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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章26 真実

 フレイヤは私から指示を受けた後、直ぐに通路をまじまじと見つめ始めた――それがどういう意味合いなのかは分からないが、もしかしたら集中することでマナの流れが見えやすくなるのかもしれない。


「どうだ? 見えそうか?」

「……フレイヤは一度集中すると、なかなか声も届かなくなる。だから、無駄だ。仕方ないことだから、少し待たないといけない」


 ロキがそう補足説明をする。

 そうなのか。だったら最初からそう言ってくれれば良かったのだが、まあ時間もなかったし致し方ない。それで怒る程器が小さくないのでね。


「フレイヤの視界がどうなっているのか、一度見てみたいものではあるがね」

「私も気にはなっていたんですけれどね。一度フレイヤ本人に聞いてみたんですよ、マナの流れというのはどういった流れで見ることが出来るのか、と……」


 何だ、先客が居たのか。

 まあ、確かに自分の理解の範疇に及ばない物を間近で見たとしても、それを簡単に信じることは出来ないし、そのメカニズムを聞いておきたくもなる。


「それで? フレイヤは何だって答えたんだ?」

「――フレイヤが言うには、マナの流れは線に見えるそうです。マナの力が強ければ強いほど太く真っ直ぐな線に、逆に弱ければ弱いほど細く歪んだ線に見えるらしいのです。まあ、それはフレイヤ本人にしか見えないし、確かめようもないのですけれど」


 それもそうだ。

 フレイヤの視界を再現したところで、それが百パーセント実現出来るかと言われると、そうではない……。寧ろ出来ないと思った方が良いだろう。仮に視界を再現したとして、本人に見せたところで全く違う解釈だった――なんてことがあってもおかしくはないし、そっちの方が自然だ。


「フレイヤに全てを託す、というと言い過ぎな気もしますが……、しかしそれは紛れもない事実。フレイヤが居なければ、私達はこの窮地を脱するのを考えることすら出来ないでしょう」


 ロキの言い分もご尤もだ。

 確かに、フレイヤの能力――マナの流れを見る能力というのは、あまりにも強力過ぎる。そして、この現状においては一番使い勝手の良い能力であることは、語るに落ちるだろう。

 しかして、フレイヤの能力があまりにも都合が良過ぎるというのも、ふと考えてしまう。

 あまりにも、都合が良くはないか?

 もしロキがフレイヤを連れて行くと言っていなければ、この窮地を脱する方法を考えつくことすら出来なかったはずだ。しかし、フレイヤが居ることで、この窮地は恐らく脱することは出来るだろう。

 しかし、逆に――これも敵の考えのうちだとしたら?


「……見つけたのにゃー」


 ――思考が中断させられる。フレイヤがそう発言したからだ。フレイヤはずっと床を見つめていたが、それを止めて、ただじっと永遠にも続く廊下を眺めていた。


「フレイヤ。見つけた、って言ったな? 何処に居るんだ」

「ええと……、マナの流れは確かに三つ先の扉の向こうから感じられるのにゃー。けれども、少し不安定で弱々しくて……、ちょっと未確定な要素もあると言えばあるんだけれどにゃー」

「三つ先――ね。それさえ分かれば問題はない。よし、向かうとするか。これほどまでに強力な魔術を使う魔術師さんとやらの顔を、一度拝みに行こうじゃないか」


 そうして、私達は目的地へと向かう。

 白き女神が居ようと居なかろうと、そんなことはどうだって良い。

 先ずはロキの願いを叶えてやるのが一番だと言えるし、もし白き女神が死んじまっているとしたら――私の復讐劇としてはちょっと呆気ない幕切れになってしまうがね。


 ◇◇◇


 扉を開けた先にあったのは――寝室だった。

 寝室の壁際には大きな窓があり、そこに椅子が置かれている。椅子には誰か腰掛けているが、こちらに背中を向けており、誰が座っているかは分からない。


「……白き女神、だな?」

「……、」


 無言だった。

 無視を貫き通すとは、やるじゃないか。

 しかし、そんな道理が通るとは言わせない。私は、周囲に誰も居ないことを確認し、ゆっくりとそちらに近づいていった。

 椅子の背もたれに手を掛け、顔を見てやった――が、


「……は?」


 私は、言葉を失ってしまった。


「どうしました、イズン」


 まだソフィア達はこちらに近づいていないために、現状を把握していない。だったら、見せてやるしかないだろう。

 私は、思い切り背もたれに手を掛けて、椅子をひっくり返した。

 ガシャン、という音とともに椅子に腰掛けていた人物は、文字通り崩れていった。《《身体からはバネやゼンマイなど、細かい機械部品も溢れていった》》。


「……まさか、そんなことが……?」


 座っていた人物は、機械で出来ていた。


「まさか、こいつが白き女神だって言うのかよ……?」

「しかし、服装は同じだ。幾ら偽物を作り上げていたとしても、機械で仕立て上げるのは少々気味が悪い」

「言うねえ。……しかし、ロキ。これが白き女神であることは間違いないのか? 白き女神が残した嫌がらせという可能性は――」

「その可能性は非常に薄い。いや、零であるとは言い切れないが。この部屋、白き女神の寝室であることは、レジスタンスである我々が突き止めている。そして、白き女神は他人を強く警戒していて、信頼出来る看護師しか入れることを許さなかった。……でも、これは冷静に考えるとおかしな話だと思わないかい? メイドや兵士ではなく、看護師しか入れることを許さなかった。最初これを聞いた時は、同類だけを許しているのだ――と思っていた。しかし、これを見た限りでは違うし、我々は一つ大きな誤解をしていた、ということになる」

「看護師ではなくて、技師だった……ってことか? それも、白き女神の機械筐体を管理維持出来るほどの優秀な」


 ロキは頷いた。

 いや、しかし、だとしても……。


「腑に落ちねえな。腑に落ちねえよ、どうしてこんなことになっている? 白き女神は、いつから消えていたんだ。この街を救おうとしていた、いや、救っていたという女神は何処に消えてしまったというんだ?」



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