第八十八話 迷ってしまって行くしかない
俺たちはツクヨミ国に来てしばらくはゆっくり休んだ、長い船旅が意外と大変なことだったからだ。だが、ゆっくりと休みをとったら次にすることは決まっている。
うぎゅ!?
ぎゃあ!!
ぎゃぎぃ!?
うぎゃ!!
ぎゃぁぁ!?
「……ちょっと船旅をしているうちに腕がなまりましたか、2匹抜けました」
ディーレがいつものように魔法銃のライト&ダークで、ゴブリンに先制攻撃を仕掛けていたが、その連射から二匹のゴブリンが逃げ出した。
ぎゃぁ!!
うごぅ!!
「半月ぶりの迷宮だしな、肩慣らしにゆっくり行くか」
俺は逃走を図ったゴブリンに追いつき、その体をメイスで迷宮の壁に叩きつけた。ゴブリンの肉体が真っ赤な血肉を飛び散らせて、壁にぐしゃりという音と共に張り付いた。
「このような遠い地にも迷宮が存在するのですね、不思議な話です。はぁ~、汚い花火でございます。たまや~、かぎや~というのは元は花火屋さんでしたっけ」
ミゼがまた不思議なことを言いつつも周囲の警戒をしていた、迷宮はどこでも危険なところだからだ。ミゼの労働意欲の低さも、こうしている時は発揮できないでいる。
俺達はツクヨミ国の迷宮に潜っていた、この迷宮は少し今までの迷宮とは変わっている部分があった。ところどころが水没しているのだ、おかげでただでさえ迷いやすい迷宮の難易度が上がった。
「また水没しているのか、なんだか迷宮に潜るのが怖くなってくるな」
「ところどころで道が使えないから、ちょっと不安になりますね」
「ここも一応、大迷宮に繋がっているんでしょうね。どれだけ広い迷宮なのでしょうか」
久しぶりの迷宮に俺達はのんびりと進んでいた、角灯に魔法の明かりを灯して道を進んでいく、するとところどころで迷宮が水没しているのだった。
「他に進めそうなところがない、命綱をつけろ。『大水泡』これで進んでみるか」
「できるだけゆっくりと呼吸をしていきましょう、泡の中の空気がなくなってしまったら『水中呼吸』で進むしかなくなります」
「そうなると私が困ります、犬かきって本当に進みが遅いんです。私は水中用の猫ではないのです、水中用の猫って何と言われても困りますが」
『大水泡』は空気の入った巨大なシャボン玉の中に入って移動するようなものだと思えばいい、『風硬殻』の風の結界でも同じことができるが風が渦巻くぶん視界が悪くなる。
「よっと、地面だ」
「この迷宮が寂れている理由がよく分かりました、中級魔法以上が使えないと第一層から通れないところが多過ぎます」
「毎回、泳いで水没したところを渡るのも大変ですしね」
ツクヨミ国では迷宮があまり重要視されていなかった、理由は今言ったとおりあちこちに水没した部分があるからだ。
そんな部分が沢山あるなら全部が水に浸かってしまいそうなのに、そうはならないで迷宮としての形は保ったままだった。
「そもそも、あまり深く考えたこともなかったが、迷宮とは何の為にあるんだろうか?誰がこんなものを作った?偶然にしては各国のほとんどにあるというのがおかしい」
「日常的にそこにあるものだと認識していましたから、そんなふうに考えたこともありませんでした。ここって人工物なのでしょうか」
「誰かが手を加えた可能性は高いと思いますよ、迷宮に生息する魔物はどこでも同じような種類の魔物が多いです。それがどうにも不自然です」
ぐるるるるるるるっうぎゃあ!?
「今まで迷宮を最後まで踏破した人間はいないらしいな、くらえ!!」
俺はディーレが閃光弾を撃ち込んでくれたオークに対して、全力で走り寄って防御する暇を与えずに、メイスでその頭をぐしゃりと叩き潰した。
「迷宮の最下層になるとサイクロプスやキマイラなど、単体でも強い魔物が沢山いると話には聞いています」
オークの皮もオーガ程ではないが売れるので、ディーレと交代で綺麗に剥ぎ取って持っていく。ディーレはそうしながら、他の珍しい魔物の話をしていた。
「単体ならまだいいですが、そんなモンスターがうろついてるとなると、最下層には近寄るのは難しいですね」
ミゼの手では剥ぎ取りはできないので、また見張り役をこなしていた、不思議なことを言うが仕事はきっちりするやつだ。
「ディーレ、魔法銃を貸してくれ」
「はい、どうぞ」
ぎゃあ!!
うぎゃ!?
ぎぎゃ!!
天井近くの暗く見えにくい場所にインプが数匹こちらを狙っていたので、ディーレから借りた魔法銃のライト&ダークで撃ち落としておいた。インプは小人が蝙蝠の羽と角をつけたような弱い魔物で、暗闇からこっちを狙ってくることがある。
魔法で吹き飛ばしてもいいのだが、魔法銃のライト&ダークの方が早いので、そちらで始末してディーレに武器を返した。
「最下層にいけば良い魔石があるんだろうが、危険性を考えると行く必要性が無いな。危険が大きすぎて、わりにあわない」
「迷宮の最奥に何があるのかは、少し気になりますね」
「素晴らしい財宝でしょうか、珍しい宝物でしょうか、ドラゴンなんかいたりしませんかね」
そんなふうに話ながら30階層を下りていたら、オーガとミノタウロスに遭遇した。お馴染みの人食い鬼と牛頭の怪物だ、久しぶりだな俺の大事な収入源!!
「久し振りだから全力でいくぞ」
「はい、閃光弾!!それに風撃弾!!『浮遊』」
「『魔法矢!!』でございます」
俺とディーレで二手に別れる、俺は突進してくるミノタウロスに避けるのとすれ違いざまに、メイスの一撃をくれてやった。喉が潰されてのたうちまわる牛頭の頭に今度は一撃入れて意識を奪う。ダメ押しで頸椎を叩き折って、こっちは素早く始末した。
オーガの方もディーレがいつものように閃光弾の目潰し、そして火炎弾を口から肺に叩き込んでいた。炎を飲み込んで苦しみ暴れるオーガ、俺がその首の骨をバキンッとメイスで殴って叩き折る。
「俺は久し振りにオーガに会えて、ああ、迷宮に帰ってきたなぁと実感してる」
「…………オーガの方からしたら、もう勘弁してくださいと言いそうですね」
「…………普通のパーティにとってみたら、オーガは決して弱くない魔物なんですが」
いつもどおりにオーガからは皮を、ミノタウロスからは皮に加えて角も頂いておく。この角で装飾品を作るそうだが、今度試しに自分でも作ってみようか。そう思いつつなかなか時間がとれずにいる、一応は自分用にミノタウロスの角を確保した。
「それじゃ、適度な運動もしたことだし帰るか?」
「はい、宿でゆっくりとお湯につかりたいです」
「ディーレさんもお風呂の魅力に取りつかれたんですね、あれは良いものです」
そうして俺達は帰ることにしたんだが、初めて来た場所だったし、あちこちが水没しているしで思ったよりも帰り道が難航した。
「さっきのところを左だったか?」
「いえ、多分水没していた箇所に幾つか出口があったのではないかと」
「ディーレさんはしっかりと覚えてますから、そうだと思います」
まぁ、とにかく上がっていけばいつか出口にでるだろう。『魔法の鞄』のおかげで食事や寝具には困らない、それにもうかなり上層まで上がってきているから、出てくる魔物も大したことがない。
「あっ、出口だ。まだ、かなり先だが光が見える」
「良かったぁ、神よ。お導きに感謝致します」
「最悪の場合、ここで野宿するところでしたね」
そうして俺達は迷宮の出口から外に出れたんだが、外の光景は一変していた。俺達はツクヨミ国にいたはずなのだが、建物や道にその面影がない。
ツクヨミ国はどちらかといえば華やかな雰囲気があったが、こちらは整然として落ち着いた雰囲気の街並みだった。
「迷宮は国と国とを繋いでいるとは言っていたが、……まさか」
「ここ、どうみてもツクヨミ国ではないですね」
「はっ、こちらの落ち着いた雰囲気のほうが、私の心の故郷に近いです」
よくわからないがとりあえず冒険者ギルドの場所を聞いてそちらに向かった、迷宮で迷ってここに辿りついたことを話すとギルドの職員は笑顔でこう言った。
「それは災難でしたね、ご安心ください。我がツキシロ国へようこそ」
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