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第九十五話 可愛らしくてほっとけない

「金の冒険者レクス様、ツクヨミ国の陛下よりランク白金へ推薦状が届きました」


 俺達が冒険者ギルドに仕事を探しに行ってみると、そんな無情な一言が職員さんから与えられた。俺は一瞬で頭の中が真っ白になる。次の瞬間には嫌だ、その続きは聞きたくないと、その場から逃げようかと思った。


「ですが白金の冒険者として認められるには、今以上の功績を積まなければいけません。今回のことはその一つとして、覚えておいてください」


「そうか、…………良かったあああぁぁぁ!!」

「レクスさん、良かったですね。まだ大丈夫ですよ」

「目立つのが嫌いなくせに、目立つようなことばかりするからでございます」


 ディーレは優しいがミゼが辛辣だ、俺が今回そんなに目立つようなことをしたか?国家間で取り合う上級魔法の使い手に、ちょっとだけ魔法の指南をしただけだ。……別にこれって目立つような行動じゃないよな。


「上級魔法の使い手はずっと国に見張られてるとかないよな、実はソウヤといる時に何度か視線を感じたりはしていたんだが」

「上級魔法が使えるということは大きな戦力ですから、ひょっとしたら監視をつけている国もあるかもしれません」

「レクス様、ご愁傷さまでございます」


 ディーレが真剣に言って、ミゼがさも重々しく言葉を紡ぐから嫌な想像しか浮かばない。大丈夫、一国の王様の推薦くらいじゃランク白金にはなれない!!


 このままごく普通の平民として日々を大人しく暮らしていけばいいのだ、王族とかには関わらない方向で行こう。


「今日も立派な平民として、落ち着いた節度のある行動を心がけよう。オーガ狩りも飽きてきたし、ここでもっと大物に挑戦してみるのはどうかな?」

「……普通の平民の人はオーガ狩りに飽きたって言わないんですよ」

「……節度ある行動とは一体何をさして言っているのでしょうか?」


 さぁ、俺は平民として労働に励むぞ。何か面白い依頼はないだろうか、熱心に俺は掲示板を見てみる。


「おお、これなんかどうだ?ペガサスの捕獲、ランク鉄以上、ツクヨミ国の西の丘に現れることがあるらしい」

「偶には平和的に捕獲という任務もいいかもしれませんね」

「随分と長く貼ってあった紙のようです、少し難しいのでしょうか?」


 ペガサスというのは羽の生えた馬だ、乗馬用や戦闘用に人気があるが捕まえるのは困難だと言われている。俺も生まれてから今まで見たことがない、姿は本にある絵などで知っているが、これは実物を見てみる良い機会だ。


 しばらく国から目をつけられないように遊び半分で依頼をこなしてみるのもいいだろう。俺はその紙を剥がして受付に持っていき、詳しくペガサスが出現する場所を聞いてみた。ギルドの職員は西の丘の地図を見せてくれた、ディーレとミゼにも見てもらって場所を覚えた。


「それじゃ、今日はペガサス探しということで各自のんびりと探してみよう。しばらく忙しかったから休暇のついでくらいの気持ちで探そう」

「ペガサスですが、見たことはありませんが楽しみです。そもそも、僕は馬にも乗ったことがないのですが、大丈夫でしょうか?」

「レクス様の気まぐれ、暇つぶしの依頼です。ディーレさんもそんなに真剣にならずに自然を楽しまれたらよいかと思います」


 俺は草食系ヴァンパイアとして情報収集を開始した、ただ単に木の根を枕に寝っ転がっているようにみえるが、ちゃんとこれでも聞き込みをしているのだ。


”翼の生えた馬をみかけないかったか”


 俺がそう森の木々に問いかけてみると、いくつか返答があった。彼らにとっては珍しく急いでおり、話をしながらいろいろ教えて貰った。


”……最……近、見……ないわ……”


”ここ……に、……ここに……きて……たの……”


”……怖い……の、怖……い……”


”……怖いの……がいる……から、こ……ない……”


”……危な……い……”


”危……ないよ……、危……ない……”


 木々からの警告と共に俺は戦闘態勢に入った、合図で仲間達にも危険を知らせる。俺はバッと飛び起きてメイスを構える、少し遅れてディーレとミゼも戦闘態勢に入った。お互いに背中を預けて、何が出てきても対応できるようにする。


「ペガサスがここにこなくなった原因がいるらしい、大物だ」

「それは油断できませんね、彼らを害するとは何者でしょうか」

「やめましょう、それはフラグというものです。それを立てると――!?」


 森の木々の中から異形の魔物が現れた、鷲の上半身に獅子の下半身をしている魔獣だ。その口にまだ若いペガサスが銜えられていたが、一噛みでそのペガサスは絶命してしまった。


 『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』を俺は使って周囲に人間がいないことを確かめる、鷲の上半身が羽ばたこうとしている空へと飛ぶ気だ。


「閃光弾、左目しか潰せませんでしたか!?」

「いいや、充分だ。さすが、ディーレ!!」

「私も『追氷岩(チェイスアイスロック)!!』」


 ディーレが目を潰し、ミゼが獅子の下半身を凍りつかせた。まず、真っ先に潰すのは鷲の翼だ。俺は跳躍して勢いをつけてその翼の骨を折るべくメイスを振り下ろした。グギリッと重い音がして片翼はどうにか潰せたようだ、俺は無理はせずに一旦その場から離れる。


 ぎゃああああぁぁぁおおおぉぉぉ!!


「羽を潰したからもう空は飛べない、あとは首の骨を折ればって、――避けろ!!」

「はい、『聖結界(ホーリーグラウンド)!!』」

「ディーレさんのところに非難です!!」


 鷲の頭の方が火を噴いたのだ、俺は高い身体能力で飛びあがり、久し振りに自分の翼(・・・・)で飛びながらそれを回避した。


 飛んだついでに荒れ狂う魔獣の真上から飛翔を止めて、メイスを構えて体重と『重力(グラビティ)』の魔法を強くかけて魔獣の首元目がけて落下する!!


 ぎぃがあぁぁ!?


 ベキベキィと嫌な音がして魔獣の首の骨を圧し折った、それでもまだ魔獣はふらふらと立っている。獅子の下半身がやみくもに暴れまわっていた、俺は魔獣の体の上から『重力(グラビティ)』をかけて獅子の下半身の両足の骨を次々に破壊していった。それでようやくこの魔獣は動きを止めて、死んだようだ。


「思わず襲われたから反撃したが、こいつは一体何なんだ?」

「見たこともありません、新種の魔獣さんでしょうか?」

「困りましたね、剥ぎ取りはどこを剥げばいいのでしょうか?」


 俺達は倒した魔獣の屍を前に途方に暮れていた、とりあえず魔石と獅子の毛皮のあたりを剥ぎ取っておいたが、あとはどこか役に立つのか分からない。


 きゅい?

 きゅうう?

 きゅうん


 魔獣に噛み殺されたペガサスはよく探してみると二頭いた、更に探してみるとまだ子どもらしい三頭もいた。


「この子達でも依頼達成になるのかな、親もいないことだし連れていくか」

「可愛いですね、もうすでに羽が生えています」

「おにょれ、マスコットキャラクターの座は譲りませんよ!!そんなつぶらな瞳で見つめられたって譲らないと言ったら……、くそっ!! 譲ってやる――!!」


 まだ小さい為かペガサスの子どもはすぐに俺達に懐いた、懐いてくれるのはいいが育て方が分からない。


 魔獣の残りの素材は諦めて、そうそうに冒険者ギルドに帰ることにした。俺がペガサスを二頭、ディーレが一頭抱き抱えて連れていった。


「あああああの、それはペガサスじゃありませんか!?」

「ああ、依頼に出ていたから連れてかえった、親が魔獣に殺されてな。俺達には育て方が分からないから、早く依頼主に渡してやりたい」


 きゅ!?

 きゅうきゅう!?

 きゅわ!!


 冒険者ギルドにいる全員がペガサスに目が釘付けだった、まぁなんの子どもでも小さい頃は特に可愛いからな。既に俺達に懐いているし、とても可愛い。だが世話の仕方が分からない。


 ギルト職員は慌ててどこかに連絡を取っていた。いつまでもギルドの中にいても狭いので、ギルドの外でペガサス達の子どもは降ろしてやった。降ろしてやっても俺達に懐いていて、離れようとしない。


「もういっそ育て方を聞いて俺達で育てるか?」

「ペガサスに乗って移動する冒険者ですか、ふふふっ、面白いですね」

「私のマスコットキャラクターの座を取られた、吾輩は猫である、猫でしかない」


 そして、ギルド職員が呼んできたのは何とソウヤだった。思わぬ状況にお互いに顔を見合わせた、そして情報交換を行った。俺とディーレ、ミゼが順番に証言する。


「ペガサス捕獲の依頼に行ったら、見たこともない魔獣が出たんだ。親はそいつにやられていてこの子達しか助からなかった」

「それは大変でしたね、ペガサスを助けてくださってありがとう。この国ではペガサスをとても大事に保護してるの、いずれは王様や側近の乗馬用として使われるから」


「そうなんですか、僕達は冒険者です。それでは王宮の方で育てて貰えるでしょうか、まだ子どもなんです」

「育ててくれると思うけど、ペガサスって一度懐いた相手に弱いのよ」


「つまりペガサスを渡して、はいさようならとはいかないのでしょうか?」

「その可能性はあるわ、三頭ともレクスさん達にとっても懐いているもの、私はペガサスの逃亡防止に連れて来られたんだけど、見たところその必要はなさそうね」


 俺は無邪気に懐いているペガサスを見て思った、息抜きに平民らしく地味に働こうとしたのにどうしてこうなった。


 結局、ペガサスの子ども達は王宮の専門の世話係に手渡されたのだが、その瞬間からきゃうん、きゃうんと子どもたちは泣き喚いた。


「普通の平民らしく、普通に働こうをしただけなんだが」

「レクスさん、それ説得力が無さすぎます」

「あーあ、知~らない。白金までの道もあと一歩でしょうか」


 ごく普通の平民であるはずの俺達はそれから半月ほど、王宮の端っこにお世話になることになった。そうしないとペガサス達の機嫌が急降下したからだ、見た目は可愛いが強情なところもある癖のある生き物だった。


「可愛いけど、結構ぐいぐいくる生き物だよな」

「僕は座っていたら、頭を涎でべたべたにされました、愛情表現らしいです」

「私は乗せて貰って空を飛びました、それはもう…………もう二度と乗りたいとは思いません、ガクブルです」


 大人になった別のペガサスにも特別に乗せてもらった、すると子どものペガサスも俺達を乗せたがるからだった。ペガサスで空を飛ぶのはなかなか大変だった、翼が羽ばたく分ただの乗馬よりも難しい。大体俺は乗馬だって碌にしたことがない。


 約半月の王宮生活を終えて俺がやっと平民らしく働こうと、冒険者ギルドに行ったらまたギルドの職員さんからこう言われた。


「金の冒険者レクス様、ツクヨミ国の陛下よりランク白金へ推薦状の二通目が届きました」


 王様とやらが感謝しているんなら、そんな頼んでもいない推薦状は書かないでいて欲しい。でも、まだ俺は金の冒険者でいられるそうだ。……これ以上は何もせずに平凡に生きよう。


 迷宮でオーガを狩って、のんびりと冒険者ライフを満喫しよう。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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