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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章23 城塞①

「……ここが、白き女神の住まう城」


 城の外壁に守衛の一人でも居るものとばかり考えていたが、いざ侵入してみると、誰も守衛は居なかった。

 動物の気配が何一つ存在しない――不気味な空間。


「……どう思う?」

「どう、とは?」

「文字通りの意味だ。この状況を、レジスタンスのリーダーであるお前さんはどう見るか、と言っているんだ。よもや、これが罠である可能性を否定するつもりはないだろう?」


 ロキの話を聞くまでもなく、これは罠である可能性が非常に高いと、私の直感が言っている。

 直感――と言っても経験が然程多い訳ではないし、そこについては確実にそうであるとは言い切れない。あくまでも素人目に見た価値観である。


「……まあ、罠の可能性が非常に高いでしょうねえ。ともあれ、罠であろうが何だろうが、我々は前に進まなくてはなりません。この街の未来を変えるためには……ね」


 未来……か。

 理想を語っているばかりにも思えるけれど、そこまで言い切るということからには、それなりに考えてはいるのかもしれない。

 白き女神を斃したところで、レジスタンスの野望が叶うかどうかも分からないし、もしかしたら白き女神を斃しただけでは野望が実現出来ず、どう転がっても死を免れない可能性もある訳だ。


「……進むしかない、ってことか……」

「そうです。そして、逆にこれは勝機とも言えるのではないですかね?」

「勝機?」

「彼女は私達を招いているのだ、ということですよ。であるならば、油断をしているのか、或いは傲慢であるのか……。考えるだけでムシャクシャしますね、傲り昂っている状況であるというのでしょう、その状況を許すことは毛頭出来ません。有り得ないといっても過言ではない」

「……散々白き女神について話してきたが、彼女が攻撃魔術を使ってくる可能性はないのか?」

「それも含め、未知数と言えるでしょうね。それが最悪な方向に転がることはないと願うしかありません。我々はずっとこの日のためにやってきたんです。それを無碍にしないためにも……、必ず良い方向にしていかねばなりませんからね。この日を迎えられず、死んだ同胞に顔を合わせることが出来ませんよ」

「同胞……ね。確かに、そう考えるかもしれないな」


 城の周囲を歩いているが、入口という入口が見当たらない。セキュリティを考えればこれが普通なのかもしれないが、だとしても違和感がある。

 仮に出入口がないのならば、どうやってここに出入りするのだろうか? 警護の観点を考えるならば、もう少し着目しておかないといけないような気もするのだが……。


「……どうした?」


 ソフィアが壁を触りながら、幾度か首を傾げている。


「いえ……。何でしょう、何処となく触っていると違和感があるような……」

「違和感……」


 ソフィアが触れている場所を触ってみる。そこを触っただけではただの壁と変わらないような気もするが、そこから少し手を動かすと、壁に少し段差が出来ていた。


「段差……?」


 ぐぐ、と思い切り押してみると、それはゆっくりと動き出した。


「隠し扉か……!」

「まさか、こんなところに扉があったとは……」

「それほど、白き女神は切れ者ということだろう……。ともあれ、どうやって進むのか、その道筋だけは立った。後は、どのように進むか、だが」

「先ずはこの扉の先に進んで、そこから考えれば良いんじゃない?」


 ウルはいつも的確な発言をしてくる。先読みをしている、とでも言えば良いだろうか。だとしても、あまりにも的確で少し恐ろしい。流石に未来が見える――なんてことはないだろうが。


「まあ、確かにその通りだ。その先に何が待ち構えていようとも、先ずは目の前の障壁を乗り越えてから――という算段だ。全く、悪くない考え方だ」

「じゃあ、全員この先に進むのは賛成――ってことで、良いのかな?」


 こくり、と全員が頷いた。

 案外ここまで素直になるというのも、珍しいものかもしれない――私はそう思うと、先へと進むべく一歩前を踏み出した。


 ◇◇◇


 扉の向こうは迷路になっていた……。また迷路かよ、等と宣ってしまいそうになるが、それはそれ、これはこれ。致し方ないと思うしかないのだ。


「迷路になっているが、元のスペースを考えれば大した規模ではないはずだ。だったら、難易度もそこまで高くないはず」


 ウルはそう断言するが、正直そこまで言い切れる自信もないこともまた事実だ。

 しかし、だからといって後戻りするのも愚策だ。だったら、前に進むしかない――たとえそれが、罠であったとしても。


「でも、これが罠だとしたら、私達はもうお終いといっても過言ではないよな……」


 独りごちったところで、誰かが反論する訳でもない。

 誰もが分かっているからだ。ここが仮に罠であったとしたならば、どういうことになってしまうか――ということを。

 はっきり言って、容易に想像は出来ることだ。

 さりとて、それを現実にしないために動かねばならないことなのだろうが。


「……怖くないの?」


 ソフィアがぽつり私に語りかける。


「怖い? 怖かったら先頭に立って前に進むことがないだろうよ。怖くないから、私は前に進んでいるんだ。そうだろう?」

「……そうなのかな。強いよね、イズンは」

「そうか? ただ負け惜しみをしているようにしか見えないけれどね」


 ロキはそう言ってせせら笑う。

 なかなか人間を分かっているじゃないか――だが、だとしても前に進まなくてはならないことは分かっているだろう?


「まあ、私は強い存在ではないからね……。人のことを言えないのだけれど、しかし人を見てきて統べてきたから分かることだ――この人間は強く、この人間は見掛け倒しだってことに」

「だったら、私は見掛け倒しってことか?」

「そうとは言っていないよ。けれども、そう思われてしまったんなら、こちらのミスだ。非常に申し訳ないことをしたね」

「いや、別に……。謝らなくても良いよ。こっちはそんなに怒っていないし。それとも見た目がそんなに怖かったか?」


 多分そういうことはないと思うのだが――、表情筋が硬いってのは良く言われる話だしな。もしかしたらそういうことだったのかもしれないし。


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