第九十九話 自分の気持ちに逆らえない
俺達はフロウリアで墓参りなど必要なことを済ませると、オニールという国を目指して歩いていた。元々はフロウリアの属国だったが、フロウリアがウィズダム国と戦っている間に完全に独立してしまった国だ。
「まだできたばかりの国だからなぁ、政情が不安定なら別の国へ行こう」
「オニール国からすれば、ウィズダムとフロウリアのいつもの戦争を上手く利用することに成功したんですね」
「フロウリア側からしたら、たまったものじゃありません」
オニール国に向かう街道はわりと綺麗に整備されている、それもそのはずフロウリアが攻め込む時に、通りやすいようにと何回も補修工事が行われたからだ。
「まだ独立したばかりの国だからな、何があっても驚かないようにしよう」
「危ない国でしたら、レクスさんの言う通りさっさと逃げましょうね」
「はい、命より大事なものはございません。ディーレさんの言うとおりです」
そんな心配をしつつ駅馬車と数日歩いてついたオニールという国は、見た目は普通そうにみえたがやはりまだ落ち着いていない国だった。
「フロウリア国の出身だと言ったら、宿屋から追い出された」
「周囲の視線が怖いです、まだできたばかりの国だからでしょうか」
「長年、独立するのが夢でしたから仕方がないかと、別の国に行きますか」
どうも、フロウリア国の出身だとわかると街の人間の態度が冷たくなる。もう別の国に行くのは決定だとして、開き直って冒険者ギルドで話を聞いてみた。
「フロウリア国の出身だとわかると急に態度が変わるんだが、冒険者ギルドの方でも同じなのか?仕事は受けれないのか?」
「冒険者ギルドは中立の立場を保っています、ですが依頼主の多くはオニール国の住民です。フロウリア国の出身なら、この国は避けるべきだとご忠告致します」
仲間達も冒険者ギルドの職員に同意して、俺達は別の国に行くことにした。海路はしばらく船に乗りたくない気分なので、空路でスペルニア国を目指すことにした。
「オニール国はこのまま飛んで通り抜けるぞ、『飛翔』と『隠蔽』」
「はい、『隠蔽』二重にかけて目立たないように通り抜けましょう」
「――――って、あれなんですか!? レクス様!!」
俺達が空路でオニール国からの脱出を図っていると、空中でドラゴンらしきものとすれ違った。黒い鱗が艶々と輝いて、その黄色い瞳には理性の色が感じとれた。
「……多分、ドラゴンってやつじゃないかな」
「……オニール国の方に向かいましたね」
「……私達には気づかれなかったですよね、なにあれ怖い」
宿屋二軒分はありそうなでっかくて丈夫そうな体が悠々と空を飛んでいるのだ、その口には大きな牙や手には鋭い爪があるのだ。
「ドラゴンは繁殖期以外は個別で活動する生き物らしい、新しい住処でも探してたんじゃないか?」
「……オニール国の方々に細やかながら神のご加護を」
「ちなみにレクス様ならドラゴンに勝てますか?」
ミゼが荷物に括りつけられた状態で瞳を輝かせて聞いてくる、どうかなドラゴンとワイバーンじゃ大違いだ。あんな大きい生き物に俺は勝てるだろうか?
「戦ってみないと分からん、だが戦うようなつもりはない」
「ドラゴンから狙われない限り、戦う必要もないですしね」
「なんだ、少し龍殺しとかドラゴンキラーとかいう言葉に憧れましたのに」
そんな称号ごときの為にあんな勝てるかどうかも分からないドラゴンと戦うつもりはない。俺は平和主義者の草食系ヴァンパイアだ、無駄な殺しや戦闘は避けるように学んだんだ。
「あの辺りが国境かな、そろそろ下りてみよう」
「無事にオニール国を出られるといいですね」
「ですから、フラグを立てないで下さい、フラグを!?」
俺達はよく分からんことを言っているミゼを放っておき、国境によくある砦と門に近づいた。
「こんにちは、ここがスペルニア国に行く為の門であっているかな」
「ああ、そうだよ。通行料は一人銀貨二枚だ。よし、行っていいぞ」
特に何も起きずに俺達は国境を越えることができた、街道沿いに近くの森に入って今日は野営の予定だ。天幕を張ったり、獲物を狩ったりしながら、今日の出来事について話をする。
「オニール国よりも、その後に出会ったドラゴンの方が迫力があったな」
「ドラゴンは人語を理解するというのは本当でしょうか?」
「今度あったら話しかけてみます? こんにちはとか?」
野営ではお馴染みの野菜や肉を入れたスープと仕留めたの兎の焼肉、それに保存食のプディングなどをディーレやミゼは食べる、俺はもちろんスープだけだ。
このプディングは出来立ても美味いが保存させて熟成させても美味しいので、大量に非常食として『魔法の鞄』に入れてある。
野営で食べる食事だって美味いほうが良いに決まっている、そんな理由からプディングが俺達のパーティでは野営食に入っている。
俺は食べられないけどな、その代わりに紅茶に砂糖や蜂蜜をたっぷりと入れて飲む。甘いものは疲れている時にはとても良い、どこかほっとする味だ。
交代で見張りをして野営をする、もうディーレとも一年以上の付き合いになる。自然と役割分担も決まっており、俺が最初の見張りをする。さて、オニール国は残念ながら楽しめなかったが、次に行くスペルニア国とはどんな国なのだろうか。
夜も更けて朝が近くなってからディーレの奴を起す、そして俺は短い仮眠をとる。森の中では草食系ヴァンパイアの俺は絶好調だ、僅かな睡眠でも充分に休むことができる。
「次に行くスペルニア国っているのは歴史がある国らしいな」
「ええ、できてもう何百年と過ぎている国です。良い図書館があるといいですね」
「レクス様の行動は見透かされてますね、プスークスクス」
仕方がないだろう、そこに読んだことがない本があったら読みたくなるのは人間として当たり前のことだ。
……違った草食系ヴァンパイアとして当たり前のことだ、俺が今決めた。俺以外に草食系のヴァンパイアに出会ったことはないから、これで良し!!
「しかし、農村にあまり活気がないな。不作というわけでもなさそうなのに」
「お若い方もあまり見かけません、皆さんどこにいらっしゃるのでしょうか」
「なんだか不穏な雰囲気が致します、気のせいで済めばいいのですが」
時々、野営をしつつ俺達はスペルニア国の都までやってきた。都はさすがに歴史がある国だけあって立派だ、通りを歩いている人達にも活気がある。
「うーん、物価が高いな。通常の二倍くらいはするぞ、これは」
「いろんな物が売ってあって便利ですが、やはりお値段が高いですね」
「冒険者ギルドの方はどうなんでしょうか」
『ポー草を10本採取、ランク銅以上、常時依頼』『マジク草を10本採取、ランク鉄以上、常時依頼』『リベニ村で盗賊退治、ランク鉄以上』『セタ村に出るエビルウルフ退治、ランク鉄以上』『リース国までの商隊護衛、ランク鉄以上』『迷宮、パーティ募集、ランク鉄以上』『食肉用の動物買い取り、ランク銅以上』『リース国までの商隊護衛、ランク鉄以上』『オニール国までの商隊護衛、ランク鉄以上』『リース国までの商隊護衛、ランク鉄以上』『オニール国までの商隊護衛、ランク鉄以上』
「って商隊護衛の依頼が多いな、どれだけ物騒な国なんだ!?」
「僕達は別に盗賊にも会いませんでしたが、治安があまり良くないのでしょうか」
「男二人を襲っても実入りが少ない、だから見逃された可能性がありますね」
あー……そう言われれば街道を歩いている時に、時々動物とは違う気配を感じたりしたわけだ。まぁ、とりあえずは俺達はいつものように迷宮かな。
「おう、兄ちゃん新入りか。ここでは迷宮に行くにも通行料がいるんだぜ」
「……馬鹿馬鹿しいそんな話は聞いたことがない、そこをどけくそガキが!?」
俺達が迷宮に入ろうとすると少年達が集まって、そしてリーダーらしき奴が声をかけてきた。大人のギャングみたいなことを、まだ成人もしていない子どもが言う。
「そうだな、お前達は子どもだから遊んでやろう。そこのお前でいいか」
「なにすんだよ、うぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
ここのリーダーである少年を軽々と持ち上げて、垂直に思いっきり上へと投げあげた。落ちてきて受け止めるとまだ表情に反省の色がないので、前よりももっと上へと投げあげた。これを相手が諦めるまで、続けてやった。
「――――畜生!? 通りやがれ!!」
「ああ、もちろん通るとも」
迷宮の入り口で半泣きになっているくそガキを解放して、俺達は迷宮に入ったのだが、そこでも我が目を疑うことになった。
「…………なぁ、ここ迷宮だよな。子どもを預かる孤児院とかじゃねぇよな」
「…………多分、違うと思いますけど、どうしてこんなに子ども達が」
「…………ゴブリンよりも子どもの数が多いです、群れだとゴブリンは強いはずなのに子ども達に狩られています」
迷宮の浅い階層ではまだ成人していない子ども達が群れになって、ゴブリンやコボルトの相手をしていた。確かにゴブリンやコボルトは子どもくらいの力しか持たないモンスターだ、しかしそれを人間の子どもが狩っているというのが凄い。
「逞しいガキどもだ」
「なんて凄い、……助けは必要なさそうですね」
「むしろ、こっちが狙われそうです」
十階層くらいまでのの浅い階層では子どもの群れがゴブリンやコボルトを狩っている、だからそれらは無視して俺達は深く潜っていった。流石にそれ以上には子ども達も来ていないようだ。
「大人よりもずっと子どもの方が逞しく生きているなっと」
「はい、ビックリしました。あんなに多くの子ども達が、集団を作って戦っているなんて」
「迷宮は命の保証ができない場所です、自然と子ども同士で群れを作るようになったのでしょう」
俺達は十階層を抜けて、オークやインプを時々狩りつつ更に下を目指した。オークの皮を一応剥いでおく、どのくらいの儲けになるかは分からない。
「そして、感動の再会となるオーガさんだが、先客がいるな」
「あれはっ、レクスさん!?」
「子ども達の中でも成長した者達でしょうか?」
一応は冒険者のマナーとして苦戦している彼らに声をかけてみる、だが返事はそっけなく冷たいものだった。
「おい、一応聞くが助けはいるか?」
「うるっせぇ、大人はどっかにいっちまえ!!」
そう言われれば俺達だって無理に手をかすわけにはいかない、たとえその少年達が苦戦していても、このままでは殺されそうでも助けてはいけないのだ。
オーガと苦戦している少年パーティを残して、俺達は更に迷宮の奥へと進んだ。その後ろから悲鳴が聞こえてきたとしても、助けを拒絶したのは彼ら自身だから助けてはいけない。だが、俺と一緒にいるのはお人好しのディーレだ。
「レクスさん、すみません!! 僕にはどうしても彼らが見捨てられません!!」
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