暴露
「これより二回戦第1試合をはじめます!」
午後になっても観客はおおいに盛りあがっている。
「まいったな、女子高生と闘うことになるなんて……」
文彦はきまり悪そうにつぶやく。
闘技場の中央では、青馬文彦と夏目ボタンがむかいあっている。
「両選手とも、大方の予想を裏切って勝ちあがってきました!」
ボタンは勝気でキュートな笑みを浮かべ、
「今日も勝たせてもらうよ☆」
文彦はまた萌えて惚けそうになるも、自分の頬をビンタして気合を入れなおす。
「ゲームとちがってこんどは容赦しないぞ。覚悟はできてるか?」
「そっちこそ!」
ドーン!
ボタンは立ち技で果敢に攻めてくる。
「一回戦に続きまして、夏目選手のスカートの中を見せない技術がすばらしい! もはや芸術です!」
文彦はそれらを余裕でさばいて、同じく立ち技で応酬する。だがどうしても手加減してしまう。
それに気づいたボタンは動きを止め、
「うそつき! 本気でかかってこい!」
と不満をあらわにする。
文彦は小さくため息をついて、
「しかたない」
再び攻めてきたボタンの左の中段蹴りをキャッチし、〝破邪小竜巻〟で巻きこんでうつぶせに倒す。そのまま左脚を両腕でクラッチし、〝破邪逆片海老〟を極める。
「ドラゴン・スクリューからの逆片エビ固めー! 青馬選手、伝統武道の使い手のはずが、まるでプロレスのような技を繰り出します!」
実相寺がリングアナにボソボソと長めに耳打ちする。
リングアナは半信半疑の顔だが、その内容をアナウンスする。
「実相寺総裁によりますと、19世紀半ばに破邪神拳の門弟の一人であったジョン万次郎によってアメリカに伝えられ、彼の地のアマチュアレスリングと融合して誕生したのが現在のプロレスリングなのだそうです!」
文彦はクラッチしている両腕にさらに力を込め、
「ギブアップしないと大けがするぞ!」
本気で警告する。
「くっ………!」
ボタンは懸命に左脚の痛みに耐えている。
「この技はほぼ脱出不可能です! 夏目選手、どこまで持ちこたえられるか──」
ついに、左の股関節がゴキッと鈍い音を立てる。
文彦のほうが驚いて、すぐさま技を解除して立ちあがる。
「大丈夫か!」
左脚が根元から、あらぬ方向をむいている。
「ちょっと関節が外れただけだよ」
口では強がっているが、身動きもとれないほどの激痛のはずだ。
ボタンは両手を握り合わせて、左の股関節を思いきり叩く。
「つぅっ!」
短い悲鳴とともにまたゴキッと鈍い音がして、もとの形にはまる。
ボタンはヨロヨロと立ち上がり、
「勝負はこれからだよ!」
燃える瞳。闘志はまったく衰えていない。
「見上げた敢闘精神だ……!」
文彦は感動し、
「おれがまちがっていた」
静かにボタンに語りかける。
「最強を目指すのに男も女もない。女性としてでなく、一人のファイターとして敬意を表し、全力で闘おう」
「ありがとう!」
観客席からも自然とさわやかな拍手が起こる。
実況席に、係員からメモが届けられる。
「おっと、ここで訂正です。選手のプロフィールの記載に虚偽が見つかりました。現在試合中の夏目ボタン選手、ほんとうは17歳の女子高生ではなく31歳の成人男性で、ふだんはカフェ店員をしているそうです」
観客の拍手がピタッとやむ。
「………」
文彦は無言で、ボタンのミニスカートを乱暴にめくりあげる。
股間のふくらみがしっかりある。
「や~ん♡」
苛つくテヘペロ顔。
股間を確認して萌えの幻惑から目が覚めたせいであろうか? 近くでよくよくボタンの顔を見直してみたら、あきらかにゴツゴツした男の顔である。
文彦の顔が、生理的嫌悪と憤怒の形相に変わる。
観客席からも激しいブーイングが巻き起こっている。
「しかし昨今、性同一性障害やLGBTの問題が取りざたされ、うかつに非難できない風潮となっております」
とたんにブーイングがおさまる。
「ただ夏目ボタンこと本名田淵孝四郎選手は、それらとはどうもちがうようです」
大型スクリーンに、3年前の日付の写真週刊誌の記事が映される。
見出しは『変態女装マニア御用!』
銭湯の女湯の脱衣場で、女物の下着だけを身につけている田淵孝四郎が、制服警官に腕をつかまれている写真がデカデカと掲載されている。しかも露出した先端部分とちがってモザイクはかかっていないため、下着の中の勃起がはっきりと確認できる。
文彦は速攻でボタンの顔面に渾身のパンチを連打し、殺人技の〝破邪脳天杭打ち〟でとどめを刺す。
ボタンはえげつなく半殺しにされて、横たわったままピクピクと痙攣している。
カンカン! カンカン! カーン!
試合終了を告げる拍子木が打ち鳴らされる。
観客席は拍手喝采である。