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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章18 世界キャラバン連盟③

 ミミが戻ってきたのは、それから少しばかり経過してからだった。流石に一つの半分までは行かないにしても、資料を探し出してくるのならそれぐらいの時間はかかるものかもしれない――などと私は勝手にそんなことを考えていた。


「見つかったのか?」

「十年前、ヤムチェンで起きた貴族の殺人事件……とまで絞り込めれば問題はない。ここのデータベースをなめてもらっちゃ困るからねえ」


 別になめたつもりはないのだが……。まあ、良い。言葉の一つ一つに噛み付いてしまっても意味はない。ここは冷静に情報収集に集中せねばならないだろう。


「……ヤムチェンで起きた事件はそんなに多くはないようだねえ、どうやらあの村はそんなことすら起きないぐらい、辺鄙で長閑な村だったらしい。……ま、それはそれとして」

「事件は見つかったんだろうね?」


 ここまで話を広げて、結局見つかりませんでした――では何の意味もありゃしない。

 私の言葉にミミは目を丸くしていたが、少し間隔を開けてゆっくりと頷いた。


「何を疑問視しているのかは甚だ疑問ではあるが……、しかし問題がないということだけは伝えておくとしよう」

「いや、だから……」


 問題はそこじゃない。

 話の流れを阻害する――とまでは行かなくとも、何とか話を無茶苦茶な方向に持って行こうという感じだけは分かる。つまり、話を明確にこちらの良いように持って行こうとしない――ということだ。


「……もしかして、こっちのやり口が分かったのかなあ?」

「分からない訳がないだろう、どう考えたってそのやり口はおかしい。情報があるのならさっさとくれてやれば良いものを、それをしようとしないということは……」

「情報がない、って思ったかしらねえ……。けれども、それは不正解。一応こちらとしてもプロセスを踏まないと話を進めることが出来ないのだから、それぐらいは理解してもらわないと困るのよねえ」


 ミミの話の結末が見えてこない。

 流石に苛立ちを隠せなくなってくる。


「……ヤムチェンという村で起きた凄惨な事件は、意外にも報道されていないのよねえ」


 唐突に。

 唐突に話の核心を突き始めたものだから、私はそのギャップに風邪を引きそうになった。

 というより、今までどうしてそんなのらりくらりと話を適当に続けてきたのだろうか。まさか、本当に今まで情報がなく、やっと良い落とし所を見つけることが出来たから、だとか……。


「ヤムチェンでは報道規制でもされていたのかしらねえ……、だとしたらその人間は相当な力を持っている存在だと思うけれど?」

「それぐらいは……」

「――まあ、分かっているのでしょうねえ。分かっているけれど、それをどうやって捕まえれば良いのか、分からない感じかしらねえ?」


 そこまで分かっているのならば、どうして話をこんがらがるように持って行くのだろうか。


「ヤムチェンで起きた事件のことを今更蒸し返すことはしたくはない。それはもうこちらから話していることだけで分かる話だろう。……だが、問題はそこではない。ヤムチェンの事件に関わっている人間だ」

「復讐をしたいのかねえ? その誰かさんは」

「……普通に考えて、そんなことをしないと思っているのか? この世界を神が作ったとしたならば、私はそれを嘘だと思っているよ。神が居るならば、人を救うことがあっても良いはずだ。それを信じなければ救われないなどと言うのであれば、それは間違いなく神ではなく人が作った宗教だ」

「……そんな宗教を、結構見たことはあるけれど、それについてはあまり深掘りしないことにしておくねえ。だって、こっちも敵を増やしたくないのだし」


 世界キャラバン連盟はどういう立ち位置に居るのだろうか? 敵を増やしたくない――とは言っているが、情報を提供している以上中立になることは難しい訳だし、確実に何処かの勢力から攻撃を受けても何らおかしくはない。

 しかし、それでも中立を維持出来ているということは、恐らくはそれなりに戦力を世界キャラバン連盟で保持しているからだ――そう推察出来る。


「敵を増やしたくない――だが、そのために匿名では出来ないのか?」

「駄目だね。こちらしか得られない情報もあるのだし、それに直ぐ分かっちまうよ。簡単に、世界各地の情報を取り寄せられるなんて、そんなのここしか有り得ないからね。無論、世界には我々のような機関があっても何らおかしくはないが……、全世界で展開出来ているのはうちぐらいだろうから」

「でも、情報を提供していないと言い張れば良いのでは? それに報復をするというのなら、悪いことを考えているというのは紛れもなく事実であって」


 このままでは堂々巡りだ。

 少しは結論を考えてから話を進めれば良かったと、若干の後悔をしてしまったがもう遅い。ここについては致し方なくこれからのことを考えていかねばならない。

 とどのつまり、どうやってここを乗り切るか――ということだ。情報は欲しい。しかし、こちらの情報はそれ程提供したくはない。向こうは平等にこちらと情報の交換をしたいのだろうが、そうはいかない。こちらとしても話したくない情報はあるし、それについては口を割るつもりはないからだ。


「……ヤムチェンの事件は凄惨なものだったらしいけれど、それでもなかなか事件が解決に導かれなかったのは致し方ないことだとは思うよねえ。だって、人一人だけでは立ち行かなくなるような大きな思惑が蠢いていることが多々あるのが、この世界だからねえ……」

「その言い方からすると、その大きな思惑を知っている……ということか?」


 あまり他人には興味はないが、だとしたら大正解だったかもしれない。この大きな思惑とやらを見つけることが出来たならば、恐らくは私の復讐も成就するはずだ。

 私はそう思いながら、多少の期待を抱きつつそう質問したが――ミミは深々と一つ溜息を吐いただけだった。


「……あのねえ、それを知りたい人は沢山居るのよねえ。けれども、それは全部ノーと言わざるを得ないのよ、何故ならば我々ですらそれを見つけたことがないからねえ。意外と……というか、そういう組織って尻尾すら出したがらないものなのよねえ。だから、その組織は本当に存在するのかも分からずに、幻覚だったんじゃないかと思わせることすらあった……ってことなのだからねえ」

「……つまり、世界キャラバン連盟ですら、それは分からないと?」

「ええ、残念ながら」


 ミミは屈託のない笑顔で答えた。

 違う、そうじゃない。それを知りたかったんじゃない。幾ら何でも――あまりにも酷い。

 情報を手に入れるべくここまでやって来たのに、何も手に入らない――だと? そんなことあってたまるか。

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