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第七話 作っておいて損はない

「はい、食事付きで街まであと五日、銀貨5枚でいかがでしょう?」

「うーん、ちょっと考えてもいいかな。それにまず、俺の荷物をとってくる」


 俺には商人さんから提示された条件が、高いのか安いのかわからないので、ミゼに相談しようととりあえず荷物をとりに行った。そして、素早くその事を伝える。


「そうですねぇ、金貨が十万円、銀貨が一万円、銅貨が千円、青銅貨が百円くらいでした。ええと、こっちの世界で言うなら贅沢な宿でなければ十日ほど泊まれる。そのくらいの金額だと思います、承諾されても良いのでは?」

「えん? 銀貨が一万円ってなんだ? ミゼは時々変なことを言うなぁ、貨幣の単位はペクニアだろ。宿屋に十日泊まれるなら、まぁ良い条件かな。値上げ交渉は止めておくか、それよりもっと情報が欲しいしな」


 俺はまた妙なことを言いだしたミゼを荷物ごと回収し、結局はその商人さんの護衛になることになった。


 この微妙に使えるのか、使えないのか分からない使い魔であるミゼくんは、時々俺には分からない事を言うんだよな。輝板のこととか、変な知識を持っていることもある。



「うげー、それ持っていくのか?」

「なんだ知らないのか、盗賊は賞金首の可能性もある。それに幸いこの商隊には氷の魔法を使える奴がいる」


 護衛さん達が盗賊の生首を回収していたので、俺としては凄く気持ちが悪かったのだが、賞金首というお金を稼ぐ方法を一つ学べた。ただ、よほどお金に困らない限り、積極的にやりたいとは思えない。


 護衛さん達はしっかりと盗賊の全てにとどめをさしていた、俺は敵味方を間違えずに済んだようだ。戦闘の途中から俺に敵意を向けているか観察をする余裕ができたおかげだ、初めての実戦だったが特に恐怖することなく無難に終わった。


 俺は元々はただの読書が好きな村人だったわけだし、勇者でも英雄でもないわけで、もっと戦うことに嫌悪感がわくかと思ったがそんなことも無かった。


 狩りの獲物が動物から人間に変わっただけのような気がする、それに父さんのこともあるから盗賊なんて悪党はやっぱり嫌いだ。


 俺が護衛になった日はそのまま夜の見張りをした、そもそも俺は夜を活動主体にしていたので、これは全く苦にならなかった。


「へぇ、これから行くラビリスって街は迷宮があるんだ?」

「そうだ、だからあの街には冒険者も多い。なんだ、それが目的じゃないのか」


「今のところは目的のない、気楽な一人と一匹旅。んじゃ、冒険者に登録すると、やっぱり身分証代わりになるんだ?」

「お前はあんなに強いわりにものを知らないな、そうだ冒険者になればそれはそのまま身分証になる。ただ、冒険者は気が荒い奴が多いぞ」


 俺はゴトゴトと馬に引かれて移動する馬車と同じ速度で歩きながら、街までの五日間にできるだけの情報収集をしていた。


 今までとは逆に昼に動いて、夜は交代で眠りにつく。まぁ、草食系でも俺はヴァンパイアだから、数日くらいなら眠らずに活動できると思う。


 食事の時には商隊は止まるが、俺はパンとか干し肉とかはミゼにやった。スープとかの時だけ流し込むように食べて、短いがその辺りにある樹木にもたれてこっそりと本当の食事をしていた。いやー、楽だな。草食系ヴァンパイア!!


「冒険者には格、ランクってものがある。強さの順に白金、金、銀、鉄、銅の五つだ。銅が新人、鉄で一人前、銀で熟練者、金なら国や貴族からスカウトされる、白金は滅多にいない、都に1人いれば良い方だな。ちなみに俺は銀だぞ」

「おお、おっちゃん凄えぇ、銀ってことは、もうちょっと強くなれば金に昇格するわけ?」


「いや、俺は銀でも下のほうだ。依頼を達成した回数が多いことと、依頼主からの評価が良かったんで銀になれたんだ。実力からするとそんなには強くない、今回の護衛任務もお前が来なきゃ、少し難しかったくらいだからな」

「少し難しかっただけで、達成できる自信はあるんだから充分強いんじゃないか、うーん。俺だと最初は当然ながら、銅なんだろうけど、どのくらいのランクにまでなれると思う?」


「そうだな、あの時の戦闘をみるとまぁ、真面目に依頼をこなしていけば銀くらいにはなれるんじゃないか。金となると難しい、金は人柄もだがなんらか人脈や余程の功績が必要になる。指名依頼をされるようになるし、世渡りがうまくないとな」

「そりゃ、確かに面倒そうだなぁ。貴族とかなるべく関わりたく無いんだけど、俺って礼儀とか知らないし」


 この気の良い護衛のおっさんは、俺にいろいろと教えてくれる。冒険者のランクには結構、その人の人格も影響されるみたいだ。ただ、強いだけじゃダメなわけだ。


 考えてみれば当然か、村人だってただ力が強いだけじゃダメだ。農地の耕し方や、家の建築や修繕、他の村人と協力しないとできないことが沢山ある。


「お前、見たところ成人したばかりだろう。銅の冒険者からのんびりやっていくといい、無理な依頼を受け続けるよりもその方が結果的には昇格も早い」

「了解です、銀の先輩。無理とか無茶は嫌いだし、目立つのも嫌だから俺なりに、のんびりとやってみる」


 五日間の商隊護衛はあの盗賊の一件以外は何も起きずに無事に終わった、俺は商人さんから銀貨5枚と礼金を貰った。あの襲撃で護衛が二人亡くなったらしいので、商人としては俺に護衛賃と礼金を払っても損をしていないわけだ。


「街への通行料は護衛の賃金とは別にサービスしておきました、貴方はもっと交渉というものを学んだほうがいいですよ。私なら護衛料として、銀貨をもう1~2枚儲けることができたでしょう。ありがとうございました、縁があったらまたお願いします」

「こっちこそ忠告ありがと、商人のおっちゃん。検問や通行料のことも助かった、護衛のおっちゃんも道中でいろいろとありがとな!!それじゃあ、縁があったらまたよろしく」


 実は俺には身分証がないから、街の入り口での検問を心配していた。けど、護衛のおっちゃんが自分の銀の冒険者証を見せて、商人さんも俺を店員扱いしてくれたので問題なく俺は街に入ることができた。この商隊にはお世話になったので、心から礼をいって気持ち良くお別れした。


 今は金に困ってないからどうでもいいけど、今度からは少し値上げや交渉なども、勉強してできるだけ稼いでおこう。


 ヴァンパイアって物語では不老不死だとか言うけど、実際のところはどうなんだろうか?不死ってことはないな、だって俺はあっさりとあの女ヴァンパイアを殺せたわけだし、不老とはミゼが前に言っていた。うわぁ、俺ってひょっとしたら永遠に15歳のガキなのか!?……ちょっと、辛い。もう少しせめて二十歳くらいになってから草食系ヴァンパイアになりたかった。


 ま、どこかに定住しても十年くらいは童顔なんですでごまかせるよな、多分。護衛中はミゼはごろにゃあんと普通にいる猫のふりをしてたから、いろいろと相談することもできなかったんだな。


「それじゃ、ミゼ。まずは、お前が楽しみにしてた冒険者ギルドに行くぞー」

「はい、ああ久し振りの会話でございます。ただの猫のふりは、私には大変な苦行でございました」


 ミゼよ、いきなり嘘をつくな。お前、ただの猫だってことをいいことに、馬車の上とか俺のマントのフードの中で惰眠しまくりだっただろう。おかげでフードに涎がついていて、こっそり魔法で洗濯させたからな。全く、このダメ使い魔め。


 ちょっと思いついて、俺はミゼを『魔法の鞄(マジックバッグ)』の上に降ろし、涎がついていないことを確かめてからフードを被って、先に聞いていた冒険者ギルドへと向かうことにした。


「レクス様、どうしてわざわざフードを被るんです?雨など降っておりませんよ」

「俺はなるべく目立ちたくないんだ、冒険者って気が荒い奴が多いんだろ?」


 なるほどとミゼが俺に対して頷く、それに世界は広い。田舎で育った俺は知らなかった、いや知りたくも無かったのだが、……この広い世界には男なのに男を口説くという人種が存在するのだ。


「なぁ、ミゼよ。お前は同性愛をどう思う、俺としては自分に関係がなければ構わないが。あっ、そういえば聞いて無かったけど、ミゼって男だよな」

「…………レクス様、ご心痛お察し致します。ですがご愁傷さまです、今回の護衛中にあったように、その手の趣味がある方おられれば結果は今回と同じだと思われます。あと同性愛については同意見です、そして私も男性……っとコホン。オス猫に言い寄られるのは、ごめんこうむりたいと思います」


 俺とミゼは暫く死んだ魚のような目で、お互いの心中を探っていたが、やがて示しあわせたかのように一緒にため息をついた。


 先ほどまでの護衛任務中に俺は二、三人、性別が男性に分類される人類に言い寄られたのだ。幸い俺がよく話していた銀の冒険者のおっちゃんにそんな趣味は無かった、それにあのおっちゃんが怖かったのかあの商隊の護衛は統率がとれていたので、無理やりどうこうという恐ろしい経験もしなくて済んだ。むしろ、口説かれる事を除けば、俺に話しかける彼らは至って普通の常識人であった。……性癖で人を判断してはいけない、もうほぼ忘れかけていたが女性であっても、故マリアナのように凄く迷惑かつ根性の悪い人間もいるわけだ。


「とにかく目立たないでいこう、とりあえずはそうしよう。俺は冒険者という身分証を手に入れたいんだ、生涯の伴侶とかはいつかどこかで、ひっそりと見つければいいと思っている」

「ヴァンパイアは不老ですから、ゆっくりと吟味してお探しください。できれば、女性の中からお探しすることをおすすめ致します」


 できればじゃなくて!ほとんど必ず、そうするに決まってるだろ!!ああ、くそ。まだ冒険者登録をしてないから、従魔であるミゼとも小声でしか話せず、その発言に大声でつっこみを入れられないのが辛い。


 よし行くぞ、まずは冒険者登録だ!身分証発行だ!!俺はそう決意して目立たない程度に早歩きで冒険者ギルドに向かった。あと人目の無いところで『魔法の鞄(マジックバッグ)』からあまり装飾のない、俺の身長の半分くらいの長さのメイスを1本出しておいた。


 武器も持っていない冒険者なんて、荒くれ者から絡まれやすそうだ、俺は棒術なんてならってない。でも、あの屋敷を破壊しまくった時にメイスを使ってから、わりと気に入ってるんだよねこの武器。


 俺の怪力とも相性がいい、ただ本気を出すと対象が木っ端微塵になるので手加減をするのには向いてない武器だ。今回はあくまでも周囲への威嚇用、それならこれで充分だろう。


「ここが冒険者ギルド、意外と普通だ。……それにあんまり人がいないな」

「ちょうど今がお昼ぐらいだからではないでしょうか?朝に仕事を受けて、夕方に報告する方が多いのかもしれません」


 俺はミゼの推測になるほどと納得する、農民だって朝から働いて夕方までに仕事を終えるのが普通だ。人があまりいないので、俺は楽に冒険者登録をはじめることができた。少し心配していた故郷の村から逃亡した農奴扱いもされなかった、きっと村の全滅は疫病か何かで処理されたんだろう。だから、俺を追ってくる奴もいないわけだ。ほっと胸をなでおろして、受付のおねぇさんに従って俺は冒険者として登録をすすめていった。


「こちらの用紙に最低でも名前と年齢、性別をご記入ください。他には剣術など、得意な技能を書かれるとパーティ、仲間へと勧誘される可能性が高くなります。字は書けますか?書けなければ私が代筆致します」

「ああ、字は書けますので、ご心配なく」


 俺は必要事項を記入していく、俺って元だけど一応は貴族の家系で良かった。この世界で識字ができる村人は多くない、そんな事ができなくても生きていけるからだ。


 でも冒険者になるのなら、まずは字が読めないとどんな契約書なのか、確認すらできまい。でも、受付のおねえさんの言い方だといるんだな、字のかけない冒険者。


 名前:レクス

 年齢:15

 性別:男性

 技能:棒術

 武装:メイス

 従魔:猫


「それでは登録料として銅貨5枚頂きます、 ギルドについての説明は必要ですか?」

「ええ、よろしくお願いします」


 俺が記入し終わった紙を受付のお姉さんに渡すと、お姉さんは登録料を貰ってから別の職員さんにその用紙を渡した。そして、ギルドについての説明を何度もしているのだろう。やや早口で、よどみなくスラスラと話してくれる。


「毎朝、あちらの掲示板に依頼書が張り出されます。冒険者のランクは銅が新人、鉄で一人前、銀で熟練者、金は相当の実力者、白金はそれ以上で幾つかの功績を修めた方になります。このラビリスのギルドでは報酬の2割が税として納められます。依頼書の金額は税金を引いた額です、最初はランクに合わせた依頼から受けてもらいます。雑用・採取・討伐依頼などについては依頼主が達成されたと判断したら証明印を押すことになっています。稀に依頼が達成されていても、お金を払うのが嫌で依頼を取り消す馬鹿がいますが、その場合もギルドに報告すること。依頼料の支払いはできませんが、その依頼主の評価が下がり、次回の依頼書にそのことが掲載されるようになります。また採取依頼などの参考に、このギルドには図書室がありますのでよろしければ活用ください。何か質問は?」


「うーん、とりあえず大丈夫です。何かわからないことがあったら、また聞きにきます」


 図書室!!俺はギルドに関しての説明を真面目に聞いていたが、最後が一番魅力的な言葉だった。話している間に冒険者証として、銅で出来ている身分証も貰えた。一滴分の血を要求されたが、これは魔法で冒険者証の持ち主本人だと証明する為に必要らしい。魔法ってすごい、今までただの村人だった俺だがぜひとも身につけたい力だ。


 さぁて、身分証は手に入れた。次はまず宿をとってこようか、それから後は何よりもまずは図書室だ!!新しい知識がいまか、いまかと俺を待っている!!


「ねぇ、ねぇ、そこの君!私達と一緒に仕事してくれない?」

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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