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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章25 城塞③

「……何ですって?」


 流石のウルでさえも、私の発言には耳を疑ったようだった。それもそうだろう――というか、そこで耳を疑わない方がおかしいとすら言っても良い。


「……イズンちゃん、流石に自分が何を言っているのか分かっているのよね?」

「私がとち狂ったとでも思ったか? だとしたらそいつは滑稽だな」

「いや、君の考えは恐らく正しいだろう。……間違いであるとは言い切れない」


 ロキも賛同している様子だ。

 ならば、ここで説明をした方が良いか? 何故私が白き女神が存在しない――そんな滑稽な結論を導いたのか、ということについて。


「いや……、それは良いと思う」

「ロキ、どうして否定する?」

「否定したつもりはないさ。だけれど……、その理由を説明するのはそんな簡単な話ではない。それぐらいは、イズン、君にだって分かっているんじゃないかな?」


 ああ、分かっているよ。痛い程ね。


「痛い程分かってくれているのなら、私の話を散々聞いたとて、きっとそれを理解してくれるだろうから……、問題はそこまで辿り着いていない人達をどうするか、だよね」

「まるで私達を馬鹿にしたような言い方だけれど、残念なことにその通り――と言わざるを得ないでしょうね。だって、分からなかったんですもの。素直に負けを認めましょう」


 負け、と言われても最初から勝負をしていた訳ではないのだが……。

 まあ、ウルにはウルなりのルールがあるのだろう。そこについてはあんまり触れないでおく。触れたら触れたできっとここには書き切れない程の内容が、まるで波が押し寄せたかのようにやってくるだろう。波というのは恐ろしいもので、遠目から見れば膝下も浸からないぐらいの波だったのに、そのエネルギーはとてつもなく大きいものになっているようで、普通に歩いている人間だったらあっさりと転んでしまうぐらいだ。


「……負けを認められちゃうと、こっちも拍子抜けというか何というか。ともあれ、物事をきちんと明確に理解して分別出来ているのなら、それは有難いことだね。これを分かっている人間がなかなか居ないものだから、自分と同じランクで話が出来ない……、そういうのもなかなか厳しいものだったりするんだよね?」


 そういうものか。

 私はあんまり気にしたことはないがな――そもそも他人が嫌いなだけで、関わり合いを持ちたくないだけかもしれないが。


「自分のことを客観的に見られているじゃないか。それは良いことだよ、イズン……。ともあれ、それを良いと思うかどうかは個人の判断に任せるしかない。だって他人の評価は他人の物差しで決めることだ。つまり……『決めつけ』が前提になる。それの何が恐ろしいか? 他人の決めつけにより評価された世界に、平等と未来はあるのか?」

「それじゃあ、誰が評価するんだよ? 自分か? 自分で自分のことを自己評価する――ってことか? だったら、それによって他人の評価はどうするんだよ。他人の……もとい、社会としての評価は?」

「全くの平等と言える評価システムが出来るのならば、それに委ねるのも悪くないだろうね。本当にそれが出来るのであれば――という前提条件を付けるしかないのだけれど」

「出来るか出来ないかって言われたら出来るだろうよ。……それがいつになるかは置いといて、だ」

「話を戻してもらえるかしら?」


 ソフィアが半ば強引に軌道修正を試みる。

 だが、そんなことをしたところで結論は変わりやしない。結局のところ――確実に白き女神は存在しないはずだ。

 さて。

 問題はここから――長く続く廊下を、永遠にも続く廊下を、どのように攻略すれば良いのかということについて、本格的に話し合わねばなるまい。


「……考えたところで、私は魔術の知識がない。誰か、魔術に詳しい人間は?」

「残念ながら、私は駄目だな」

「私も。どちらかというと武闘派なのよねえ……」


 となると……。


「ソフィアとフレイヤなら……、少しは?」

「私は正直マナの動きを見るだけで、魔術の知識は全くないのにゃー――力になれないのは、ちょっぴり残念なことだけれどにゃー」

「いや、ここまで充分やって来たよ。だから、そこについて文句を言ってしまうと罰が当たりそうだ。……ソフィアは?」

「私も、少しなら魔術は分かるけれど、魔術師のそれと比べると……」

「いや、それでも良い」


 藁をも縋る、とはこのことを言うのだろう。

 全員が何にも分からない以上、多少でも知識があるというのならば、ここは申し訳ないが、そこに全集中するしかない。


「……いや、集中するのは良いことだけれど、私も本でしか読んだことがないから……」

「でも、この魔術は分かるのか?」

「古い魔術、といっても必ずしも今の魔術と全然違う物ではないみたい。……これは、幻覚魔術の一種だと思う。古い魔術というのならば、もしかしたらこれが幻覚魔術の元祖――なのかもしれないけれど」

「幻覚魔術……。成る程、つまり今見せられているのはまやかしで、これは現実ではないってことだな?」


 正直、そこまでは分かっていたが、確定するのならばそれだけでも有難い。今まではふわふわした確定していない情報だけで話し合いをしていた訳だから、そこからは一歩前進――といったところだ。


「幻覚魔術の対処法は?」


 ロキの質問は的確だ。尤も、私もその質問をするはずではあったが。


「幻覚魔術の一番の弱点は、術者が遠くに居られないこと……。これが一番問題で、あんまり離れ過ぎちゃうと効果が薄れてしまうんだったかな……。だから、これぐらい濃度の高い幻覚魔術なら、案外術者は近くに居るのかも……」

「本当か。なら、ここはフレイヤの出番じゃないか?」

「私?」

「フレイヤはマナの動きを見ることが出来るだろう? ということは、マナが今一番流動的になっているのは術者で、それを直ぐ見ることが出来るはずだ。……違うか?」

「それは違わないけれどにゃー……、でも、出来るかどうかと言われると難しい話だにゃー」

「それでも構わないよ。……探してくれ」


 フレイヤはちょっと嫌がっていた風に見えたが――多分、見つけられないことを恐れたのだろう――しかし、少し考えた末に、漸くゆっくりと行動を開始した。


「失敗しても……、責任取らないのにゃー!」


 ああ、分かっているよ。

 ここでフレイヤの責にしたら、それこそ問題になるだろうからな。


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