第九十三話 どうせ碌なことにはならない
「あー!! 見つけたわよ、金の冒険者!!」
俺達が声の聞こえた方に顔を向けると、黒髪に黒い瞳の勝気そうな少女ソウミが、お供を数人引き連れてこちらを指さしているところだった。
「………………あれがお前の生き別れの姉妹か」
「………………妹になるそうです、ご迷惑をおかけしてすみません」
俺は思わずソウヤに同情してしまった、ああいう傍迷惑な身内がいるとさぞ辛いことだろう。人の言うことを聞きそうにもないソウミという少女は、ずんずんとお供を置いてきぼりにしながらこちらに迫ってきた。
「相手をせずに逃げるぞ!!」
「ええ!?」
「はい、道はこちらです。『大水泡』」
「急ぎましょう!!」
俺達はディーレの誘導の元、真っ先にその場を逃げ出し水没しているところに飛び込んだ。何か関わり合いになるのが嫌だったのだ、どうせ碌なことにはならないと瞬時に判断した。
「ちょっ、待ちなさいよ!?」
向こうが何を言ってこようが最近、この迷宮に何度も来ている俺達は最短の通路を知っている。ディーレの記憶力は異常に良い、その指示に従って逃げる。こちらは別に悪くないのだし、面倒事からは逃げてしまうにかぎる。
こっちは道を知っていて、なおかつ連携もとれている仲間達。あっちは迷宮に慣れておらず、右往左往する連中だ。その差はすぐに表れた、向こうはなかなかこちらを見つけられない。
「ちょっとだけ、我慢しててくれ」
「はいっ!?」
水没した場所を通り過ぎて地面に降りると、ソウヤを腕に抱えてディーレの言う通りに道を進んでいく、ミゼもちゃっかりとディーレのフードの中に収まっている。敵が出たらディーレが魔法銃ライト&ダークで牽制するか、俺は両手が塞がっているので蹴り飛ばす。
「ほらっ、もう出口だ。ディーレ、お疲れさん」
「た、助かりました、ありがとうございます。ディーレさん」
「いいえ、僕は覚えている道をただ全力で走っただけですよ。神のお導きに感謝を」
「また面倒そうな方達でしたね、もうお会いしたくないものです」
抱えていたソウヤを地面に降ろし、俺達は冒険者ギルドへ買い取りをして貰いに行った。ソウヤも物珍しいのか、一緒についてきて買い取りを見ていた。自分で狩ったオーガの魔石を売ろうかどうか迷って、記念にとっておくことにしたらしい。
「ソウヤくらいの魔力があればまたオーガくらい狩れると思うが、ただ一人で迷宮に行くなよ。誰か信頼できる仲間と一緒に行け、一人で行くと何が起こるかわからない」
「は、はい!!」
こうして俺達はオーガの皮などをいい値段で買い取りして貰えたのだが、代わりに嫌なものを受け取ることになった。
「ツキシロ国から金の冒険者レクス様に指名依頼が入っています、相手は向こうの国の魔導士長です」
「…………今は別の依頼を受けているから、そう言って絶対に断っておいてくれ」
不定期ながらソウヤの対人戦の相手をしているので、俺の返事は何も間違ったことは言っていないはずだ。ギルドの受け付けをしている職員も笑顔で、それでは無かったことに致しますとぐしゃりと依頼を握りつぶした。
ツクヨミ国とツキシロ国、外から来た俺達には似たような国に見えるが仲が悪いんだな。お互いに似たところがあるからこそ、かえって仲が悪いのかもしれない。
「それではご指導をよろしくお願いします」
「ああ、いくぞ」
迷宮にいけない日はソウヤの模擬戦の相手をしたり、普通に観光をして日々を過ごした。
「『身体強化』、よっと」
「視界を防げ『小花火』」
ソウヤは一対一の対人戦を頑張って学んでいた、魔法を応用して相手の視界を防いだりするようになった。小花火の煙と光で、速さで勝負しようとしていた俺の視界を防いでみせた。
「『魔法矢!!』です」
「散らせ、『竜巻!!』」
数を打てば当たるだろうと俺の視界が効かないうちに魔法の矢で勝負をかけてきたが、俺が竜巻を起して視界の確保と相手の攻撃を無力化、攻撃と三つの効果を発揮した。
「あわわわ、ああわっわ!?」
「はい、勝負あり」
竜巻で目を回しているソウヤ、俺はポンッとその頭に手をおいた。暫く目を回していたが、回復したソウヤはかなり悔しそうだった。
「今度こそ、勝てると思ったのに!!……悔しいです」
「いや、いいところまでいってると思うぞ。魔法の応用もできているし、あとは経験の差かな。俺はもう二年以上戦ってるんだ、数日で追いつかれたら困る」
実際にソウヤだけでもそこそこ戦えるようになってきたと思う、何より本人のやる気が強い、何度負けてももう一回と勝負を挑んでくる。それにソウヤは他のことにも気が利く少女だった。
「観光をするなら、こちらの水の宮殿は見逃せません。何代か前の王が好きな妻の為に造ったものですが、現在は公園となって皆に公開されています」
「すごいな、あちこちに水の仕掛けがある、魔法を使ったものもあるな」
「あの噴水なども綺麗です、子ども達が遊んでいて楽しそうですね」
「リア充もたまには良いことをするものです、……でも少し悔しいです」
時間がある時には俺達の観光案内までしてくれた、王族の末席とはいえソウヤ本人は素直で良い子どもだ。
ちなみにこのツクヨミ国にもツキシロ国にも貴族という制度が存在しない、王様はいてそれに仕える役職によって身分の差があるそうだ。それにしてもソウヤのように、ごく普通に俺たちに接してくれていることから、権力者でも本当にいろいろ居るわけだ。
「大臣とか偉い人の中には礼儀にうるさい方もいます、でも私はまだまだ子どもですから、役職は魔導士長ですが、年上の部下に対して強気でいても良いことがありません。向こうから何かを学ぶつもりで、支えて貰っている状態です」
ソウヤは自分のことに関してそう話した、ソウヤ本人は権力に全く興味がないらしい。王族をいうコネで魔導士長になったのも恐れ多くて、部下の人達とも話し合いながら職務をこなしているという。
「実際、私が魔導士長なのを不満に思っている人もいます。私自身もそう思っているくらいですから、あまり相手を刺激しないように努めています。……そもそも私は喧嘩も、勝負も好きではありません。王族の端っこの閑職にでもなりたいです」
ソウヤ本人はのんびりとした性格だった、方向感覚に問題があってよく迷子になることもよくあった。その高い身分を除けば、普通の子どもと何も変わりがなかった。
そして、ある日ソウヤは頭をおさえながら、俺たちのところへやってきて重すぎる問題を出してきた。
「うううぅぅ、ツキシロ国が私の身柄確保を諦めないそうです。とうとう実力で決着をつけることになりました、ソウミと一対一で勝負をして勝ったほうが相手を自由にしていいそうです。…………胃が痛い」
「……それは勝っても負けても、ソウヤに良いことがないな。仮に勝ったとしてもあの人の話を聞きそうにない、そんな妹がこっちにくるとは」
「ああ、勝てばこちらの国にあのソウミさんが来てしまう。負ければソウヤさんがあちらの国に行かなくてはならない、どちらにしろソウヤさん個人には辛いと」
「引き分けというわけにはいかないのでしょうか、どちらかが勝たなければ納得されないのでしょうか」
そんな理不尽な勝負が決まってからというもの、ソウヤは俺達との模擬戦をますます頑張っていた、なにせ負けたらあの妹がいるツキシロ国へと行かなくてはいけないのだ。
でも、仮に勝ったとしてもあの妹を戦力的にこちらの国に引き取る必要が出てくるわけで、ソウヤ個人的には勝っても負けても辛い勝負だといえよう。
「上級魔法なんて使えなければ良かったと思うことがあります、それに王族に産まれなければ良かった。……そう思ったところでどうしようもないわけですし、できる限りで頑張っていきますけど」
そう言って改良した魔法の杖を持ち、多少の棒術も覚えたソウヤは決戦の日まで地道な鍛錬を欠かさなかった。
「こっちの国の魔法使いは鍛錬に協力してくれないのか?」
「はぁ、私はコネで魔導士長になったものですから、当然よく思われてはいません。ですから、協力してくれる方も……やはり胃が痛い話です」
敵はこちらの話を聞かず、味方は当てにならないという状態で、ソウヤという少女は戦っているのだった。……俺ならそんな勝負も身分も放り捨てて逃げ出すところだな。
そうしてソウヤ対ソウミの直接対決の日がとうとうやってきたのだった。
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