淘汰される者
槍を手に持った感触は、まさに鉄。ひんやりとした感触と、少し重いが手に良く収まってくれる絶妙なフィット感。試しに、その場で構えてみる。両柄末端に立派な刃がくっついてあるだけあって、重かった。
すず「今日からその槍はキミの物だ。大切にするんだよ?」
練也「....。」
すずちゃんが微笑みを浮かべ、俺に言う。そう言ってから宝物庫の外へ出て行く後ろ姿に、俺も黙ってついて行く。境内にまで戻ったすずちゃんの後ろ姿は、普通の人間の女の子とは何も変わったところはない。まだ彼女を神様と認識してない自分がいる、だが実際色々目にしてしまっているし。....あの変な薬を飲んでしまったが為か。
すず「さあ。行くよ。」
練也「行くって...。...さっきの話か?」
すず「ボクは早く、キミを幻想郷へ招待したい。ボクがやりたいことはただそれだけ。...ただ単に、元の世界に戻りたくなったのと、キミに興味が湧いた。それだけがあれば今のボクには十分過ぎる動機だよ♪」
何ということだ。今の突飛な状況を差し置いて、このすずちゃんというボクッ娘の神様のマイペースさは。今俺が驚いているのは、この娘の柔らかい人柄の中に潜む強固なマイペースさだ。ふたたび御神体である鏡の前に立てば、すずちゃんと俺の姿が映る。
練也「...なあ。...懐疑的なことを言って傷付けて悪かったよ。...ただ今の今まで神様が見えたこともなければ、幽霊なんて見たこともない。...興味はあったし、...だけどいきなりだったから。」
すず「ううん。...いいの、きっとこう言われたりするだろうなぁ...。って。」
練也「...。何故?」
悲しみを言葉に絡ませて、それが彼女の口から漏れて行く感じがした。鏡に映るすずちゃんは、先程の元気な印象とは打って変わり儚げに映っていた。
すず「キミのように、懐疑的な意見をメインに持つ人が多いこの世の中。私達のような形の無い者は、皆淘汰されてしまう。」
練也「...うん。」
すず「故に、長い間この世界にとどまることは出来ない。...幻想郷に帰る時が来たんだ。」