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魔剣士と終わりゆく世界  作者: 巫 夏希
第二章 食の都の白き女神
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第二章4  疫病

 宿に入ると、女性がカウンターで待ち構えていた。


「さあさ、ようこそおいで下さったものだね。……あ、これはテンプレートで言っているだけだから気にしないでね」


 いや、それを堂々と言うのはどうなんだろうか?


「……あんたも変わらないわねえ、スカディ」

「変わらないのはお互い様だろ、ウル。――あ、でも一つ訂正かな。あんたは変わり過ぎたよ、昔のあんたに今のあんたを会わせてやりたいぐらいだ」

「そんなことが万が一にでも起きたとしたら、ご勘弁願いたいことだけれどね」


 スカディはウルの話を聞くと、カウンターから慣れた手つきで鍵を取り出した。


「ねえ、積もる話もあるし、荷物を置いたらちょっと一階で話をしないか? 色々と話をしたいのは、きっとお互い様だろう?」

「それを言うのは遠くからやってきた私が言う台詞だと思うけれど……。まあ、それは良いわ。確かにこちらも情報収集をしたいぐらいだし。二人とも、それで良いかしら?」


 すっかりウルのペースに乗せられてはいるが、概ねの流れはそのままで構わない。

 いずれにせよ、信用出来る人間が居るのならばその人間から出来る限りの情報を確保しておいた方が良い。


「……それじゃ、その段取りで行くとしようかねえ。鍵はもらっていくよ」


 三本ある鍵のうち一本を取っていくウル。

 それに従って私とソフィアも鍵を手に取った。

 それぞれの部屋の前に到着すると、ウルはウインクをしながら、


「それじゃ、荷物を仕舞ったらまた一階で。またねえ」


 ドアを開けるとそのまま中へと入っていくのだった。


「……本当、ずっと自分のペースで話を進めたい人間なんだな、ウルは。ちょっと感覚を覚えるまでに時間が掛かりそうだ」

「そうですか? 私は別にそこまで気にしてはいませんけれど……。ウルさんも良い人じゃありませんか。裏表のない性格と言いますか」


 私の呟きにソフィアはあっけらかんとそう反応した。

 別にそう答えるのは構わない。人間がどういう感情を抱いていようが、それを他人がコントロール出来るはずもないのだから。

 しかし、何というか――二人とも、この旅の目的を十分に理解していない気がする。

 とにかく、話をしていくうちに軌道修正を出来るならしていくしかない。そう思いながら、私は部屋に入るのだった。


  ◇◇◇


 荷物を置いて一階に降りたら、既に二人は待機していた。


「あらあ、遅かったじゃない。イズンちゃん。……ま、女は準備に時間が掛かるものよね、分かるわ。別に気にしなくても良いからね」

「……いや、そういう訳ではないんだが」

「ウル。あんまり人のことを値踏みしない方が良いと思うけれど? ずっと一緒に居た訳でもなさそうだし」


 言ったのはスカディだった。

 良いぞ、もっとやってくれ。そうすればウルが少しは落ち着いてくれるだろうから。


「あらあ、スカディは本当に変わらないわよねえ……。別に良いけれど、それもそれであなたの持ち味って感じがするし」

「褒めてくれているのなら、正直に受け取ろうかな。あんたは結構真面目に物事を考える人間だからね。……ごめんね、二人とも。結構ウルと付き合うの大変でしょう? ふわふわした物言いでちょっとばかり気になるところもあるかもしれないけれどさ、ウルなりに考えてやっていることだし、頭の中では随分真面目に話をしているんだ。少しは理解してくれると嬉しい」

「……二人はどういう関係性なの?」


 切り込んでくるねえ、ソフィア。

 私ですら一瞬躊躇したというのに、世間知らずのお嬢様はこういうときに役立つな。


「……幼馴染、或いは腐れ縁ってところかしらね」


 言ったのはウルだった。


「腐れ縁というのも間違いじゃないし、あんたがそう思っているのならそうなのかもね。……だってウルと私はそこまで面識がある訳でもないし。幼馴染だと一瞬でも言ってくれるだけで、私はとても嬉しいし有難いよ」

「……スカディ、あんたはどうなの? この様子だと宿は繁盛しているようには見えないけれど?」


 ウルの言葉にスカディは俯くことしか出来なかった。


「うう……、痛いところ突くなあ、ウルは。そうだよ、確かにその通り。この宿を切り盛りしていかないといけないってお父さんから言われて、ずっと私は一人でやって来た。……けれど、その結果は見てもらえれば分かる通り、いつ潰れてもおかしくない有様だ。私は、必死になって頑張ってきたのだけれどね……」

「頑張ってきたのなら、それで良いじゃない。あなたがどう思うかは分からないけれど……、きっとお父さんも喜んでいるはずよ。残した宿をこうやって精一杯頑張って維持してくれているんですもの」

「……本当にあんたって、他人のことしか考えないよね。それが良いと思っているのかもしれないけれど、だとしたら壮大に失敗だよ。あんた、自分とちゃんと向き合った?」

「それとこれとは話が違います。……さて、私が知りたいのはラフティアの現状なのだけれど?」


 ウルは華麗にスルーしたので、流石の私も心の中で拍手を送りたくなってしまった。

 そして、スカディの話は続く。


「何というか、本当に気に入らない……。あんた、いつか罰が当たるよ。盛大な罰がね」

「せいぜい身構えておきますよ。……で、どう? ラフティアは何か変わったことでもある?」

「変わったことと言えば、疫病が流行りだしているんだよ」

「疫病? それはまあ困ったものね。……けれど、全然人々はそんな雰囲気を出していないけれど?」

「当然さ。なんせラフティアには白き女神様が居るんだからね」

「……エイル=ヘルグリンドのことね。彼女は未だに医療の最前線に?」

「出てくることはあるだろうけれど、今は自分で直接手を下すことはないみたい。考えてもみれば分かる話だけれど、人一人でこの街全員の患者を診られる訳がないでしょう」

「そりゃあまあ、完全に同意なのだけれど……。それじゃあ疫病はどうなったの?」

「ワクチンを開発しているらしいが、それが一般市民に出回ることは限りなくゼロに近いね。闇取引とやらで法外な値段で取引している輩も居るらしいが、到底そんなものは零細宿を経営している人間が購入出来るはずもない」

「闇取引を使わなければ、一般市民に出回ることはないの? それって酷い話ね。因みにその疫病に感染したらどうなるのかしら?」

「聞いた話によると、一回り(注:一週間)も耐えられないとか。よっぽど酷い病なのだろうね。感染したら二度と会うことは許されないらしいよ。まともに治療出来る薬も見つかっていないようで、無理矢理生きながらえさせるしか道がないようだけれど、それも莫大な金がかかるからね」

 


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