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 ドーーン!   ドーーン!

                                        

 和太鼓の寂しげな音色が、アリーナに響きわたっている。

「今大会初の死者が出てしまいました。慎んで大ダコ選手の御冥福を祈り、追悼の10カウント和太鼓を実施しております」

 だが観客は無関心で誰も聞いていない。ワイワイと雑談をしたり軽食をとったりしている。

 その観客席では、先ほどの試合で茹でダコにされた大ダコ選手の切り身(つまようじ付き)が無料でふるまわれている。

 とくに草刈ファンの女性はこぞって受けとり、おいしそうに味わっている。

「これより二回戦最後の試合をはじめます!」

 仮面ライダーとザ・ワンが入場し、闘技場の中央で対峙する。

「両選手とも、表舞台の有名選手を倒しての勝ちあがりとなりました!」

「大味かと思ったけど、まあまあ旨いな」

 文彦はすでに観客席にもどっており、大ダコの切り身をクチャクチャと食べている。

                                        

 ドーン!

                                        

 両者とも、距離をとってまずは相手の出方をうかがう。

「静かな立ち上がり。仮面ライダー選手、一回戦で圧倒的な強さを見せつけたザ・ワン選手に対して、どのような闘い方を見せてくれるでしょうか」

 先に仕掛けてきたのはザ・ワンである。

 間合いを詰め、ヴォーン!とうなりをあげるウルトラ剛腕パンチで攻めかかる。

 そのすさまじさに観客は圧倒され、畏怖のどよめきが起こる。

 だが当の仮面ライダーは恐れず冷静で、ザ・ワンのパンチを足を使って危なげなくかわしていく。

「やっぱりヘタだな、根岸先輩」

 周囲の緊張感とは対照的に、文彦はやや冷めた目線。

「パンチが大振りすぎるし、フットワークもなってない」

 実際、技術的にはアマチュアの域を出ないザ・ワンより、老練な動きの仮面ライダーのほうがずっと上である。

「ライダー!」

 観客席からは声援が飛び交っている。

「仮面ライダー!」

 とくに恐竜柄Tシャツの幼い男の子は、一回戦に続いて懸命に応援してくれている。

 さらには、

「ラ・イ・ダー! ラ・イ・ダー!」

 と大勢の観客が声を合わせたりする。

 それらに鼓舞されたのか、仮面ライダーはザ・ワンの大振りなフックをかわすと、ジャンプからの跳び蹴りを放つ。

「出たぞ! 伝家の宝刀ライダーキックーっ!」

 だが胸板にまともに命中するも、軽く跳ね返されてしまう。

 ザ・ワンは倒れている仮面ライダーの胸倉をつかむと、コスチュームをその強握力でベリベリと破いて剥がしはじめる。

「これは禁じ手です! ザ・ワン選手の卑劣な攻撃だ―っ!」

 仮面ライダーは激しく抵抗するが、凄まじい怪力で胴体を押さえつけられているため逃れられない。

 ザ・ワンは上半身部分のコスチュームをあらかた剥いでしまうと、次に仮面に手をかける。

「いけない! これは最悪の展開だ―っ!」

 ベリッ!

 と一気に剥ぎ取る。

 仮面の下から現れた中年男性の顔は、格闘技好きの観客たちには見覚えのあるものだった。

「おっと、この男性はもしや、健心道会館の枡田信弘(ますだのぶひろ)さんではないでしょうか?」

 観客の多くもうなずいている。

「枡田選手といえば空手家としてだけでなく、熱心な特撮ヒーローオタクとして知られ、またテレビのコメンテーターや歌手、俳優としても活躍、さらには政界にも挑戦したことのあるマルチな人物としておなじみです」

 仮面ライダーこと枡田は、押さえつけられた状態からキックを繰り出すも威力に乏しく通用しない。

「しかし最近は巨額の脱税疑惑と三股不倫騒動で炎上し、テレビのレギュラーも干されて謹慎中のはずです」

 巨大スクリーンに、それらの写真週刊誌のゴシップ記事が映し出される。

 ザ・ワンは、ふたたび枡田が放ってきたキックを片手でキャッチすると、そのままブンブンと振りまわして床に叩きつける。

 枡田は失神し、戦闘不能となる。

                                        

 カンカン! カンカン!

                                        

「ヒーロー破れる! これは非情な結果となってしまいましたー!」

 リングアナはふりむいて観客席の様子を確認する。

 観客たちはとっくにシラケきっており、試合結果にも興味なさそうだ。パンフレットを眺めていたり、トイレに立つ者も目立つ。

 熱心に応援していた恐竜柄Tシャツの男の子も、何事もなかったようにスナック菓子をボリボリと食べている。

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