ずっと温めてきた恋心が一瞬で砕け散った話
「リカルド!おはよ!」
「おはよう、ルル。今日も髪巻いてきたんだな」
「うん、可愛い?」
「すっごい可愛い」
俺はリカルド・アスター。公爵令息だ。こっちのちっちゃいのは侯爵令嬢のルル・キャンベル。いわゆる幼馴染だ。
俺たちは高位貴族にしては珍しく婚約者はいない。両親が共に恋愛結婚を推奨しているからだ。
けれど、両家の両親とも、俺たちが結婚することを疑っていない。だってルルは俺にべったり甘えてくるし、俺はルルを大切にしているから。俺たちは常にお互いを一番に考えている。お互いがいなければ生きていけないだろう。俺だってそう考えていた。
「リカルド!聞いて聞いて!」
「どうした?良いことでもあったのか?」
「うん、あのね、ダグラス伯爵家のグレイ君から告白されちゃった!きゃー!」
俺は突然爆弾を落とされてびっくりしたけれど、まさか俺を差し置いて他の男と婚約なんてことはないだろうと高を括っていた。
「そっか。よかったな。モテモテだな?」
「うん!それでね、付き合うことになったの!」
「…は?」
目の前が真っ暗になった。意味がわからない。なんで俺がいるのに別の男と?
「いつ両親に紹介しよう?ね、リカルドはどう思う?」
「…どう思うもなにも、ダメだろ、ルル」
「え?」
きょとんとしているルル。いつもなら可愛くて仕方がないが、今は抑えが効かない。
「お前は俺と結婚するってみんな思ってるんだぞ?両親も、友達も、みんなだ」
「え?え、リカルドは大切な幼馴染で…」
「そう。幼馴染で、いつも俺に甘えてきてべったりで。みんなお前は俺のことを好きだって思ってる」
「え?え…」
「俺もルルが好きだ。言葉にはしなかったけど、行動で示してたはずなんだけど」
「…り、リカルド?」
俺はルルを押し倒した。
「…他の男のモノになれないように、既成事実、作ろうな?」
「…や、やだ。リカルド、はなして…」
「大好きだ、愛してる」
「やだ、リカルド!やだ!こんなことしたらもう今までみたいに一緒にいられないよ!」
「大丈夫。グレイの奴との別れ話は俺がしとくから」
「やだやだやだやだやだ!助けて、グレイ君!」
ぱちんと音が響いた。俺がルルの頬を叩いた音だ。
「…他の男の名前を呼ぶなんて、無粋だろ?」
「あ…り、リカルド…」
「痛いのは嫌いだよな?大人しくしてて?」
そうして俺はルルを手に入れた。
ー…
「俺以外の奴と付き合ってみて初めて俺の良さがわかったみたいだって言ったらさ、グレイのやつも納得してくれたよ。よかったな?ルル」
「…」
「そんな顔するなよ。もうすぐ学園も卒業で、その後すぐに結婚するんだぞ?」
「…」
「それが婚約者に向ける顔か?」
「リカルドを返して」
「?」
「優しかったリカルドを返して…」
「お前が他の男に靡いたからこうなったんだぞ?」
「…っ」
「ずっとずっと、大切にしてやるからさ。今の俺も愛してよ、ルル」
ルルの頬を撫でる。ルルはびくりと肩を震わせる。ああ、なんて可愛いんだろう。これからも、ずっとずっと一緒にいような。ルル。