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第五十二話 やはり上級魔法は恐ろしい

「私なら使います、むしろ剣で殺すよりも楽でいいでしょう」

「モンスターを狩るのとはわけが違う、相手は国は違っても同じ人間だぞ」

「そ、そうよ。人間なの、人間なのよ」


 ヴィッシュは俺の問いかけに浅薄な言葉を返した、モンスターは明確な人間の敵。それを倒すのに最初は恐怖はあっても、罪悪感は抱かなくてすむ。だがスペラにとって人間は同族、どうしても倒すのに躊躇いが生じるだろう。それが分からないヴィッシュだとは思えないのだが、彼は俺の予想を覆すこと言った。


「スペラがいずれ上級魔法を使って男爵家を作るにしても、それ以外に冒険者になったとしても、私は魔法で人を殺すのは早いか、遅いかの違いだと思います」

「それをスぺラが望まないとしてもか、選ばないと考えていてもか?」

「…………私はなるべく人は殺したくないわ、相手に殺されるなら反撃はする、でも!!」


 実はヴィッシュの言っていることは正しい、スペラは国から上級魔法が使える事を知られている。そして、その魔法に攻撃性が高いと認められれば、彼女は軍事的に利用されるだろう。


 彼女が完全に人を殺さずに生きていくのは難しい、どうしてもそれを避けたいのならば、魔法を封印して侯爵令嬢として望まない相手と婚姻する。


 もしくは自分の生まれ育った国自体を捨てなくてはならない、だがそれには追っ手がかかる。まだ、幼いスペラにはそれから逃げ切ることは難しい。


「スペラ、貴女は自分のおかれている状況を知るべきです。上級魔法を使いこなして人を殺めることができる魔法使いになるか、魔法を捨ててどこかの貴族と結婚するか、……最後はおすすめできませんが、殺されるのを覚悟で国を捨てるかです」

「――――――!?」


 ヴィッシュの冷静な、そして冷酷な言葉にスペラはとても驚いていた。無理もない、スペラだってヴィッシュの言っていることが薄々正しいと分かっているのだろう。


「スペラさん、落ち着いてください。まだ時間はあるのです、今回は僕達がお守りしますから」

「ガキに難しい問題を今すぐに押し付けるな、まだスペラは子どもだ。今回の戦場でも他の二人ほど役に立つとは思われていない、考えて選択する時間がある。それなら、他に道が見つかるかもしれん」

「例えば、国が文句をいえないような、防御専門の上級魔法の使い手になるとかですかね。攻めるだけではなく、守ることも大切なことなのですよ」


 いきなり厳しい現実を叩きつけられて、スペラの顔色は真っ青になってしまった。俺達は口々に、そんな彼女を庇うように話しかける。


 おっ、ミゼが珍しく良いことを言う。スペラの使う上級魔法、本人は人の二倍ほどの大きさをした、土でできた人形の軍団だと言った。そう、別に軍団だと言っても戦わせなくてもいいのだ、人を守ることにだけ集中する魔法を使ってもいいんだ。


「珍しく、ミゼがまともなことを言った。これは、また何か起こるな」

「レクス様、止めましょう。それはフラグというものです、そしてたてると面倒な事が起きるという厄介な。あっ、でも恋愛シミュレーションの可能性もって、猫でどうしろと!?はぅ、いっそ殺せ。イケメンに今度こそ、なるんだ私は……」


 良いことを言ったわりにすぐにダメな部分を見せるのが、ミゼという従魔である。偶には頼りになるが、逆をいえば偶にしか頼りにならない。


 フラグを立てるとはなんだろうか、フラグとは古い言葉で旗という意味があった気がする。旗など立てた覚えは俺にはないんだけれど。


 恋愛しみゅれーしょん?こっちの言葉は更に追究したくない、勘違い女は充分に間にあっている。冒険者ギルドでよく声をかけられるのだ、下手をすると相手が職員だったりするので厄介だ。買い取りも必要な事しか言わない、買い取れ、以上。


 それから、数日後にウィズダム国とフロウリア国は交渉で折り合いがつかず、戦争へと突入することになった。


「おー、おー、見える。ざっと2000人ほどだろうか、当然だがどこに魔法使いがいるのかは分からんな」

「…………守ることに集中する、私は皆を守る」

「はい、そしてそのスペラさんを僕達がお守りします。神よ、優しき少女をお助けください」

「この私がリアル魔法少女を助けずにはいられないでしょう、……念の為ですがロリコンではありませんよ」


 ミゼがまたわけの分からないことを言っていたが俺は構わず『(ハイプロ)視眼(メトロピア)』で国境線を越えてくる敵の数を調べる、既に国境近くの村人はほとんどは、略奪を恐れてこの街に避難済みだ。


 俺達は警護としてスペラの傍にいる、魔法への集中を乱すいけないと俺達以外の騎士達には、ここに来てからずっと席をはずしてもらっている。実はお互いに碌に話したこともない、食事などへの対応もヴィッシュがほとんどやってくれていた。


「スペラは覚悟を決めるべきです、守るだけなどと言っていたら足元をすくわれて終わりです」

「…………ヴィッシュ」


 スペラに対するヴィッシュの態度が冷たい、彼はそんなに出世欲が強かったのだろうか?スペラに対して、こんなにも冷たい人物だったろうか?


 とにかく、戦争は始まりを告げた。お互いに戦う兵士の規模はあまり変わらない、ややウィズダムの方が数が少ないだろうか。後は実際に戦う者の士気と、魔法使いという不確定な要素が、どう戦場に影響を与えるかである。


「思ったよりも善戦している、というかあまり兵士達にやる気が感じられない」

「王からの命令があったとしても、その命を受けた貴族が考えるのは、いかに自分の損失を減らし、どうにかして立派な武勲をあげることですから」


「ふーん、そりゃそうだわな。美味しいところだけと持っていき、面倒事を押し付けたいのが人間ってもんだ」

「傭兵はもっと酷いです、危なくなればすぐに逃げ出します。絶対的な支配者の資質を持つ者が指揮をとらなければ、戦争とは有象無象の泥沼状態になります」


「ヴィッシュはガキのくせに、いやに戦争に詳しいんだな」

「私の家はこれでも代々王国騎士団長など、戦争を利用して大きくなってきた家です。毎日、嫌でも戦争論について聞かされています」


 なるほど、ヴィッシュのあのスペラへの厳しい発言も、彼自身が戦争というものを知識とはいえある程度は理解しているからだろう。決して、言いたくて言ったわけではなかったのかもしれない。


 その時に敵の方で動きがあった、約百数十人ほどの味方が天空に巨大な見えない刃が、突然出現したような形で切り刻まれた。その残酷な刃が振り子のような動きで数回揺れて、何百かの味方の命を奪った。俺は思わずその魔法の名前を言った。


「あれは、『多くの(メニー)命奪いし(ライブス)刃の振り子(ペンジュラム)』か、風と闇の属性が強い上級魔法だ」


 次の瞬間にはこちら側から動きがあった、大きく風の竜巻が起こり、その鋭い風の渦に巻き込まれた数百の戦士は、そのまま風の刃にその身を切り裂かれた。


「あれはっ、『切り裂け(トーン)広がりし(スプレッド)風の竜巻(ウインドトルネード)』だと思うわ、風属性の上級魔法よ」


 今度がスペラが相手の魔法を言い当てた。両軍共に上級魔法によって大きく数を減らした、しかし、それから更に向こうからは動きがあった。


 また百人以上の人間の上空に、大きな恐ろしい物体が具現化する。それは鉄でできた拷問器具、鉄の処女ともいう多数の針を内部にいる者に突き刺す拷問器具であり、同時にみせしめの処刑用の道具でもある。


「あれは『隷属せよ(スレイブ)囚われの(キャプティム)鉄の処女(アイアンメイデン)』という魔法だったか、恐らく使っている奴はこっちの恐怖をあおる魔法を使って、兵士達の士気を砕こうとしている」

「嫌よ、させないわ!!『生まれよ(バース)隷属する(スレイブ)土の人形(アースドール)!!』どうか、守って!!」


 スペラが相手の魔法が生み出した、その拷問器具が味方の命を奪うより早く、大量の土から生まれた巨大な人形が戦場に現れる。


 兵士達は鉄の処女(アイアンメイデン)の攻撃から庇われるように、その土でできた人形達から大切に守られ、その命を土の人形達によって守られたことで奪われずにすんだ。


 相手の上級魔法の使いが生み出した処刑具は、その力を発揮することなくその姿を消してしまった。役目を終えてボロボロと崩れ落ちる土の人形達、それらはスペラの意志に従って味方を見事に守ってみせたのだ。


 それ以上にお互いに魔法が行使されることはなかった、こちら側のもう一人の魔法使いは奇襲により傷を負い、魔法戦に参加できないと伝令がきた。フロウリア側ももう使い手がいなかったのか、その後に上級魔法を使用する者はいなかった。


「ああ、守って(・・・)しまったのですね。……スペラ、貴女はやはり魔法の天才です」

「はぁ、はぁ、良かったわ。はぁ、はぁ、私は誰かを守れることができたのね」


 ヴィッシュがどこか寂しそうに魔法戦の終わりを見届けた、スペラは上級魔法を使ったことによって魔力枯渇に近い状態になっており、肩で息をしながらその場に蹲ってしまった。


「スペラ、一応は聞きますが私と結婚しませんか。実質的なものではなく、そう、白い結婚でも構いません」

「はぁ!?あんた何を言ってんの!?ヴィッシュは私の大切な友人よ」


 まだ戦争は途中であるというのに、ヴィッシュはいきなり変なことを言いだした。スペラもわけがわからないようで、その結婚の申し込みをすぐに断っていた。その態度にヴィッシュは苦く笑った、そう切なげな泣くような笑い方だった。


 白い結婚とは貴族間で偶に行われる形だけの結婚だが、何故ヴィッシュはスペラにそんなことを言いだしたのだろう。俺はヴィッシュの妙に穏やかな顔を見る、表情と違って心臓の鼓動がかなり早く脈打っている。


「それではレクスさん、どうかスペラを連れて国外へ(・・・)逃げてください」


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