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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第三章 世界最高の一族
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第三章5  ガイドの存在意義

 ガイドを呼ぶには、どうすれば良いか?

 街によってそのシステムは異なるのだが、先ずは宿屋にリクエストをするのが一番手っ取り早いだろう。何故なら、宿屋は観光のためのガイドとの繋がりを大切にしているからだ。

 宿屋も宿泊業だけでは稼げない――というのは言い過ぎではあるかもしれないが、本業以外での稼ぎもそれなりに増やしておくのは大事だ。

 だからこそガイドとのパイプを太くする必要があるそうだが――しかし、ガイドの質もムラがある。このガイドは良いガイドだったのに、同じ金を払ってもそれと同等のガイドが来るとは言い切れない。必ずしも同じガイドがやってくる保証はないのだから。

 しかし、そうであるとばっさり切り捨てるのは、少々間違いであると言えよう。


「ガイドを依頼したいのだが」


 カウンターで声を掛けると、店主は分かり切ったように、或いはぶっきらぼうに言い放つ。


「……あー、うちはガイドとの関係を持っていないんだよね。別にクローネにガイドが居ない、って訳ではないのだけれど」

「……え?」


 いや、ガイドと関係を持っていない宿など、今まで出会したことがなかったから、思わずそんな反応をしてしまった。

 見ると、ウルも同じ反応をしているようだ――反応の大小はあれど、内容は変わりない。


「ええと、つまり?」


 あまりに信じられなかったのか、ウルは再度確認していた。

 いや、言いたいことは分かるが、聞き直したところで事実が変わることはないのだ……。そこは諦めるしかない、と言える。


「つまりも何も、今言った通りだよ。うちはガイドとは何も関係を持っていない。それはうちを使う客は観光で来る客ではあるけれど、大抵は新規で来る客ではなくてリピートだ……。だから、ガイドを使うことはないんだよ。ガイドとも契約をしていると、お金が発生するからね。未来永劫使うことがないとはっきり分かっているのなら、経費を削減した方が良い。そうでないとうちみたいな零細は潰れてしまうから――」

「……つまり、クローネにはそれ程観光客が来る訳ではない、と?」


 言いたいことは分かるが、そんなことがあるのか……? どの街だってそれなりにやってくる冒険者は居るだろう。いや、冒険者だけではない――例えば、キャラバンを連れてやってくる商人だってそうだ。放浪をしている冒険者も居るだろうし、何処へ目指すかきちんとルートを決めている旅人だって居ることだろう。

 いずれにせよ、冒険者は常に冒険をし続けている訳ではなく――休息も必要だ。人間である以上、眠らずに歩き続けることは不可能だからだ。


「まあ、大声じゃあ言えないけれど、そうであることは間違いないかな。クローネには何一つ……とまでは言わずとも、観光地という観光地が存在しない。観光資源が零という訳ではないが、普通の街と言われればそれまでかな……」


 普通の街。

 確かに、そう言われてみると、クローネの町並みは他の街と比べて何か秀でているかと言われると――そうとは言えないものがある。私は褒め上手ではないからかもしれないし、もしかしたら違う人間から見れば何処か別のアプローチがあるのかもしれないが、しかしながらそれでもクローネが特筆して素晴らしい町並みであるか、と言われればそれは素直にそうであるとは言い難い。


「クローネには何もないのか? だとしたら、ガイドをつける必要もないかな……。余計に金が掛かる、とまでは言わないが、やはりガイドしか知らない情報を提供してもらう、付加価値のような物があってこそのガイド付きの旅ではあるのだし、それが出来ないというのであれば……」

「胸を張って言えることじゃないけれどよ、それは間違いないかね……。うちも商売だから、あんまり悪いことは言えねえ。けれども、俺は正直に生きているものでね……」

「それ、商売人としてどうなんだ?」


 商売人とは、時に嘘も上手く活用するものだとばかり思っていたが。


「そこに関しては概ね間違っちゃいねえよ。それに、嘘を上手に使うことが出来ていたのならば、俺は今頃もっと良いポジションに居たと思うぜ。多分な」


 そうかね。

 そう思うのなら、それは別に勝手だが……。


「それじゃあ、ガイドは付けないということで良いかしら?」


 ウルが言ってきたので、私は頷いた。

 大方ウルも、この収穫が何一つない無駄話に飽き飽きしていたのだろう。正直、助かってはいる。私だってこの話はさっさと打ち切ってしまいたいぐらいだったからな。

 だが、実際はそうも言えないものだ。簡単に言い切ってしまえばそれまでかもしれないが、しかしながら何故だか簡単に切り捨てることもできやしない――思えば、私はずっと中途半端な生き方をしていたのかもしれないな。だからこそ、今そのツケを払っている――などと言えば、聞こえは良いのかもしれない。


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