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死の抱擁

「これより二回戦第3試合をはじめます!」

 草刈遼と大ダコが闘技場の中央で、審判から唯一の注意事項をうけている。

「武器の使用以外はあらゆる技が認められます」

 それにしても草刈への女性観客の声援が熱烈だ。

「キャーッ!」

「草刈さーん!」                                        

 すでにファンクラブでも存在しているかのよう。

 そんな彼女たちに対し、草刈はまんざらでもない感じで手を振ったりしてファンサービスをしている。

 一方、大ダコのほうはというと、運営が施したトレーニングがよほど行き届いていたらしく、敵を目の前にしてもおとなしくスタンバイしている。 

「立場上、贔屓はできませんが、人類の誇りを賭けて草刈選手にはぜひとも勝ってもらいたいものです」

                                        

 ドーン!

                                        

 係員が和太鼓を打ち鳴らして試合開始を告げる。

 そのとたん、大ダコは複数の触手をシュルルッ!と伸ばして草刈の両手足に巻きつける。

「草刈選手、早くもピーンチ!」

 女性観客の絹を切り裂くような悲鳴が響きわたる。

「よ、よもや、一回戦の衣流座選手のようなありさまに草刈選手も……!」

 そんな淫猥な不安をよそに、草刈は予定通りだといわんばかりにそのままうつぶせになり、大ダコを抱きしめる。

「草刈選手、みずから大ダコ選手に密着! しかしこの体勢からどう仕掛けていくのでしょうか?」

 大ダコはその怪力で、草刈の手足をグググッと強烈に締めつけている。

 だが一分と経たないうちに触手をすべてほどいてしまい、ウネウネと全身をくねらせはじめる。

「大ダコ選手、これは草刈選手のベアハッグに苦しんでいるのか?」

 しかし草刈はあいかわらず、普通に抱きしめているだけのように見える。

 一回戦の草刈の試合のときとおなじく、最前列の関係者席のわきには眼鏡と白衣姿の科学者風の男が二人おり、黙々と研究作業を進めている。あいかわらず一人は特殊カメラで試合を撮影し、もう一人はバインダーの書類になにやらメモ書きしている。

 そのうち大ダコの全身から、白い湯気がもうもうと立ちはじめる。

「なんでしょうか、この白煙は? いったい何が起こってるんだー⁉」

 観客も不可解そうにざわついている。

 大ダコはさらに激しく全身をくねらせ、苦悶する。草刈から逃れたいらしいが、相手の力が強すぎて身動きがとれないらしい。もはや断末魔のようだ。

 やがて大ダコはピタッと動きを止めてしまう。

 草刈は立ちあがり、ようやく解放してやる。

 大ダコはすべての触手をバナナの房のように丸めて、見事な茹でダコになっている。

 審判が、その変わり果てた身体を調べる。

                                        

 カンカン! カンカン! カーン!

                                        

「大ダコ選手の死亡により、草刈選手の勝利です!」

 耳をつんざくような女性観客の黄色い歓声。

 草刈はさわやかな勝利の笑みを浮かべて、観客席にむかってウィンク&サムズアップのポーズをとっている。

 大半の観客とおなじようにリングアナも首をかしげ、

「しかしあれはいったいどういう技だったのでしょうか? 謎です!」

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