか。ありがとう。とても助かった。ご飯ももちろん行こう。」


「ありがとうございますー!ちょーど行きたいところがあったんですよ!」


「・・・待て。また原宿か?」


「いえ!次は新大久保ですよ!最近人気のスイーツがあるんです!」


「また人混み・・・。まさか今回もその・・ゴスロリだっけか?ああいう服とか見るのか・・?しかもスイーツはご飯じゃないだろう。」


「何こまかいこと言ってるんですか!スイーツもご飯も食べればいーんですよん!新大久保はロリータファッションというよりはコスメですかね!あー、早くいきたいです!」


(話聞いてるのかコイツは・・。仕事ではものすごく優秀なんだけどな・・。)


「あー!今、"こいつめんどくさいな"って顔しましたね!さっきは私の話上の空だったクセに。それに、超 優 秀 な (・ ・ ・ ・)部下と良好な関係を築くのも大事ですよ!」


「わかったわかった!普段から助かってるし、今度新大久保行こう。

ただたまには人混みじゃないところも 「センパイが知ってる店って何かあるんですか?」


「一個もありません。・・・すいませんでした。」


「はぁ・・・もう、わかりましたよー。そういうところがセンパイですもんね。今度静かで落ち着けるお店もワ タ シ が(・ ・ ・ ・)探しておきますから。文句はナシですよ!」



そう言って研究室へと戻っていったのは、3個下の22歳で俺の研究を色々と手伝ってくれている神原智美(かんばらさとみ)

今年無事学士過程を終え、4月から俺のラボで大学院過程に入っている。

もっとも智美は大学生の頃からずっと俺の助手的な立ち位置で動いているため、ラボ内では知れた顔である。


年中ポロシャツかセーターかスーツくらいしか着ていない無頓着で不愛想な俺とは違い、智美は若干童顔ではあるものの愛嬌があり、英語も話せて頭もいいため、本人曰く好意を寄せる男性研究員もかなり多いらしい。

(念押しするように「全て断ってますからね!!」とも言われたのが謎である。)


彼女は俺の最初の教え子でもあり、その後ずっと研究を手伝ってくれている超優秀な(・・・・)部下でもある。正直俺の研究はその道の研究者であってもすべて理解できる人間は少なく、智美はその点理論を最も完璧に理解している数少ない人間の一人と言っていいだろう。


更に自分で言うのもなんだが大分一般の社会生活とはかけ離れた生活を送ってきた俺にとって、高校大学と日本で一応普通の学生生活を経験してきた年も近い智美は、俺にとって社会との貴重な橋渡し役となってくれている。

もっとも、最近良くも悪くも尻に敷かれている気がしなくもないが。。助かってはいるので良しとしよう。




4月も後半に差し掛かり、18時を過ぎても沈まなくなった夕陽が空を染め上げている頃、その日の研究を取りまとめた俺はラボ裏の駐車場へと向かっていた。

いつも通り愛車のトランクに研究資料をすべて積み込むとエンジンをかけ自宅への帰路についた。


依頼すれば運転手を付けることもできるのだが、アメリカにいた頃から運転が息抜きであった俺は自分一人で運転を行うようにしている。

まあそれだけではなく、万が一の際"無関係な人を巻き込まないため"、というのもあるが。

俺が人込みを避けるのにはそれ相応の理由がある。


研究所から自宅までは車で片道40分くらいだが、俺はそこで、日々のこと、研究のことなどを取り留めもなく考える。



俺の腕時計には、着用者の死亡が確認された時、及び任意のタイミングで即座に自爆する装置が組み込まれている。

愛車のセダンにも、腕時計に連動して社内及びトランクを完全に破壊する爆弾が搭載されている。

自宅と研究室、ローカルのデータベースも同様に連動しており、緊急時はすべてを破壊ないし隠匿する仕組みになっている。


これは決して誰かに監視されているとか、脅されているとかそういうわけではない。

全て俺の意志で仕掛けた。




だから、オフィス街の雑踏を見下ろす夕闇の首都高で、カーブ目前、ヘッドライトをちらつかせ猛スピードで逆走して突っ込んでくる4トントラックを見た俺は、




「・・・はあ、やっとか。」




智美との約束を守れないのだけはちょっと心残りだな。なんてことを思いながら。


俺の持論では、物事には理由があり意志があり、そして必然性がある。


ただしそれがどんな理由で、誰の意志で、どうして必然なのか。

それは当事者にすらもわからない。



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