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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章22 迷路②

 迷路は沢山の分岐によって構成されていた。それだけならば別に良いのだが、その分岐が極端に分かりづらい。同じようなシチュエーションの分岐があちらこちらに並べられているような気がする。それだけかと思っていたら、直線がずっと続いたり下り坂や上り坂になったりらせん階段のような状態になっていたりと、明らかに人を迷わせようとしか考えていない。

 しかしその分岐全てが――フレイヤによるマナの香りを辿るだけでどうにかなるというのだから、フレイヤの力の恐ろしさを実感する。


「しかし……マナ、ねえ」


 ウルは感慨深い表情を浮かべながら、ぽつり呟いた。


「もしかして、マナのことを知っているのか?」

「知っているというか、お伽噺や書物で読んだことがあるぐらいよね……。知識としては、名前を聞いたことがあるぐらい――といったところかしら? ともあれ、まさか私もこんなことを実際に目の当たりにするなんて思ってもみなかったから、それは結構面白いものだけれどね。……こういうことがあるから、旅芸人も面白いのよ」

「そうか? ……まあ、そう思っているのなら別に良いがね。とにかく理屈が分からないものを信じろ、っていうのはなかなかしんどいものがあるが……、しかしそれが一筋の光明を差しているのだから、別に嫌がる必要もないんだよな」

「そうよー。やっぱり少しは現実的じゃない、って思っていたのかしら? ま、それはそれで悪いことじゃないのだろうけれど、あんまりそう思うのは良くないことよ。……人間を疑うな、とまでは言わないけれど、疑い過ぎも良くない――ってことだから」


 疑い過ぎは良くない、か。

 間違ってはいないのだろうが、しかし私の生き方とは相容れない考え方だな。それを是とするのは、少し間違っているだろう。

 とはいえ、それを簡単に改めることはなかなかに難しいことでもあり、それについては是非理解して欲しいものではある。別に私の考えを全て受け入れろなどと傲慢な考えを持つつもりはないし、それを他人に推し進めるつもりもない。しかしながら、私としては、せめてその部分だけでも受け入れてもらえないものかと思うこともある。

 これは治せるかどうかも分からない――場合によっては一生背負うことにもなるだろう、不治の病といっても差し支えないのだから。


「……人それぞれというのもあるでしょう。ですから、それを無理に矯正する必要もないと思いますよ」


 何だよ、分かっているじゃないか。活動家はやはりこうやって一度は受け入れてくれるのだが、そこから上手く相手に取り入るのだろう。私は分かっているよ、手を取るように分かる。


「いや、勝手にそう決めつけないでくれませんか……。でもまあ、活動家という職業については否定するつもりはありませんよ。だって、崇高な目的を持って動いているんですからね。……しかしながら、否定されてしまうのはどこか悲しいものがある、とも私は思うのですけれど」

「活動家というのは、自分の信念を曲げたらそれでお終いのような気もするが、やはりそうなのか?」

「そりゃそうでしょう。そのために生きているようなものですよ、もしそれが実現されれば、別の生き方も考えられようなものではありますが、さりとてそれが正しいかどうかなんて、誰かの感性では測られないとは思いますがね?」

「……それなら、私と変わらないな」


 いや、私の場合は――終わっても中断してしまっても、結局生きる意味を見失ってしまうのだろうがね。

 全くもって、笑えないが。


 ◇◇◇


 フレイヤのサポートも甲斐あって、かなり地下迷宮を進んできたような感じがする。ともあれ地下迷宮の終点となる出口が見えてこない以上、希望は何一つない。

 あくまでもフレイヤが居ることで、工程の幾つかが簡易化されただけに過ぎず、それに終わりが見えなければ何の意味もない。


「……あとどれぐらい掛かりそうだ? 流石に半分はもう超えているよな?」


 少し揺さぶりをかけるつもりで、私はロキに問い掛けてみた。

 ロキは具体的な回答を差し控えたまま、何かぶつぶつと呟いているばかりだった。


「……おい、ロキ?」

「うん? どうしたんだい?」

「……さっきのこっちの話は完全にスルーか? だとしたらお目出度い話だよな、全く。地下迷宮はあとどれぐらい掛かりそうだ、と聞いたんだが……それについての回答が全くなかった。どうなんだ、実際のところは?」

「いやあ、それがさっぱり――としか言いようがないんだよね。何せこっちもこのルートを使うのは初めて。別にフレイヤの能力を過小評価していた訳ではなかったのだけれど……、しかして実際は、まさかここまで上手く行かないとは思いもしなかったよ……」

「待て……、上手く行かないとは? フレイヤの能力で分岐はお手の物だったはずじゃなかったのか?」


 だからこそ、今回のクーデターにフレイヤを連れてきていたんじゃなかったのか?


「それはそうだよ、その通りさ。けれども、我々レジスタンスからしてみれば成功したと言えるだろうけれど、私からしてみればこれは失敗に片足を突っ込んでいる――そう言っても良いだろうね。だが、失敗を分かっていたとしても……、前に、ただ一歩ずつ前に、進まなくてはいけない時だってやってくるのだよ」

「……ったく、回りくどいことを言っていないでさ、たった一言言えば良いんだよ。成功か失敗か。無論、今は作戦遂行中なのだから結果論を述べたところで意味はないし、それをどう判断するかは人それぞれだからねえ」

「……それならば、未だ辛うじて成功の分類に入るだろうな。理由は――」

「はいはい、理由は知らなくても何とかなるの。九割の確率で理由を知らずとも独断問題なく動けるものなのだから、別に変に気張っていなくても良い――って訳。分かる?」

「別に気張っては……」

「お話が盛り上がっているところ悪いんだけれどにゃー」


 話を強引に切り上げたのはフレイヤだった。

 正直、これは有難かった。相性が悪いとまではいかなくても、このまま話を続けたところで議論は確実に平行線を辿る。

 だったら、適当なタイミングで切り上げるのが一番お互いにダメージが傷付かない。

 しかし、その『適当なタイミング』を如何にして見極めるのかもなかなか重要なことだ。誰かに教わった訳でもなく、教わろうとして教えてくれるものでもないのかもしれないが、しかしそれを使うのも至難の業であることは間違いない。


「どうした、フレイヤ? 何か見つけたか?」

「……お望みのモノが、見えてきたのにゃー」


 前を見ると、光明が差し掛かっていた。


「ついに出口か……!」


 そして。

 出口に広がっていたのは――街全体を眺めることが出来る山の中腹からの風景だった。


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