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女子高生VSパチモン・リー

「それではこれより、一回戦第1試合をはじめます!」

 リングアナが告げると、

 ウオーーッッ!

 と観客が沸きあがり、

                                        

 ドンドン! ドンド! ドンド! ドンドン!

                                        

 と館内を震わす激しい律動が響きわたりはじめる。

 実況席の近くに大きな和太鼓があり、上半身裸の係員が見事な生演奏を披露している。

「青龍から、ジークンドー、ブルース・カトー選手の入場です!」

〈青龍〉の紙が貼ってある入場口から、ブルース・カトーが登場する。観客席の通路を花道として、セコンドとともに闘技場にむかっていく。

「続いて白虎の入場口から、なんと現役女子高生! 少林寺拳法、夏目(なつめ)ボタン選手の入場です!」

 〈白虎〉の紙が貼ってある入場口から、ボタンが元気いっぱいに駆け出してくる。半袖ミニスカのセーラー服姿で、両手にはオープンフィンガーグローブをはめている。

 文彦が旅館のゲームコーナーで格ゲー対戦した、あの美少女だ。

「え? あの子⁉ 選手⁉」

 文彦は驚き、パンフレットをめくって確認する。

「ほんとだ!」

 たしかに〈夏目ボタン選手〉の紹介ページがある。

 掲載されている写真は、セーラー服姿のボタンがカメラ目線でチャーミングに微笑んでいるもので、まるで人気アイドルのグラビアのようだ。

「第一試合から、男女対戦という波乱の幕開けです!」

 観客席も、表の試合ではありえないこの異色のカードにざわめいている。

「両選手の体重差は20キロ以上! もちろんハンデなどはいっさいありません!」

 闘技場の中央では、審判をはさんでボタンとカトーが相対している。

 カトーはその名の通り、ブルース・リーを大幅にしょぼくしたパチモンのような外見だ。

「おお、アチャ~! おぉ……」

 振りつきでブルース・リーの下手なモノマネを披露する。まったくリスペクトを感じられず、うすら寒い。

「似てね~」

 文彦も脱力してしまう。

 観客席からも、カトーにブーイングが浴びせられる。

「武器の使用以外はあらゆる技が認められます」

 審判が唯一の注意事項を両者に告げると、

                                        

 ドーーン!

                                        

 入場の演奏に使われた和太鼓が、そのまま試合開始を告げるゴングとして打ち鳴らされる。

「注目のカード、いよいよはじまりました!」

 カトーがいきなり攻めかかる。

「アチョ! アチャ!」

(怪鳥音付きの)キック主体の連続技。女子高生相手にまったく容赦がない。

 ブルース・リーのモノマネはともかく、格闘技の実力は本格的なようだ。

 一方、ボタンも怯むことなく、少林寺拳法の技術でまっこう応戦している。

 しかしそれはともかくとして不思議なことに、ボタンのミニスカートはどんなに激しく動いても決して下着を露出してしまうことがない。

「夏目選手、打撃技以上にスカートの中を見せない技術がすごい!」

 観客たちも、オ~!と感心している。

 そうこうしているうちに、ボタンは徐々に防戦一方になってくる。やはりパワー差はいかんともしがたいのだ。

 文彦も厳しい顔つきで、

「ここが踏ん張りどころだな」

 劣勢が続きながらも、ボタンは粘り強く闘う。

 そのうちカトーのほうが、攻め疲れて動きが鈍くなってくる。

 その隙を突いた、ボタンのハイキックがスパンッ!とカトーの側頭部にきれいに入る。

 一瞬足元がグラつきながらも、

「ワチャー!」

 とカトーはめげずに横蹴りを放つ。

 だがボタンはその足首をキャッチし、

 バキッ!                                        

 と向こう脛にエルボーを落とす。

「グハッ!」

 ボタンが足を放すと、カトーは地面を転げ回って見苦しく悶える。

「イテテテッ!」

 戦意の有無を確認する審判に対し、カトーはブンブンと首を横に振っている。

                                      

 カン!カン!カン!カン!カーン!

                                      

 係員が試合終了を告げる拍子木を打ち鳴らす。

 リングアナは興奮気味に、

「カトー選手、ギブアップ! 夏目選手の逆転勝利です!」

 観客席からも、割れんばかりの拍手と歓声がわき起こる。

「可愛いのにめっぽう強い! すごい女子高生の出現だ!」

 ボタンも嬉しそうにピョンピョン跳ねながら、観客席にむかって手をふって応えている。

「やるな! たいしたもんだ」

 文彦も感嘆している。

 だがそこでハッとして、

「そうだ、次はおれだった!」

 あわてて席を立って駆け出す。

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