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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第三章 世界最高の一族
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第三章7  脇役

 本題に戻るべきかどうか一瞬悩んだが、やはり本題には戻っておくべきなのだろうと思う。クローネの街は、何もない――と言うと言い過ぎかもしれないが、しかして、それが魅力と言い切って良い物かどうか――。


「まあ、何もない街というのも悪くないものだと思うわよ?」

「ウル。お前は何をしたいんだ……。フォローしているつもりか? もしかして」

「している……とは言い切れないような気がするけれど。クローネは良いところだと思うわよ……、長閑な街だということは確かだけれど」

「それ、本当にフォローしているつもり……ってことで良いよね、取り敢えずは」


 しかし。

 街をぐるぐる回ってみた感想として、観光をするスポットが何一つとして存在しない――というのは、幾ら何でも私が今まで経験したことのない事実ではあった。

 しかし、そろそろ食事をしなければならない――と私のお腹が告げていた。何時までも何もない街を延々と歩き続けるよりも、食事をしながら今後のことについて話さないといけないしな。


「何か良い店はないものか……」


 流石に、食べ物すら買えないなんてことはないだろうし。

 それがなければ、ここに住んでいる人間は全員常に自炊している、ってことになるのだろうか――それはそれで、どうなんだろうな。


「あら、あんなところに」


 ウルが指さした先には――ちょうど外に出て来た人が居た。それも、何処か満足そうな表情を浮かべている。


「もしかして、あれがレストランかしら?」

「しょうがないが、こじんまりとしているようだな……。それはそれで問題ないと思うが、しかし、問題は味だ」


 レストランの評判或いは評価を一元的に決めるパラメータとして考えられるのは、満場一致で味だと思う。勿論別のパラメータも存在するだろう――例えばオーナーの人となりとか、性格とか、メニューの豊富さとか、だ。

 しかして、そういった物を簡単に洗い出すことなど、一目で出来る訳はない。そんなことが出来るなら、きっとその人間は大魔術師にでもなっているだろう、多分。


「味なんて物は、食べてみないと分からないじゃない。それとも……食べる前からこれを食べない方が良いと判断出来る人間だったりするのかしら?」

「まさか」


 私を、まるで勇者のように称えているのか?

 だとしたら、そんなのは間違いだ。そんなことが出来る訳はないし、あってはならない。


「出来るとしても、私は……」

「その剣は、どう使う物だと思っているのかしら?」


 言われて、目を見張る。

 剣は、放っておいても効果がある。威圧、とまでは行かなくとも、素手であるよりかは剣を持っておいた方が良い……、特にこちらが女性であるならば、猶更だ。


「この剣は……私に残された、唯一の形見だよ。ある日突然全てが破壊された私にとっては、これはきっと救いであろうとも言えるかな」

「救い?」

「復讐の手段をくれた、とでも言えば良いかな。父の蔵書には、これは魔剣であると記されていた。魔剣とはどういう意味か分かるか? 魔力が込められた剣なのだとか……それに取り憑かれた人間は数知れず、とも言われているが、はっきり言って真実は分からん。私も本を読んだだけで、きちんと学習している訳ではないからな」

「でも、その剣が魔剣であることは知っているのでしょう? どうしてイズンちゃんのご両親はそんな剣を大事にしていたのかしら?」

「知らん。……そんなことは、こっちが聞きたいぐらいだよ。まあ、そんなことを話したところで、もう聞くことは出来ないのだけれど」


 自分で話して空しくなる。

 さりとてそれは間違いではないことぐらい、当の本人である私だって分かっていたことではある。しかしながら、そんなことを言ったって現実が変わる訳ではないのだ。


「……魔剣は、ずっと持ち続けるつもりかしら? それとも、何か捨てる当てでも?」

「ウル。私がどうするかって、そんなのは勝手だと思う。違うかしら? それともぎちぎちに縛り上げて管理しないと納得しないタイプ?」

「別に管理をしたいと言っている訳ではないのだけれど……。でも、あなたが破滅に向かおうとするのなら、少しは前を向かないで欲しいなとは思ったりもするのだけれどね」


 前を向かない?

 だとすれば、何処を向けば良いというのか――まさか後ろを向け、と? 未来も何もない過去を永遠と見続けろと言いたいのか。


「誰もそこまで卑屈になれ――なんて言っていないじゃない。私が言いたいのは、そういうことではなくて……寧ろ、もっとシンプルなところかしらね?」

「シンプルなところ……か。ウル、お前がただの大道芸人ではないことぐらい薄々分かってはいたが、こうも面と向かって気付かされると、それはそれでな……」


 ショックが大きい、という訳ではない。

 寧ろそれぐらいの隠し事があるぐらいが、案外ちょうど良かったりするのだから。


「……そうね。何時かは私の昔話に付き合ってくれる日が来るのかもしれないけれど、それは今じゃない。今は、イズンちゃんの旅。それに私は付いているだけなのだから、それ以上のことは望まないから……安心して」


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