第六十一話 力が全てと言いたくない
鉄から銀への昇格試験の件ですが、レクスさん。貴方の依頼達成の数と質で、特に問題がないと判断されました。よって、これから筆記試験を受けられますか?」
「ああ、頼む」
俺が冒険者になってまだ約2年も経っていなかったが、ミリタリスの国では討伐や魔物を倒しての採取依頼が重視される。反対に雑用などの依頼は評価が低い、俺はどうにか昇格試験の資格を貰えた。
冒険者ギルドは各国にあって、ある程度の情報共有はしているが、その活動方針は様々だ。新人冒険者を大事に育てる丁寧なギルドもあれば、死にたくなければ自力で何とかしろっという乱暴なギルトまである。
国柄からしてミリタリス国は後者であるらしかった、戦うことをとても好むこの国は国民全員にそういった傾向が強い。
その結果、戦争ばかり起こしそうな国かと思えばそうでもなかった。本を読むよりも剣を振るうことが好きな国民性から、魔法と言う分野が軽視されがちなのだ。
それに、ミリタリスは迷宮の探索から得られる魔石や、娯楽としての闘技場を観光としている国だ。攻められても得られる物が少ない、迷宮の入り口は大体のどこの国にもある、闘技場を手に入れても戦う戦士がいなくては意味が無い。
ミリタリスから隣国を攻めるということもしない、この国は食糧事情があまりよくないのだ、それに魔法という分野に力を入れていない。だから、他国から食料を輸入している量が多く、その肥沃な大地を奪うよりは迷宮の資源で買うことを選んでいる。
ただし、他国が食物の輸入に制限をかけたりすると、ミリタリス国はただちに戦争に突入する。隣国からすれば商売においてお得意さんなのだが、その性格からいろんな意味で恐れられている国でもあった。とにかく血の気が多い国なのだ。
「ここはつくづく脳筋な国でございますねぇ」
「ミゼ、何だそれは脳筋?」
「そんな動物は見たことがないです、ミリタリスにいるのでしょうか?」
ミゼはそんなミリタリスの国にある冒険者ギルドの対応に対してそう言っていた、脳筋とは何だろうか。動物を解体したことは沢山あるが、脳が筋肉のようになっていたことは無かった。ディーレの奴も首を傾げていたから、いつものミゼの不思議発言だと思う。
俺はミリタリス国の筆記試験を受けたが、特に問題はなかったと思う。魔物も他の国ほど珍しいものはいなかったし、薬草などの採取依頼にも変わりはなかった。
「はい、筆記試験も合格です。それでは次に面接を行います、こちらの部屋にお越しください」
「分かった」
銀の冒険者になるには実績、筆記、面接、実技の四つの関門を通らなければならなかった。しかし、ここでもミリタリスはその国らしい判定を行った。
「ではそう言った理由で依頼を断る場合――――――どりゃあああ!?」
「…………なんなんだ?」
最初は普通に冒険者として常識的なことや、困難な依頼を断る方法やその理由などについて話していた。しかし、その時々でミリタリスの銀の冒険者である試験官が奇襲をかけてきた。
草食系とはいえヴァンパイアの俺からしたら、それは奇襲でもなんでもなかった。そもそもがやけに心音が速いなと思っていたから、その音に合わせて振り下ろされるナイフなどを片手で止めるだけで済んだ。試験管たちはこころなしか満足そうに見えた。
「レクスさんは臨機応変に対応する力、それが充分にあると面接で認められました。最後は実技です、定期的に月に一回開かれる闘技場で第二選抜まで残ることができたのなら、貴方は銀の冒険者です」
「闘技場?第二選抜?」
ギルド職員は女性だったが、やや興奮気味に最後の試験が分かっていない俺に向かって話し始めた。
「我が国では月に一回は必ず闘技大会が行われます、約百人ほどの参加者で集団戦を行うのが第二選抜、これは鉄の冒険者なら無条件で参加できます。そうでない者は推薦状が要りますが、貴方には既に参加資格があります」
その女性はだんだんと声が上がっていき、心音もかなり速いものになっていた。ギルドの職員達も、特にそれを不審に思わずに平然と仕事をしていた。なんだこれ、この国の人間は皆がこうなのか、習慣とは恐ろしい。
「そして、その百人の中から八人の選ばれた戦士を決めるのが第二選抜です!!戦う為に選び抜かれた戦士たち!!飛び散る汗!!血に染まった闘技場!?あああ、その何て素敵なことか!?もう今から楽しみです。…………というわけですので、第二選抜に残れるように鍛錬することをおすすめします」
「あ、ああ、分かった」
このミリタリスという国は怖い、国民全員がこんな奴ばっかりなのだろうか。だが、百人の中から八人に残れるだけで銀の冒険者になれるというのは良い条件だ。
あくまでもヴァンパイアという、怪力と俊敏さを兼ね備えた俺にとってはという条件つきの話ではあったが。最近増した身体能力の高さを思えば、百人の攻撃を避けて勝ち残ることは難しくない。
「というわけで、ディーレにミゼ。俺に集団戦での攻撃の回避について、模擬戦をして欲しい。あっ、ディーレもここで鉄の冒険者になっておくか? 多分、お前の実力なら楽勝な気がする。ここはとにかく力が一番という国だ、多分かなり簡単だろう」
「模擬戦の相手は喜んでお引き受けしますが、……僕は別の国で鉄の冒険者の試験を受けようと思います。どうも、この国の皆さんには迫力負けしてしまって」
「レクス様やディーレさんの美貌もあまり重視されない国ですね、お二人がナンパをされない国なんて、私初めて見ました。でも、フツメンには荷が重い、インドア派に栄光あれ!!」
いつものごとくミゼの不思議発言はおいておく、この国は力を重視するので今では武術でもそこそこ戦えるディーレなら、一人前の鉄の冒険者になれそうだった。
でも、確かに穏やかで優しいディーレにこの国は合わないかもしれないな。もしかしたら、鉄の冒険者の昇格試験でも奇襲への対応とかあるかもしれん、そんな馬鹿なと思うが国民性を見てみるに……とても怪しい。
「それでは行きます、衝撃を抑えた風撃弾を使用しますので、レクスさんも真剣に回避してください」
「私は魔法でお相手します」
「ああ、頼んだ」
ディーレの魔法銃ライト&ダークは結構、強力な力があって怖い。魔法銃そのものもなのだが、それを使うディーレの魔力が高いし、オーガの目を打ち抜くほどの技術がある。
ミゼだって残念なところがある使い魔だが、中級魔法までは使用できるのだ。普段からディーレと連携をとっていることもあり、なかなか良い訓練になった。
「……二人共、強くなったなぁ」
「ありがとうございます、それを避け続けるレクスさんはもっと凄いです」
「くうぅ、絶対に一発くらいは当てたいと思います」
俺はディーレの魔法銃ライト&ダークの攻撃を、彼の目線や銃の角度などから弾道をよんでかわしていく。少し気を抜くとミゼの追尾式の中級魔法が俺を襲う、避けられるならば回避し、無理な時には拳に魔力をこめて迎撃してその魔法を無効化してみせた。
そして暇があれば冒険者ギルドの図書館などでいつものように読書に励んだ、しかしその中には物騒な内容が書かれている本たちが多かった。
「お互いに納得して挑んだ戦闘ではどちらかが死んでも罪にならない、ここまで戦うのが好きな国民だとは」
「おかげで僕は常時依頼の鍛錬場での回復魔法で稼いでいます、この国は魔法をあまり好みませんが回復魔法は発達しています、…………何でも治ればまた戦うことができるからだそうです」
「なにそれ怖い、なんてバトルジャンキーな国民性!?」
ディーレの言うとおりこの国では魔法は軽視されがちだが、回復魔法の他にもう一つだけ重要視されている魔法がある。それは『身体強化』という魔法で、元々の高い身体能力の体を更に強化するという付与魔法だ。
「…………あれは酷い、もう勝負はついているだろうに」
「…………神よ、力尽きた者に優しい眠りを早くお与えください」
「犯罪奴隷の場合はできるだけ、派手な戦いをした方が人気が出るのだそうです。……もうこの国怖い、スプラッタは映画の中だけでいい」
俺達は闘技場の下見に来ていた、この国には奴隷制度が存在する。それは犯罪奴隷だ、何らかの強盗、殺人などを起こした国民は犯罪奴隷として国に管理される。
窃盗や詐欺などを起こした者も奴隷にされるが、彼らは総じて毎日のように闘技場でお互いに戦うことになる、そこで高い戦闘技術を披露すれば特別な軍隊にも入れるそうだ。
つくづく、戦闘ということを好む国だ。だが、犯罪奴隷はその奴隷になった経緯から回復魔法を闘技場で戦った後もかけてもらえない。戦闘に敗れればそれは死刑が行われるようなものだ。
「銀の冒険者証だけ手にいれたら、俺はもうこの国を出たいな」
「私もです、……特にもう犯罪奴隷同士の戦いは見たくありません」
「ノージョブです、この国ではもうノージョブでいいと思います!!」
俺達にはどうにも合わない、血の気の多い国民性だった。次の闘技大会までは俺は力を生かしての雑用依頼、ディーレは鍛錬場での回復系の依頼。ミゼは宿屋に堂々と引き籠っていた。
ミゼは俺の模擬戦以外では外に出てこなかった、働きたくないでござるとしきりに言っていたが、俺も無理はないと思って特に強制はしなかった。今のうちに愛玩用としての生活を満喫しているといい、元々はミゼは愛玩用の魔物だ。
「よっと、まぁそんなに難しいことではないな」
「うおりゃあああああ!!」
「死ねえええぇぇええ!!」
「お前、裏切りやがったなぁ!?」
「勝てばいいんだよ、勝てば!!」
「油断したな、うぎゃあ!!」
待ちに待ったというわけでもないが、俺は闘技大会に参加をしていた。広い闘技場で約百人以上の人間がその力を競っている、というか酷い乱戦になっている。
俺は高い身体能力を生かして回避することに専念していた、時々ギルドでの査定に響かないように数人を殺さない程度に叩きのめした。
「ふぅ、どうにか八人に減ったか、これで銀の冒険者になれるか」
俺は第二選抜を通過したという証を闘技場の職員から貰うと、そのまま次の試合は棄権することを伝えた。するときょとんと呆気にとられたような顔をした職員は、こう言った。
「第二選抜以降は、試合を棄権することは認められていません」
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