第六十五話 魔法を使う意味がない
「そいつは卑怯者だ、よそ者の力を借りて試練を果たしたと言えるものか!?」
「私は確かにこの獲物に一人で立ち向かった、戦いの中で他の助けがあったことも神の助けだと思っている。もう私は一人前の戦士だ」
俺達を連れてきたファイスという若者はそう壮年の戦士に反論していた、それからも二人は言い争っていたが、族長らしき者が現れてこういった。
「ファイスの訴えが正しいかどうかは私が神に問うてこよう、だが神は試練に勇敢に立ち向かった者に訪れ人という助けを与えたのだ。答えは出たようなものだが、ファイスは私が戻るまでは戦士としてはまだ認められない」
「そ、そんな」
「…………畜生!!」
族長と言い争っていた壮年の男性はまだ納得がいかないらしく俺達に向かって、最初は敵意を向けてきて傍にきてこんな文句を言っていた。
「あれはあんたらの獲物だった、もっとそう主張すべきだったんだ!!そうすればファイスは一人前の戦士にならずにすむんだ――!!」
そう短く文句を言って、その壮年の男性はどこかへ姿を消した。反対にファイスは俺達に話しかけてきた。
「サクルトは悪い男じゃない、立派な戦士だ。だけど私が戦士になることにずっと反対していた、戦士とは一人前の男と認められることなのに……。私は早く戦士だと認められたい」
そう言って落ち込むファイスはとても幼い子どものように見えた、彼はもう成人しているそうだが実際の年齢よりもずっと若く見えて、どうにも危ういという印象を受けた。
「ふーん、そうか。だが、お前が立派な戦士になれたらいつかサクルトも認めてくれるだろうさ」
「うん、私は立派な戦士になったとサクルトにきっと認めて貰う!!」
俺達は他の街や国に行く前にちょっとこの部族に寄ってみることにした、森の中で過ごす彼らの生活がどういうものか気になったからだ。
「この毒は獲物を仕留めるのに使う、毒だが傷に入らない限りは効果がない。だから、狩りに利用できるんだ。ただ、毒を作るのに煮詰める作業が危険で滅多に作ることがない」
「……あのデビルベアが弱っていたのはこの毒のせいか」
ファイスは嬉しそうに、デビルベアに傷を負わせた矢につけた毒のことを教えてくれた。この毒は傷口から入らないのなら、この毒で獲物を仕留めて食べても問題ないらしい。毒にもいろんな種類があるわけだ、なるほどこれは面白い。
「ほうこんな弱い弓を作ってどうする?何!?こんなに簡単に火を熾すことができるのか、どうか教えてくれ。弓切り式というのか、この弓は狩りに使うものではないのだな。素晴らしい、力が弱くても火が熾せる良い道具だ」
「魔法は使われないということですから、それならばこの方法が簡単ですよ」
一族の年よりは俺が以前に教えた弓切り式という火の熾し方を、ディーレから教わって感心していた。今までは単純に両手で棒を回す方法をとっていたようだ。
「汚れた水は荒い布地、砂、木炭、小石これらを丈夫な布にいれて水を通すのよ。集めた水は一度お湯にして使う。汚れたものを焼き尽くす、どうだ凄いだろう」
「ああ、連続式濾過機でございますね、水に一度火を通すのは大腸菌やエキノコックスが怖いからでございますね」
ミゼは一族の子ども達に珍しがられていた、またミゼ自身も奇妙なことを知っていた。汚れた水を浄化する方法は俺も知っていたが、ミゼはその理論がわかっているようだった。
「砥石?これはナイフを研ぐ為のもの、我らはナイフを稀に商人から物々交換で手にいれる。だが砥石など使わなくても、森の中にある石でも充分に研ぐことができる。ほとんどの物は森で手に入る、だから森の神を怒らせてはならない」
「ほう、砥石が無いときには俺も試してみるとしよう」
ファイスは獲物を譲ってくれたことが嬉しかったのか俺によく懐いてくれた、嬉しそうにこの森の中の生活について話をする。
「これはマテバシイっていう木の実よ、火で炒って食べると美味しいの。森の中には沢山の恵みがあるわ。えっ、このタンポポも食べられるの!?それは嬉しい。うん、うん、花と葉は油で揚げるか炒めるのね。根まで食べれるとは知らなかった嬉しいわ!!…………でもこのコーヒーという飲物は苦いのね」
「少し苦みはありますが、飲みだすと栄養もあるし癖になる飲物です」
ディーレは村の女の子に人気だった、話し方が優しいし今まで学んだ知識を惜しみなく彼女たちに伝えていた。
「ハチの子を食べたことがないの、あれはなかなか甘くて美味いよ。巣をみつけたら煙で燻して暫く様子をみる、働き蜂達が巣を諦めて離れたら素早く棒で巣を落としてとってくる。成虫だって食べれる、あの毒は噛み付かれなければ平気だよ」
「ハチの子は油で炒めると美味しいとは聞きます、成虫を食べるのは危険ですよ。どうしても食べるときには、口の中に傷がないか注意することですって聞いてます。私は今とっても大切なことを、って尻尾を引っ張らないでぇ――!!」
珍しくミゼが真面目に話をしていると思ったら、子どもたちから耳を触られたり、尻尾を引っ張られそうになったりと大人気だった。暫く逃げ出したミゼと、それを追いかける子ども達の追いかけっこが続いていた。
「少数の民族だから警戒心が強いかと思えば、そうでもないな」
「逆に少数だからこそ訪れる人に対して相手が友好的であれば、向こうも好意的に接してくれるようです」
「レクス様はファイスさんに懐かれてましたが、ディーレさんは女性に口説かれてましたね。私が尻尾を引っ張られている間に、これだからもうイケメンは油断できない」
ワンダリングという部族はとても俺達に対して好意的だった、最初に獲物を譲ったのが良かったらしい。こっちが既に知っている知識や、逆に知らなかったことを教えてくれた。
それらの知識は興味をひかれるものが多くて、俺達は時には実践しながら初めて体験することが沢山あった。ただ、一つだけワンダリングという部族が認めないものがあった。そう族長だという男が言っていた。
「魔法?あれは世界に反するものだ、我が一族では使う者はいない。訪れ人よ、この世界は魔法などなくとも、自分や仲間の力で生きていけるものだ」
このワンダリングという部族は魔法というものを一切使用しないのだ、彼らは自分の力だけでこの森の中で生きている。
そして族長だという男は神にファイスが戦士であるかを問うと言って姿を消した、どこかに行って半日ほどして戻ってきたこの男は嬉しそうにこう言った。
「ファイスは立派な戦士だと神が認められた」
「本当か、私は嬉しい!!」
族長という男に戦士だと認められてファイスは心から喜んでいた、逆に先ほど抗議していたサクルトという男はギラギラとした目をしてずっと族長を睨んでいた。そして、悪態をついていた。
「ファイスは戦士なんかじゃない!!ああ、畜生」
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