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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第三章 世界最高の一族
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第三章8  生き方


 料理について特筆すべきポイントは、何一つ存在しなかった――従って、ここについては割愛するほかないだろう。

 強いて挙げるならば、来客が少なかったためか、混雑は見受けられなかった。よって料理を注文したとして無駄に長い時間を待つ訳ではなく、至ってスムーズに料理は運ばれてきた。ここは評価すべきポイントであるだろう。


「イズンちゃん、なかなかに良かったんじゃない? このレストラン。百点満点で言うと八十点ぐらいは良かったと思うけれど」

「そうか? 私は七十点ぐらいだった。だがまあ……、出てくる速度は良かったと思う。おかげで無駄な待ち時間はなかった」

「別にのんびりする日なんですから、せかせかしなくても良いのではなくて? ……まあ、性格のことを今更治すなんて簡単に出来やしないし、そこについて延々と語る必要もないけれどね」

「……何か、分かってきた?」

「いいや、何も。或いは諦めたのかもね」


 諦め、か。それも悪くないな。私はそう思って、心の中でほくそ笑んだ。


「……イズンは、これからどうするつもりですか?」


 ソフィアの問いに、私は首を傾げる。


「何かここに来てから何度も聞かれるが……、私がここに来て方向性を変えるとでも? 白き女神がああだったから、復讐なんて考えなくなる――なんて、そんなことを思ってはいないだろうな?」


 だとしたらがっかりだ。何のためにずっとついてきているのだ、と言いたい。私は別に復讐だけが目的であり、それ以外の目的を達成するつもりなどないからだ。

 ソフィアは世界を救えだの何だの言っていたような気がするが、そんなことはしない。

 先ずは、自分の目的を達成する――これに尽きる。そもそも、ソフィア自身だって私からしてみれば復讐相手の親族なのだから、何時寝首を掻かれてもおかしくはないだろうに、良くまあついてきていることだ。


「復讐をして欲しい……というと嘘になりますからね。イズン、あなたの目的はそうかもしれませんが、私の目的は違います。この世界を、終わりゆく世界を救うことですから」

「そうだったね。……でも、私は目的を変えるつもりはないし、あんたとウルは私に勝手についていっているだけだ。それだけは忘れないで欲しいものだね?」

「あら、嫌がっていないように見えるけれど」

「……嫌がる態度を取る時間が無駄だから、やらないだけだ」


 本当にウルは痛いところをついてくる。

 そう言われると、勝手についてきておいて、と言いながらも嫌がってはいなかった。いや、正確にはそういう素振りを見せなかっただけで、ことあるごとに復讐を辞めるよう提言してくるウルには少しうんざりしているのだが――正直、今更言ったって止めることもしなければずっとついてくることだろう。何が目的なのかは分からないが、目的が分からない以上は警戒するに超したことはない。


「ま、私はとにかく従うだけだけれどね。だって、旅のリーダーはイズンちゃんなんだし」

「だったら文句を言わないでくれない?」

「改善点と言って欲しいところだけれどね?」


 改善点、ね……。改善したってそれがどうメリットがあるのか分からないし、別に改善しなくても普通に物事が進むのならば、改善なんてしなくても良いように思える。

 まあ、この辺りは考え方の違いかな。


「……アドバリー家も、ああも抜けていると拍子抜けではあるがね」


 話を戻す。

 私がこんな辺境の街まで足を運んだのは――紛れもなく、復讐のためだ。そのためであればどんな苦労も惜しまないと思ってはいたのだが、しかし標的について――。


「やる気が出ないのなら、復讐なんてしなくても良いんじゃない?」


 言ったのはウルだ。


「だから、それを考えない――と言っているだろう。私はあの事件の敵を取る。取るまでは絶対に故郷には帰らないし、帰るつもりもない。そしてこの復讐を中断するつもりもないからだ」

「頭が硬いのよ、イズンちゃんは……。別に復讐するだけが世の中の生き方じゃない。残された人間が幸せに生きるのもまた、生き方の一つなのではなくて?」


 否定はしない――が、その考えはあくまでも一例だ。そこから学びを得るとかもないし、それに影響されて生き方を変えるつもりはない。自分の生き方は自分で決める。


「それなら、本当に復讐すべき相手なのかどうか……もう一度見極めてみたらどうかしら?」


 ウルは右手に何かを持っていた。それは小さなチラシのようにも見える。一体いつの間にそれを手に入れたのか……。正直、油断も隙もありゃしないな。


「何だ、そのチラシは?」

「イズンちゃん、情報収集能力が低いわねえ。別に悪いこととは言わないけれど、たまに良い情報も見落としちゃうかもだから、気をつけた方が良いと思うけれど。……で、問題はそれじゃなくて、そのチラシの内容よね。ええとね、これはアドバリー家の屋敷で開かれる晩餐会のチラシよ。これを読んだ限りだと定期的に開かれているようね……」

「チラシを配っているということは、開催時期が近いのか?」

「二日後、って書いてあるわね」

「早いな……。運が良いと言えば運が良いのかもしれないが。まあ、そこで相手の情報を得るのも悪くはない。で、それは誰でも参加出来るのか?」

「ええ、どうやら広く門戸を開いて問題点や意見を詳らかにする――それが目的のようね。だったら、私達みたいな旅人だって出ても良いと思うのよね」


 それなら、行ってみる価値はありそうだ。

 そうして私達の次の目標が決まった――二日後に開催される、晩餐会だ。


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