第九十二話 そう言われても帰らない
ソウヤは一度、俺たちに指名依頼を頼んできてから、ちょくちょくと俺たちの前に顔を出すようになった。時間が許せば対戦を引き受け、そうできない時は断った。
「レクスさん、今日は空いてますか? 模擬戦の相手をお願いできますか?」
「今日は迷宮に潜ろうと思っている、お前も来るか?」
「め、迷宮。うーん、うーん。い、行きたいと思います!!」
「そんなに緊張しなくても、精々がオーガくらいを仕留めてくるだけだ」
今日もソウヤが朝早くから俺達の借りている宿屋を訪ねてきた、今日は迷宮にいこうと仲間と話していたので彼女もついてくるか聞いてみた。迷宮の魔物との戦いも見ればいい勉強になるだろう。
「今日はよろしくお願いします!!」
「あんまり肩に力を入れずに、警戒しすぎても疲れるぞ」
「そうですよ、今日はオーガくらいしか相手にしませんので」
「オーガの皮がよく売れるんですよね、この国の人は迷宮に来ませんので」
迷宮があまり活用されていないこの国だと、魔石もオーガの皮もいい値段でよく売れる。冒険者ギルドの方からは感謝されているくらいだ、需要に対して供給が全く追いついていないんだな。
ぐぎゃ!!
ぎゃあ!?
うがぁ!!
ぎゃぁ!?
きゃぎ!!
いつものようにディーレがゴブリンやコボルトを、魔法銃ライト&ダークで片付けていく。俺も偶にディーレが撃ちもらした奴がいたら、メイスでぐしゃりと潰してしまう。
「そういえばツキシロ国には魔導士長としてお前にそっくりな奴がいる、そんな話を聞いたんだが心当たりがあるか?」
「う!?そ、それはちょっと国家機密と言うか。皆が知ってはいるけど、あえて触れないお話になっていまして、……それでも聞きますか?」
魔石の回収をしながら俺は仲間達にも同意を求める、二つの似通った国にそっくりな少女の魔導士長、つい好奇心がくすぐられて俺と仲間は頷いた。
「私、これでも末席とはいえ王族でして」
「…………本当か、貴族にはよくあったが王族に会うのは初めてだ」
俺は話をしながらも、襲い掛かってくるコボルトをぐしゃあっと迷宮の壁に殴りとばした。その魔石を拾いながらソウヤの話の続きを聞く、仲間達も同じように敵を粉砕しながら話を聞いている。
「私は最初ツキシロ国で生まれたのですが、この辺りでは白髪に黒い瞳は嫌われるんです。葬式などに使われる色ですし、そして私たちは双子だったのですが、私だけ母の実家があるこちらのツクヨミ国に引き取られました。妹は普通の黒髪だったので向こうの国に残されたのです」
「ふーん、なるほど『風斬撃!!』」
迷宮でも最短で奥に行ける道を辿りながら、俺達は深く潜っていく。角灯の『永き灯』の明かりで道は照らされているが闇が濃い、俺は隠れていたインプを数匹を魔法で殺した。ソウヤは警戒しながらも話し続ける。
「私達は両方とも王族と言っても十三、十四番目の子どもですから継承権にはほとんど関係ありません。ただ、魔力だけは私もそして向こうにいる妹も非常に高い魔力を持っていると聞きます。王族で魔力が高いから、魔導士長なんて役職を貰っているんです。でも、実際にはお飾りでしかないんですけどね」
「それだけの魔力があっても、実務的なことはまだ難しいだろう、な!!」
俺は話を聞きながらこちらに走ってきたオークの頭に、メイスをバキンッと右から左へ叩きつけた。それでもまだ生きていたから、止めにぐしゃりとその頭を叩き潰した。
「そして、私にも高い魔力があるということが分かって、ツキシロ国が最近になって私を返してくれと言い出したのです。当然、上級魔法までが使える魔法使いは貴重ですからツクヨミ国は私の返還は断りました。以前は処分するようにこちらに押し付けておいて、今更って本当の話です」
「赤ん坊の頃にこっちに来たんじゃ、向こうの思い出なんて無いだろうしな」
俺と仲間は話を聞きながらオークの皮を剥がしていく、いつもならオークはそのまま放置することが多いのだが、こちらの皮もこの国では結構な需要があるのだ。
「本当に赤ん坊の頃に僅かな血の繋がりがあるとはいえ、ツクヨミ国の方々が私を育ててくださったことがどれだけ有難いことか。故郷とはいえツキシロ国には良い感情を持てませんし、絶対に帰りたくないと思っています。だから、私は強くなりたいのです。ツキシロ国に文句は言わせないほど強くなって、ツクヨミ国に尽くしていきたいのです」
「それであれだけ個人での模擬戦に力を入れているわけか」
「初めてとは比べものにならないくらい強くなりました、ソウヤさんの努力のおかげですね」
「もう、私ではお相手ができません。よって、私は愛玩用の可愛い猫に戻っていいということですね!!」
うがあああぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁああ!!
さて、本日狙っていた獲物であるオーガの姿が見えてきた。相手はこちらを警戒して威嚇の声を上げている、ちょっとそこで俺はソウヤに聞いてみた。
「対人戦は随分とよく戦えるようになった、あいつとも戦ってみるか?」
「は、はい!?が、頑張ります!!『光!!』『光!!』」
唸り声をあげるオーガに対してソウヤは『光』の魔法を続けざまに二回放った。狙っているのは当然、オーガの両目だ。右目には直撃したが、左目はオーガが手をかざして守った為に当たらなかった。でも、慌てずにソウヤは次の行動に移っている。
「『風斬撃!!』『風斬撃!!』『風斬撃!!』」
オーガとの距離をとりながら角度を調節して三回連続で『風斬撃』の魔法を放った、その狙いはオーガの首だ。
魔力操作もしっかりできており、オーガは両腕で自分の首を庇ったが、その両腕ごとソウヤの魔法はオーガの首を断ち切った。同じ魔法でもミゼならこうはいかない、ソウヤの魔力が高いから中級魔法でもこれだけ強い力が出るのだ。
「…………ふぅ~、緊張しましたが何とか仕留められました」
「戦闘に余裕があったし、魔力操作も上手くいっていたな」
「一人であれだけできれば充分ですよ、慎重な戦い方ができています」
「こんなに可愛い女の子の相手ができて、オーガも嬉しいことでしょう」
ソウヤの魔法は俺達との模擬戦で成長している、今までは机上の空論だったことが、模擬戦を重ねる度に身についている。
「こいつはソウヤが倒したからお前の獲物だ、剥ぎ取りもしてみるか?」
「その、それは、あの、私って昔から凄く不器用でして、……多分無理かと」
一応ソウヤに剥ぎ取り用の手袋とナイフを与えてみたが、本人が言ったとおり皮に穴をあけてしまったり、途中で剥いだ皮は途切れたりと散々な結果だった。
「――――っいいんです、私はこの魔石だけでいいんです!!」
そう言いながらソウヤはオーガの魔石だけはなんとか回収していた、その時は年相応に無邪気に嬉しそうな笑顔だった。まだ成人もしていない子どもが魔導士長だなんて、重責にもほどがあるだろう。
「それじゃ、ソウヤに負けないように俺達も狩りをするとしよう」
「オーガが二体、ミノタウロスが一体ですね。『浮遊』」
「私は愛玩用の魔物なんですが、どうしてこうなっているのでしょう」
俺達はいつもの通りにオーガとミノタウロスを狩った、手順はいつも通りだからわざわざ言う必要もないだろう。特に危ない場面もなかったし、余裕をもって三体を始末することができた。
「す、凄い。これが金の冒険者が率いるパーティ……」
「あんまりその金の冒険者ってあてにならないぞ、俺のは偶々押し付けられたような称号だしな」
「レクスさん、金の冒険者って声をかけられる度に眉間に皺をよせてますもんね」
「もういっそのこと白金まで目指してみますか、それもまた面白いでしょう」
オーガの皮、ミノタウロスの皮と角を剥ぎ取り終わって俺達は帰ることにした。
今日も一日平凡な冒険者としてよく働いた、良い稼ぎになることだろう。しっかりと毎日働いておかないと、何があるのかよく分からないのがこの世界だからな
オーガが出る30階層近くから登っていき、水没している迷路のような区画を通っていく。ここはしっかり確認しておかないと、またツキシロ国に行くような目には遭いたくない。
「あー!!見つけたわよ、金の冒険者!!」
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