妖術レスラーVS昭和ヒーロー
「これより一回戦第7試合をはじめます!」
ドンドン! ドンド! ドンド! ドンドン!
荒々しく勇壮な和太鼓が鳴り響きはじめる。
「青龍から、インドの妖術レスラー、ハラマヤ・シン選手の入場です!」
〈青龍〉の入場口から、シンが登場する。
それが芸風らしく、歯を剥き出し、憎々しげで挑発的な表情を作っている。シーク教徒なので頭にターバンを巻いているが、それ以外はオーソドックスなプロレスのコスチュームだ。
シンが花道をわたりきったタイミングで和太鼓の演奏がピタッとやみ、替わって耳慣れた懐かしいイントロが流れはじめる。
「え?」
「あれ?」
「この曲って……」
特撮テレビドラマ『仮面ライダー』のOP曲である『レッツゴー‼ ライダーキック』だ。
「続いて白虎から、なんと、仮面ライダー選手の入場です!」
〈白虎〉の入場口から、仮面ライダー1号の本格コスプレをした選手が姿をあらわす。
さすがにボディスーツは試合用に薄く柔らかい素材を使用しているようだが、仮面に関してはオリジナルのほぼ完コピである。
「テレビの世界のヒーローが現実に飛び出してきました!」
観客席の反応はおおむね好意的で、明るい歓声があがっている。
「本物の仮面ライダーだ!」
中でも恐竜柄のTシャツを着た幼い男の子は大はしゃぎしている。
「気になる著作権問題ですが、仮面ライダー選手本人の説明によりますと、石森プロの正式な許可は得ていないそうです。しかしながら、私的複製・非営利目的ということで御理解ください」
入場してきた両選手が、闘技場の中央で対峙する。
平均的なヘビー級レスラーのシンに対して、身長は仮面ライダーのほうが頭半分は低い。
ただ体つきはライダーのほうが筋肉質でガッチリしており、体格によるハンデはさほどなさそうだ。
「シン選手は、インドプロレス界では〝怪人〟の異名をとる卑劣なヒールとして知られている選手です。一方、仮面ライダー選手のプロフィールはまったくの謎に包まれております。その仮面の下の素顔はいったい何者なのでしょうか?」
ドーン!
試合開始の和太鼓が打ち鳴らされる。
そのとたん、シンは口から炎を噴き出す。
ボワーーーッッ‼
炎の長さはゆうに3メートルを超え、まるで軍用の火炎放射器のようだ。
「すさまじい火炎殺法だーっ!」
仮面ライダーは炎から逃れるため、右へ左へと走りまわる。
「仮面ライダー選手、防戦一方……というか避難に徹しています。ちなみにシン選手の火炎殺法は本大会においては反則ではありません」
「ライダー!」
「ライダー!」
観客席から、ピンチのライダーに声援が送られる。
「仮面ライダー!」
とくに恐竜柄Tシャツの男の子は悲痛な叫びをあげている。
だがみんなの声援もむなしく、仮面ライダーは相手に近づくことすらできない。
そればかりか逃げ疲れて息があがり、動きが鈍くなってきている。
ブボゥーーーーッ‼
そしてついにシンの射程に捕えられ、上半身にオレンジ色の火炎を浴びてしまう。
大勢の悲鳴に包まれる観客席。
だが一瞬で逃れたせいか、幸いダメージはさほど受けていないようだ。炎を浴びた仮面の一部が多少熱で溶けているくらい。
シンはそこで不満そうな顔を見せ、攻撃を中断する。
手招きして審判を呼び寄せ、なにやら猛烈に抗議しはじめる。
「どうやらシン選手、仮面ライダー選手のコスチュームがフェアでないとクレームをつけているようです。どの口がそんなことを言えるのでしょうか?」
当然のごとく主張は受け入れられず、試合が再開される。
シンは再び火炎攻撃をはじめるも、目に見えて炎はショボくなっていき、ついにはまったく吐けなくなってしまう。
「ああーっと、シン選手、ついにガソリン切れでしょうか!」
勝機と見るや、仮面ライダーは全力でダッシュし、シンにむかってジャンプからの強烈な跳び蹴りを放つ。
「おーっ! まさしくライダーキックだーっ!」
まともに食らったシンは爆発こそしないものの、大の字になってノビている。
カンカン! カンカン! カンカン! カーン!
割れんばかりの拍手とやんやの喝采。
「ライダー、かっこいい!」
恐竜柄Tシャツの男の子も飛びあがって喜んでいる。
「正義は勝つ! まるでヒーローショーのようです!」