第五十話 どんな怪物かわからない
ウィズダム国に来て知り合った二人のガキどもは今日も俺たちに会いに来た、するとスペラは普段通りだがどうにもヴィッシュの顔色がよくない、目の下にくまもできているようだ。
「おい、スペラはともかくヴィッシュ。随分と顔色が悪いようだが、大丈夫か?」
「…………あと一月後に試験があるんです、それに毎日の剣の稽古も、だから時間が幾らあっても足りなくて。ふぁ~あ、でも、頑張らないと成績が悪くなります」
「ヴィッシュは要領が悪いのよ、あと学院の試験は暗記ものが多過ぎるわ。何百年か前の似たようなお偉いさんの名前、地名、年代、そんなに細かいことはどうでもいいじゃない!!」
「歴史か、それはどうしても少しは暗記するものになる。そして、日常生活で使うものではないから、暗記するのも苦労するな。数学や語学なら、実際によく使うから覚えがいもあるんだけどな」
「とにかく覚えることが多過ぎるし、だからといって役人の試験に落ちた時のことを考えると……。その為に、剣術の鍛錬も欠かせないのです。ですが、どうにも強くなった気がしなくて困ります」
「そうよ、日常生活では歴史なんて大きな流れや、失敗したことを覚えておけばいいのよ。特に偉い人達って、なんとかの三世とか、あれこれ四世とか、同じ名前が多くてややこし過ぎるわ!!」
「まぁ、スペラの言うことには一理ある。歴史を学ぶのは、過去に起こった成功や失敗を学ぶ為にすることだ。大まかな内容さえ理解できれば、知りたい時に歴史書で名前を知ればいい。それとヴィッシュ。一日、二日で剣術が極めれらたらそいつは英雄だ」
「ふふふふっ、この天才はそんなに困りはしないのよ。過去の先輩達から試験内容を聞いて、ちょこちょこっとココだけは暗記するって箇所をまとめるの。これで、いっつも大体の試験はどうにかなるの。ヴィッシュにも見せてあげるのに~!!」
「結構です、私は自分の実力で試験に臨みます、決してスペラみたいな卑怯な真似はしません。剣術の稽古も頑張って続けます、忠告に感謝します」
俺とお子様の二人組は、ウィズダム国立図書館からの帰り道で話をしていた。最初はいつもの調子で話していたが、最後あたりはヴィッシュの機嫌が悪くなったようだ。いつも以上に淡々とした口調で、拒絶の言葉を残して一人で帰っていった。
俺はただ純粋に本を楽しむ為に、他の二人は試験勉強に集中できるからと、この図書館をよく利用していた。こうして、閉館時間に会うことが最近は多かった。
「ごめんなさい、怒らないでね。ヴィッシュってどうも、潔癖過ぎるところがあるのよ。過去の問題を教えて貰うなんて、皆がやってるのにそれは実力じゃないって言い張るの」
「あいつはウィズダム国立図書館の中身を、丸ごと覚えるつもりか? それには限界があるだろう、そんなことができるのはディーレくらいのもんだ」
「うわぁ~、ディーレさんってそんなこともできちゃうんだ。本当にお兄様だったら良かったなぁ、そうしたら天才とか気にせずに安心して魔法も使えるのにね」
「ああ、確かにディーレが兄だったら、妹になるお前に魔法の才能があろうが、無かろうが気にしないだろう。ただ、貴族というのは無理だ。あいつはそういう駆け引きには向かない。性格が穏やかで優しいから、……前は酷い慈善馬鹿だったぞ」
「ええええええ!? 意外だわ、ディーレさんって何でもできる人かと思ってたわ」
「あれで、かなり成長したんだ、初めに会った時は行き倒れていたくらいだから」
俺とスペラは彼女がまだ会う前のディーレの話などをして、俺は彼女を貴族が住む特別区画の入り口まで送っていった。
スペラのディーレに向ける好意は前に彼自身から指摘されたように、肉親から得られない甘えたいという感情からのものだ。ディーレもそれが分かっていてスペラのことを、孤児院の下にいた子ども達のように想い、とても大切に可愛がっている。
「なんとか父を納得させるだけの成績は出せました、そう努力が形になりました」
「…………私の方はちょっとね。まぁ、天才だから実技は満点だったわよ」
その後、試験が終わるまでヴィッシュの機嫌は、毎日良くはなかった。だが、そこそこの成績は残せたそうだ。スペラの方は、実はかなり良い成績だったそうだが、自慢し過ぎるとヴィッシュの機嫌が悪くなる。
「えへへっ、ディーレさん。本当は筆記の成績も良かったの、でもね、ヴィッシュがすねちゃうから言わないで」
「はい、分かりました。頑張りましたね、スぺラさんは努力する良い子です。お疲れさまです、しっかりと休んでください、それに他のお話も聞かせてください」
だから、こっそりとスペラはディーレに向かって成績の自慢をして、そして褒めて貰って素直に喜んでいた。そんな時のスペラとディーレは本当の兄妹のように仲が良かった。
ぶもうおおおおぉぉぉぉおおぉおぉぉぉぉ!!
ぐらあああぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁ!!
「オーガが一匹、それにミノタウロスが二体。牛頭の筋肉男といつもの人食い鬼、なぁ、最近やけにこんな強めの魔物が珍しく連携をとってこないか?」
「…………えっと、それはどこかにとても強い方がいて、毎日のように来るからではないでしょうか?」
「ひるまれる……と!! 思うのですか……これしきの……これしきの事でよォォォォオオオオ。はぁ~、個人的は第三部と第四部が好きですが、これはこれで良し」
俺達はいつものように平民らしく労働に励んでいる、俺はディーレが魔法銃のライト&ダークで光の目潰しをしてくれている間に、ミノタウロスを脇を走り抜けて、その背後から頸椎めがけてメイスを振り下ろした。ガツ゛ンッ!!と硬い感触がメイスから手に伝わった。
ぶもおぉぉぉ!!
「硬い!!迷宮でも40階層近くにいるだけはある、これならどうだ『重力!!』」
「こちらに注意をひきます、ミゼさん頼みます!!」
「はい、防御はお任せください、『風硬殻!!』」
ッガ、ギィ、ウグアァ!?
俺は攻撃が浅く入ったミノタウロスの背を踏み台にし跳んで、迷宮の天井に一瞬だけ着地して、次は『重力』の魔法を使い、威力を上げた一撃を油断していた、もう一頭に連撃でたたきこんだ。ガギイィィ!!ドガァ!?バキィィ!!と今度はメイスに効いているという手ごたえがあった。
ぐらあああぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁ!!
「申し訳ありませんが、無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!『風硬殻!!』」
「『浮遊』その攻撃は悪手です、僕にとってはですが」
魔法をディーレ達に向かって、咆哮と共にオーガが放った。ミゼは二つめの風による防御魔法で相手の魔法の余波を防ぐ、ディーレのフードの中にミゼはいる。
ディーレは『浮遊』の魔法を使い、相手の魔法を綺麗に避けて、更に咆哮しおえた口が閉じる直前に、火炎弾を十数発ほど撃ちこんでいる。
う゛ふうぅぅううううぅうぅうぅぅぅ!?
ディーレの火炎弾で肺を焼かれたオーガは、その痛みと呼吸のできない苦しさからか、転げ暴れまわった。その腕がまだ生きていた方のミノタウロスに、ぶち当たりそいつに丁度いい隙が生まれた。
「よっし、お仕事終了ってな。『重力!!』」
ガアアァッァアァァ――!?
グギイイイィィィィ!!と今度は力加減を間違えずに攻撃に首を、メイスで殴り飛ばして捻り折る。今日の、仕事はこれから剥ぎ取りをすれば完了だ、ミノタウロスも数が揃うならなかなかに強い。
「どっかに凄く強い魔物が一匹いるのか、こいつらくらいの大物が連携をとるとは、そいつは怖いモンスターだな」
「………………えーと、ですね。レクスさん、それ本気で言ってます?」
「ぶっふぉ!?これこそが言葉のブーメラン!! レクス様、おかわり下さい!!」
よく分からないが、周囲に強大な力を持った魔物がいるのは間違いないので、普段よりも注意しながら剥ぎ取りを行った。
いつもの調子のミゼに見張りを任せて、オーガの皮と魔石、それからミノタウロスからは皮の他に角を頂いた。この硬い角を削っていろいろと加工品を作るらしい、鋭くけずれば硬いナイフにもなるそうだし、繊細な彫刻を施せたら珍しい装飾品になるらしい。
今日はなかなかに真面目に平民として労働に励んだ、この階層の付近に出るという強い魔物のことは覚えておこう。うっかりと、遭遇したら嫌だからな。
「それじゃ、図書館。図書館、まだまだ読んでいない本が沢山ある。あっ、ミゼの夕食の用意を頼んでいいか、ディーレ。俺は閉館時間ぎりぎりまでいるつもりだ」
「はい、いつものように、肉と野菜で体に良さそうな屋台か料理店に行きます」
「レクス様、どうぞ楽しんできてください」
それから、俺達は冒険者ギルドでいつもの買い取り後に二手に分かれた。俺は当然だが、うきうきと心躍らせながらまだ読んでいない本が沢山ある、ウィズダム国立図書館に向かった。その途中で、少し気になる話しを耳が拾った。
「ねぇ、聞いた?フロウリア国が宣戦布告してきたんだって」
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