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第五十五話 用心してもしたりない

 俺達はウィズダム国とアクアルム国の、国境の一つである関所に来ていた。街道沿いに国を移ろうとすると多くの場合は関所というものがある、ここでは街や都と同じように身分の証明と通行料が必要になるのだ。


「鉄の冒険者レクスか、それに銅のディーレ、少し調べさせて貰うぞ」

「ああ、わかった」

「はい、お仕事ご苦労さまです」

「私もいるのですよ、この可愛らしい従魔ミゼのこともお忘れなく!!」

 

 ウィズダム国の役人である番人達が俺の体や荷物などを珍しく熱心に調べる、フロウリア国からウィズダム国に入る関所ではこんなことは無かった。どうやら、ウィズダム国で攫われた上級魔法が使える貴族の少女であるスペラ、彼女と親しくしていたということが伝わっているのだろう。取り調べの態度もどこかよそよそしい。


「アクアルム国へは何をしに行く?」

「ん?ウィズダムとフロウリアが戦争をしただろう、仕事も減りそうだから移る」

「早く終わって欲しいものです。どうか、神の栄光がとこしえにあるように。神がその御業を喜ばれるように」

「物価も高くなりますし、冒険者への依頼も減りますからでございます」


 こうして国境の関所を越える時は、俺はあらかじめ一度『隠蔽(ハイド)』の魔法を使って国境を越えて、『魔法の鞄(マジックバッグ)』を近くの森の樹などに隠しておくのだ。


 『魔法の鞄(マジックバッグ)』は大変に珍しい品で、持っていることがわかると面倒事になりやすいからだ。だから今回もそうしておいた、荷物を調べられてもおかしな物など見つからない。


「よし、通行料として銀貨2枚受け取った、もう通っていいぞ。」

「ああ、よし行くか」

「今度の国はどんなものがあるんでしょうか、楽しみです」

「レクス様、ディーレさん。美味しいものが食べたいですねー」


 俺達の他にも数人が関所で並んで待っていた、俺達はそのまま街道をゆっくりと歩いていった。いつもなら時おりする鍛錬もお預けだ、何でもないおしゃべりをしながら歩いていく。


 そうやって太陽が少し傾いたくらいの時間を、ゆっくりとただ話したり歩いていくだけだった。暫くして俺は足を止めて、森の中へと入っていった。そこでいつものように鳥を狩ったり、食べられる野草を集めたりした。ディーレ達も同じことだ、また少し太陽が傾いていった。


 半日ほどの時間が過ぎてから、俺は動いた。『広範囲(ワイドレージ)探知(ディテクション)』の魔法を使って、俺たち以外にもう他に誰もいないことを確認する。


「よし、いいぞ。ステラ、降りてこい」

「わかった、よっと『浮遊(フロート)』ずっと、待っていて疲れちゃった」


 俺のかけた言葉に『魔法の鞄(マジックバッグ)』を持ったステラが、大きな木の上から降りてきた。


「一応は警戒していたようだな、ウィズダムで侯爵令嬢のスペラと俺達がよく会っていたことは知られていた。国境の関所からずっと誰かが後を追ってきていたが、収穫がないと分かったか引き返した」

「良かったです、これでとりあえずは一安心ですね。ステラ、よく我慢しました、待たせてごめんなさい」

「ディーレさんが謝ることじゃないし、私の方こそありがとう今日も助けてくれて」

「これで、一応は安心といったところでしょうか」


 俺達は隠れて国境を越えることもできたのだが、あえて堂々と正式に関所を通った。その方が侯爵令嬢スペラの誘拐事件と無関係だと思われやすい。


 今は名をステラに変えている彼女を俺が夜が明ける前に、ディーレとステラ本人の魔力も使って、『隠蔽(ハイド)』の魔法で先にここに運んで待っていて貰った。


「まぁ、それでもまだ少し警戒をしておこう。ここはウィズダム国からすれば隣国だ。街に入れば、潜伏している諜報員がいるかもしれない」

「ごめんなさい、迷惑ばっかりかけてるわ」

「もう気にしないでと言ったでしょう、ギルドではまだですが、僕達はパーティの仲間です」

「はい、やっと癒しの女の子枠が!?女っ気の一つもなかった生活も終りでございます!!」


 パチンッ!!


「目が――、目が――!!」


 俺はミゼの額をまた指ではじいておいた、ステラが女という枠に入るか!?まだ、子どもだぞ。またミゼが額を攻撃したのに、目をおさえて転げまわっている。お前は額に第三の目でもあるのか?


 ステラは俺とディーレからすれば妹みたいなもんだ、ステラ本人もディーレのことを兄のように慕っている。実の兄が酷すぎたからな、ディーレは優しいし理想的な兄になるだろう。


「このアクアルム国は明日から、『飛翔(フライ)』と『隠蔽(ハイド)』の魔法で上空を通り抜ける。基本的に冒険者ギルドには寄らない、ステラのギルドへの登録は次の国ですることになる」

「ここはウィズダムの隣国ですから、そうした方が安全でしょう」

「私も頑張る、もっと上級魔法も覚えて、『飛翔(フライ)』もできるようにする」

「暫くは『隠蔽(ハイド)』の方で頑張りましょう、ステラさんの魔力は高い伸びしろがあります」


 もう日も暮れてきたので、そのまま野営の用意に入った。いつも通りに魔法で火を熾そうとするステラを止める。


「火打ち石がないから、今日は弓切り式の火のつけ方を教えておく。次の国ではできるだけ魔力を消費したくないんだ」

「そうなの、分かったわ」

「魔法以外で火を熾すのは、孤児院で火打石を使って以来です」

「原始人に戻った気分ですねぇ」


 弓切り式の火のつけ方とは、火きり板と弓、火きり棒などを使う。この弓は狩猟に使うのではなく、火きり棒に巻き付けて使う。弓を木と紐にわけてから、二回ほど火きり棒に巻きつけて弓の形にする。


 この弓を火きり板に燃えやすい枯れ葉などを乗せておく、さっきの弓を直角に固定して前後に動かす。何度かすると摩擦の熱が起こる、そっとそこに息を吹きかけながら続ければ、それで枯れ葉に火がついた。


「凄い、魔法が無くても火がつくんだ」

「魔法が使えないならこの方法が楽だ、他に火きり棒を単純に掌で回転させるやり方もあるが、もっと力がいるし慣れるまでは手のひらが痛い」


 いつものように焚き火をして狩った獲物を捌く、今日の獲物は鳥だったから首を切り落として血抜きをした。羽をむしってから、背骨の真ん中あたりから肛門までを半円状に切る、そこから内蔵を抜き取った。


「うっわわわわ、慣れてきたけど気持ち悪い感触ね」

「後は中を水で洗うだけですね、僕が切り分けて鍋にいれます。そちらのお湯で手をよく洗ってください」


 ディーレがステラの補助をしながら、料理をしていた。その間に俺とミゼはできるだけ枯れ木や、枯れ葉を拾って集めておいた。


 今日使う分だけじゃない、何日分あってもいい。とにかく、『魔法の鞄(マジックバッグ)』に放り込んでいった。


「え?その花のタンポポも食べれるの?」

「タンポポはコーヒーという飲物にもできますよ、時々レクス様が飲まれます」


 俺はどちらかと言えば紅茶の方が好きだが、タンポポで作るコーヒーという飲物も気に入っている。そこに、牛の乳と蜂蜜をたっぷりいれられればもっと美味い。ミゼは飲み方が子供のようだとよく言う、煩い子供っぽくてもこちらの方が美味いんだ。


 コーヒーの作り方はミゼから聞いた、タンポポの根にあたる部分をよく洗って、細かく刻み天日でよく乾かす。『乾燥ドライ』の魔法を使ってもいい。


 それを鍋などで弱火で茶色くなるまで炒ったら、薄めの布袋などに入れて石ですり潰す。それをコップに入れて、お湯を注げば完成だ。手間はかかるが偶に飲むとやはり美味い。


「できましたよ、鳥肉を焼いたものと野草の炒めもの。それからレクスさん、ハーブを入れたスープです、冷めないうちにどうぞ」

「うん、肉汁がでていて、あっさりしてるがスープが美味い」

「レクスって、固形物が食べられないなんて、可哀想な気がするわ」

「本当に何故なのでしょう、不思議です。普通のヴァンパイアだって食べれますのに」


 俺は相変わらず、固形物が食べられない。いや無理をすれば食べられるのだが、人でいえば苔のついた岩を食べろ、そんな気分になる。


 食べれなくはないが、もちろん気分が悪くなる。固形物に対して食欲がわかないということにも慣れた、飲物だけでも世界にはいろんなものがあるものだ。


「うひゃあああああ、速い、気持ちいい――!!」

「これは僕も楽しいです――!! 神よ、あなたの慈しみと、その御業に感謝いたします」

「楽しむのはいいが、『隠蔽(ハイド)』の魔法の集中は切らすなよ」

「人は一人じゃ飛べない、飛んじゃいけない、それが分かったから……です」


 俺と他の仲間に命綱をつけて、アクアルム国の上空を一気に飛んでいく。ミゼの奴が珍しく真面目なことを言っている、たしかに人間なら一人では飛んではダメだ。


 もし、空中で何か起こったときに備えて、誰かと一緒に飛んだ方がいい。そうすれば何か起きても、もう一人が『飛翔(フライ)』の魔法を使って助けられる。


 だが、そもそも『飛翔(フライ)』の上級魔法で、本当に空が飛べるほどの魔力の持ち主がまず珍しい。だから、二人組を作ることも難しいのだ。魔力が弱いと『飛翔(フライ)』は『浮遊(フロート)』とほとんど効果が変わらない。


「できるだけ枯れ木と枯れ葉を拾って、『魔法の鞄(マジックバッグ)』に入れておいてくれ、多ければ多いほどいい」


 いつもよりも早めに俺達は今日の野営をする森についた、まだ日が落ちてすらいない。だから日の光があるなかで、沢山の枯れ木や枯れ葉を集めておく。


 少し申し訳ないが適当な木に謝ってから、伐採して『乾燥ドライ』で水分をぬいて、薪にと荷物の中にあった斧で切っていった。


「あのレクスさん、どうしてこんなに沢山の薪や枯れ葉を集めるんです?」


 俺はディーレの言葉にギギギギッと首を回して彼の方に振り返った、皆に悪いことをしている気がして多分ちょっと虚ろになっているだろう瞳でこう答えた。


「次に俺達が行く国は、砂漠(・・)の中にあるんだ」


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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