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第六十八話 空を飛ぶなら落とすしかない

 ラジヌ国に来てから真っ先に俺が行きたがったのは図書館だ、まだ見ぬ世界、知識、未知への探求心は衰えることを知らない。そして、嬉しいことにラジヌ国にも図書館がちゃんとあった。


「この国の図書館はまた立派だな、金の冒険者になって結果的には良かった。国立図書館が使いたい放題だ」

「この国は『貧民街(スラム)』の方もそう酷い様子がありません、教会の作った孤児院があって、そこで大きくなった子は農夫になったりするようです」

「大きく肥沃な畑が広がっていましたね、ミリタリス国が近いので騎士達の待遇が良いそうですよ。あの国は食糧供給を止めるとすぐに襲ってくるそうで、……本当に脳筋は怖いですね」


 俺達はラジヌ国の都であるラジヌに来ていた、暫くは休みを取りたかったので、宿を取ると二、三日はそれぞれが好きな事をして過ごしていた。


 もちろん俺はラジヌ国立図書館へ直行だ、幸い金の冒険者になっていたことで閲覧することも可能だった。もう、金の冒険者の特権を馬鹿にはできないな。


 ディーレはいつものようにミゼと一緒に真っ先に『貧民街(スラム)』の様子を観察していた、ミゼがいつも危ない場所には近づけないようにするし、ディーレもミゼと相談して『貧民街(スラム)』でも危険な場所を避けて行動していた。


「なぁ、これは気持ちいいだろう。俺はもっと庶民に広めるべきだと思う」

「温かいお湯につかるのですか、ふ、不思議な感覚です、いつもは水浴びくらいなので、でもとても温かくて気持ちいいです」

「お風呂はいいですねー、私は盥にお湯を作っていつでも入れますけど……、でも大浴場の広いお風呂に入れるお二人が羨ましい。どこかに天然温泉でもないかな」


 ラジクの都はその都市水道が整備されていて、あまり高くない宿屋でも風呂があったからそれを楽しんだ。ディーレは初めての風呂に対して恐る恐るだったが、慣れたら素直にそれを楽しんでいた。


 ミゼは旅の間も余裕があれば盥で風呂を楽しんでいる、俺達も大きな風呂の器を買ってみようか、『魔法の鞄(マジックバッグ)』があるから持ち運びには心配がない。


 そうして充分に休養をとった後、俺達は冒険者ギルドで仕事を探し始めた。平民は日々しっかりと働いてその糧を稼ぐべきである、そうしないと金銭はいずれ減っていってしまうからな。


『ポー草を10本採取、ランク銅以上、常時依頼』『マジク草を10本採取、ランク鉄以上、常時依頼』『エコロ村でワイバーン退治、ランク鉄以上』『ラジヌの東の街道に出るエビルウルフ退治、ランク鉄以上』『ミリタリス国までの護衛依頼、ランク銀以上』『パーティ募集、ランク鉄以上』『食肉用の動物買い取り、ランク銅以上、常時依頼』


「うーん、このエコロ村でワイバーン退治でもするか?この国には迷宮が無いし、少し闘いの勘を戻しておきたい」

「そういえばサンヌ国とミリタリス国と続き、あまり強い魔物には遭っていません。僕も参加します、鍛えることを怠ればすぐに力は失われますので」

「ワイバーンですか、初めて戦う敵ですねー。相手は低位と言っても竜の一種、空の上で戦うのでしょうか?」


 俺たちはラジクの都で休憩をとると、歩いて一日ほどのエコロ村に向かうことにした。エコロ村では酪農が盛んで、その牛や豚を狙ってワイバーンが来るということだった。


「全滅させるのは無理なので、できるだけ最低でも20頭は駆除して頂きたいのです。他の冒険者の方にも頼んでいますが、まだあまり成果が出ていません」


 なんでもこの時期にワイバーンは子育てを行うらしい、その為に普段は森で済ませている食事をしに人里まで降りてくるらしい。


 ぐるるっるるるる


 ワイバーンの大きさは空を飛ぶ、やや大きい馬くらいの翼と鋭い牙を持った小型のドラゴンのような姿だ。ドラゴンよりも鋭角な頭が特徴的だな。


「来たぞ、家畜に飛びかかる前に地面に落とす。そこからはなるべく飛ばさないように攻撃する。まずは『標的撃(ハンティングショット)!!』」


 俺が中級魔法の『標的撃(ハンティングショット)』にかなりの魔力をこめて行使する、普段ミゼが使うものとは比較にならないほどの衝撃がワイバーンを襲う。


 ぎゃあうおううおう!!


「いきますよ、目には閃光弾。翼の付け根に風撃弾です、どうですか?」

「閃光弾の方は効いております、風撃弾は少し動きが鈍くなりました。レクス様がおりますので、それで充分でございます」


 俺はディーレ達が怯ませてくれたワイバーンに飛び乗って、まずは両翼の骨を順番にグギリッと音をたててメイスによる打撃で圧し折った。


 ぎゃうぎゃぎゃがあぁぁ!!


 ワイバーンの首は鳥と同じように飛ぶせいだろうか、意外と細くて脆かった。俺は暴れるワイバーンから落ちないように気をつけながら、さっき翼の付け根の骨と折ったよりも軽く、バキリッという音でメイスで頸椎を叩き潰した。


 こんなふうに地面に落としてしまえば、ワイバーンは怖い敵ではなかった。倒した後にはいつもの剥ぎ取りのお時間だ、ワイバーンで剥ぎ取るところは討伐証明になる細い頭、魔石、それに爪と丈夫な被膜だ。


 このワイバーンの被膜には死んだ後も水を通さない、水を被ってもそれをはじくという性質がある。雨の日に使う天幕をこの被膜を使って作れば、かなり快適に雨の日を野外でも過ごせる。爪の方は水に浸して柔らかくして細工を施せば、魔力をこめた装飾品になるそうだ。俺達は売却用と自分達用に喜んでワイバーンの素材を剥ぎ取っていった。


「おい、見ろよ。すげぇ!!」

「さすがは金の冒険者だ!!」

「俺達だっていつかは、ああなれる!!……かも?」

「やだぁ、良い男!?」


 俺達がワイバーンと戦っていると他の冒険者が煩かったが、いつものごとく俺はそれらを聞き流した。そんなことよりもワイバーンは翼があるので、飛ばれた時の戦い方がかなり難しかった。


 うぎゃあぁおうぅぅぅ!!


「いくぞ、『重なり(オーバーラップ)し小盾(スモールシールド)』空に逃げれば安全だとでも思ったか?」


重なり(オーバーラップ)し小盾(スモールシールド)』は本来ならば自分の周囲に小さな盾を何重にも出現させて、己の身を守る為の防御魔法である。


 今の俺はその魔法で空中に多数の透き通った無属性の小さい盾を出現させ、それらを蹴って空へと強靭な脚力で飛び上がる足場として利用したのだ。人目が無ければ『飛翔(フライ)』の魔法でいいのだが、ここには他の冒険者もいるから仕方がない。


 ぼうおぉおおおぉぉぉ!!


 空中に生み出された足場を蹴って、俺はまずはワイバーンの吐いたブレスを避けた、低位とはいえ一応は竜だ。ブレスという熱い炎のような魔法を使う、俺はそのまき散らされるブレスを、空中で何度も足場を蹴って姿勢を変えて回避する。


 うがっぎゃああああぁ!?


 俺の横を熱をもったブレスが通り抜けていった、そのまま俺はまずはワイバーンを地に落とすべく、ドガガッとその細い頭めがけてメイスを振り下ろした。飛龍は突然頭を揺さぶられ飛んでいる翼への力が弱くなってしまい、がくんとその高度は落ちた。


「はい、どうかそのまま素直に落ちてくださいね」

「閃光弾はなかなか強力な武器でございます」


 下で待機していたディーレが魔法銃ライト&ダークの射程範囲内に入ると、容赦なくワイバーンの両目に閃光弾を撃ち込んだ。ただでさえ、脳を揺らされて平行感覚を失ったところに視覚まで失った、さすがに抵抗できずにワイバーンは地面へと落下する。


 うぎゃ、うがあああぁぁぁ!!


「ん、これで終わりだな」


 地面まで落としてしまえば後は手順はそう変わらない、今回は翼も狙わずに俺はその細い首にある頸椎の骨をグギリッとメイスで叩きおった。


「空を飛ばれるのとブレスの攻撃がキツイな、地面に落とせばわりと楽に倒せる」

「閃光弾はかなり使える武器です、このライト&ダークをくださったレクスさんに深い感謝を。また恵みの源である神よ、必要な助けを必ずお与えになることを心から感謝します」

「武器も優れておりますが、ディーレさんの射撃が正確なので有効な武器になっています。天才はこれだからもう!?天は私にも何か与えるべきです!!」


 まぁ、こんな調子でワイバーンは順調に駆除していった。毎晩二、三頭は襲ってきたから、ざっと五十体程倒して村長に山ほど積まれた討伐部位の頭を見せておいた。


「いやぁ、今年は良い冒険者が来てくれた。実は私には可愛い姪っ子がい……」

「早く依頼達成の印をくれ、娘だか姪っ子だかには興味がない」


 この世界では依頼を達成する度に女を紹介されるのが当然なのか!?……まぁな、現実的に考えたら当然といえば当然なのだ。知り合いの女性を将来有望か、または稼ぎの良い男と結婚させたいと考えるのはどこの親達でも同じことなのだ。


 だが今のところ俺には必要ない、綺麗な女を口説くよりも知らない知識や珍しいものを見る方が楽しいからな。ディーレは宗教上の理由で、ミゼは何故か知らないがメス猫に興味がないらしいな。


 十日と少しでワイバーン退治を片付けて、冒険者ギルドで依頼達成の報酬を貰った。それは金貨が5枚ほどだったが、ワイバーンの素材を買い取って貰ったので最終的には金貨が30枚ほど儲かった。


 俺がその買い取り価格に上機嫌で冒険者ギルドを後にしようとすると、ギルド職員が慌てて俺の姿を追ってきた。


「き、金の冒険者レクス様、貴方あてに指名依頼がきております」


 俺はやけに綺麗な白い紙が入った封筒を受け取った、こんな上等な紙を使えるのは貴族か、それとも商人だろうか、いずれにしてもあまり良い予感がしなかった。


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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