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第四十七話 伸ばせば育つかもしれない

「いいか、ガキども人を簡単に(・・・)信じるものじゃない」


 そう言って俺はスペラとヴィッシュの額をペチッペチンッと順番にはじいてみせた、スペラはこちらをキッっと睨みつけ、ヴィッシュは意外なことにまた呆然としていた。


「うーん、俺の予想ではまだヴィッシュの方が反応が速いと思ったんだが。スペラの方が動いたか、咄嗟に使ったにしては魔法の力はまぁまぁってところだな」

「それじゃ、嘘なの!?」

「……えっ、ええ!?」


「嘘に決まっているだろう、本当に誘拐や侯爵からの依頼ならまず真面目に荷物を用意する必要すらない。ただ、言ったとおりだ。人を簡単に(・・・)信じるものじゃない」


 俺はトントンと相棒のメイスで肩を叩きつつ、片手を振ってみせる。ディーレはいつものにっこり笑顔で、ミゼはプスーと笑いながら俺の方へやってきた。


「お前達の力は弱い、ヴィッシュの方は誘拐や脅迫をしてみても儲けは少なそうだが、スペラは別だ。上級魔法が使える魔法使いは貴重だから、たとえば父親がらみでも、もしくはこの国がらみでも、何らかの取引に利用される可能性はある。今回はそういうお話(・・)を作ってみた」


 いつまでもこんな人気もなければ、モンスターも出ない。そんな行き止まりにいても仕方がないので、俺は二人に歩きながら説明をしておいた。


「俺に迷宮での同行を依頼したのは、街でおかしな真似をしないわりと大人しい、そんな冒険者に見えたからだろう。だが、狡猾な奴ほど優しい仮面を被っている事が多い。まずは冒険者ギルドで、俺の実績などヴィッシュは調べるべきだった」

「は、はい」

「ヴィッシュの馬鹿って、…………私も馬鹿ね」


 俺は二人から依頼を持ち込まれてから、冒険者ギルドや街の人からヴィッシュ・スクイレと、スペラ・ベリトリスについて調べた。


 貴族が関わってくる依頼は問題になることが多い、相手の性格次第では平民である俺達は、何か無理難題を出されることもある。


 ヴィッシュとスペラの二人は今更ながら、自分達の迂闊さに気づいて素直に反省をしている。俺は歩きながら話しを続ける。


「俺はお前達について調べたぞ、できるだけ自分が関わる依頼について調べるのは大切だ。信頼できる仲間をみつけるのもな、今だってディーレとミゼが周囲を警戒してくれるから、こうして歩きながらお喋りができる」


 俺の言ったことに二人は自分達がいつの間にか、前は俺。後方はディーレとミゼに囲まれていることに気づいた。


 ディーレとミゼもこの迷宮には何度も入っているし、パーティとしての連携もとれていて、自然と役割分担をしている。新人にはこれすら、最初は難しい。


「ここはまだ一階層だから滅多に魔物は出ない。だが、警戒する者は必要だ。いつどこで、どのくらいの強さの魔物が襲ってくるか分からん。緊張し過ぎると気が緩む、だが適度な警戒心は常に持て、仲間同士で足りないところを補うんだ」


 迷宮ではいつ魔物や他の人間から襲撃されるかわからない、常に頼りになる見張りが必要だ。俺自身だって魔物の気配を探りながら歩いている、緊張し過ぎてもいけないが、全くの無防備というのは自殺行為だ。


 その点でこの二人は周囲を見渡すという、やっと基本的なことをし始めた。今までは俺達を信用し過ぎて、街を散歩するような気分が抜けていなかったのだろう。


「……何か、分かったか。感じとることはあったか、隠れているが魔物がいるぞ。ああ、そう気配を察したからといって警戒し過ぎると、かえって相手に悟られてしまう」


 ぎゃ!?

 ギィィ!!

 うぎゃあ!?

 ぎぃぃ!!

 ヒギャ!?


 ディーレがすかさず、魔法銃のライト&ダークで出てきた小さ目のゴブリンの群れを撃退する。俺はその攻撃をよけて、両足に力をこめディーレが残してくれた分。


 その二匹のゴブリンの上を飛び越えた、ミゼがすかさず二人の子供の前に出る。後ろの警戒はディーレが行う。二匹のゴブリンは、俺達のパーティに挟まれたような形になった。


「どちらでもいい、俺やミゼに当たらないように攻撃してみろ。失敗しても、俺達が補助するから大丈夫だ。ああ、ゴブリンの弱点はそう人間と変わらん」

「わ、わたしからいくわ。『風刃(ウインドブレイド)!!』」


スペラの魔法はゴブリン二匹を風の刃で切断してしまった、ただしまだ魔力操作が拙い。俺の方にも魔法が飛んできた気配がしたので、かるく最小限の動作でそれをかわした。


「ん、敵を見て迷わずに魔法を発動できたのはいい。だが、俺にも当たるところだった。これがヴィッシュなら今頃、腕の一本も飛んでるところだ。風の刃を放つ角度や、仲間の位置に常に注意を怠るな」

「わ、わかった。ごめんなさい、本当に怪我はしなかった?」


 俺はスペラのところに戻ってきて、その頭を軽くポンポンっと撫でてやった。まだまだ甘いが、攻撃魔法を初日で敵に当てれただけでも筋がいい。


「これくらいなら俺なら簡単に回避できる、ただ新人では無傷では無理だ。仲間を傷つけないような魔法を選ぶか、もう少し魔力操作を練習しろ」

「は、はい!!」


 素直なことは良いことだ、俺達が倒したのは合計で七匹のゴブリンだった。こいつらから剥ぎ取れるのは魔石か、持っていれば粗末な武器くらいだ。


「持たせた荷物の中に手袋と剥ぎ取り用のナイフが入っている、ゴブリンの魔石は人間でいう胸の中心のすぐ下あたりにある、剥ぎ取って革袋に入れておけ。どこに魔石や剥ぎ取って売れる素材があるか、それを事前に調べるのも大事なことだ」

「ううぅう、胸の中心よりすぐ下ね。うぅぅぅ、感触が気持ち悪そう」

「……スペラ、私も手伝います」


 スペラとヴィッシュがそのまま、剥ぎ取りを行おうとするので俺は二人を止めた。ゴブリンの一人に近寄って様子を確認し、すぐにブーツでぐしゃりとその首を踏みつぶした。


「きゃ!?」

「うっ!?」

「こっちのゴブリンはまだ息があった、いわゆる死んだふり(・・・・・)ってやつだ。こいつらにも人の子ども程度の知恵はある。獲物を倒しても気は抜くな、必ずとどめを入れておけ。また、剥ぎ取りをしている間も、他のモンスターや冒険者に気をつけろ」


 そこで剥ぎ取りはゴブリンを倒したスペラがやることになった、俺達もディーレが自分の倒した方の魔石を回収している。ゴブリンの持っていた武器は棍棒くらいで、売れもしないから今回は剥ぎ取らせなかった。


「ゴブリン一匹くらいなら、ギルドにもよるが銅貨1枚、平民の食事一食分くらいの稼ぎだ。冒険者は最初のうちは雑用依頼の方が安全に稼げる、新人冒険者になっても、すぐに楽に食べれるほど稼げるわけじゃない」

「き、厳しい」

「冒険者って危ないわりに、強くなるまで儲からないのね」


 俺は剥ぎ取りの仕方もだが、大体の新人冒険者の稼ぎについても教えておく。この二人は貴族の生まれだ、平民と違って金銭感覚がおかしい。そこを教えておかないと、家を出て平民になってしまった時に、金の使い方を誤り飢え死にする可能性も出てくる。


 ドガッバギッ、ガツンッ、ぐしゃあぁぁと生っぽい音がいくつかした。今度は俺がゴブリンを8匹ほど仕留めたのだ、残りの一匹はヴィッシュに攻撃させてみる。もちろん、その間に周囲を警戒することは忘れない。スペラもヴィッシュのことを気にしつつ、辺りを見回すようになった。


「『衝撃(インパクト)!!』 ああっ!! っあ!?」


 魔法を避けたゴブリンを咄嗟に叩きつぶした俺の手に、ぐしゃぁりという音がメイスから伝わる。ヴィッシュの魔法は魔力操作が甘かった、それを避けてゴブリンが彼を襲ったので、俺は遠慮なくそいつをメイスで叩き潰したのだ。


「もう少しヴィッシュは魔力操作と、それに避けられた時のことは考えておいた方がいい。魔法が避けられたのなら剣で、それが出来ないのなら逃げるのもありだ」

「は、はい!!」


 ヴィッシュはこくこくと頷いた、彼も魔法が避けられた瞬間に剣を抜こうとしたのだが、剣は最初から抜いておくべきだった。初心者が動ける魔物に対して、的確に魔法を当てるのは難しい。


「えい!?これで、えいい!!」

「今度こそ、『氷撃(アイスショット)!!』」


 次は俺達に見張りを任せて、一匹ずつゴブリンを攻撃させてみた。ヴィッシュはなんとか剣でゴブリンを倒せた、スペラも見事に魔法を当てたが少し問題があった。


「ヴィッシュは落ち着いていれば、一匹のゴブリンくらいは問題ないな。ただ、奴らは大抵は群れで襲ってくる。信頼できる仲間をもっと増やすか、中級魔法の練習をするか。それに狭い場所での剣での戦闘は避けろ、その剣は少し長すぎる」

「はい!!」


「スペラの方も落ち着けば魔力操作も上手いな、ただ、今回は選んだ魔法があまり良くない。獲物が凍りついてしまったから、剥ぎ取るのなら氷を溶かすのに魔法を使うか、剥ぎ取りを諦めることになる。使える魔力には限界がある、忘れるな」

「分かった!!」


 こうして十日ほど俺はヴィッシュとスペラの新人教育をしてみた、まだこの二人は子どもだ、伸びしろは多くある。この年齢にしてなら素質は充分にあった、無謀な新人冒険者より随分とマシな方だと思う。


「嘘でしょ、あんなに恐ろしいモンスターを一人で!?」

「オーガって人食い鬼だ、魔法の補助があっても凄い!!」


 この二人の実力では、迷宮の三階層くらいまでしか行くことができなかった。それも俺達の助けなしでは難しかった、だからディーレとミゼに防御を任せて、一応は迷宮のその先に、どんな敵がいるかを見せておいた。


 ぐらああぁぁあぁあぁぁぁぁ!!


「『能力(エンハンス)強化(キャパシティ)』、よっとこんなものか」


 ディーレとミゼに完全に二人の防御を頼み、俺は『重力(グラビティ)』の魔法を無詠唱で使い、二人には『能力(エンハンス)強化(キャパシティ)』の魔法を唱えているようにみせた。

30階層辺りまで二人を守って連れてきて、俺は単独でそこにいるオーガに向かっていった。素早く飛び上がってオーガに反応させる暇も与えず、その頭をぐわしゃぁっとメイスで叩き潰してみせた。


 10日間の終わりの最後にいろいろとまとめて、スペラとヴィッシュに話をしておいた。ディーレとミゼもそれぞれの意見を述べた。


「いいか、今のお前達ではゴブリンの群れですら強敵だ。でも、お前達はまだ子どもだ。今から魔力操作、使える魔法を増やす、信じられる仲間を探す、剣術の他に武術を習うのもいい。伸びしろがいっぱいあるんだ、……まぁ頑張れ」

「よく新人冒険者さんはお二人に近い状態で冒険して、亡くなってしまう方が多いのです。今回の依頼はその点、お二人は賢明な判断をされたと思います。貴方達にこれから神のご加護がありますように」

「決して無理はしてはいけません、倒せないなら逃げる。必要な行動を咄嗟にとれるように、仲間での連携は練習してください。運が良かったら、私みたいな賢い従魔をみつけるのもいいでしょう」


「「はい、ありがとうございました!!」」


 こうして、試行錯誤ではあったが、一応は十日間の迷宮案内と戦闘教育を行った。二人共、わりと素直な子どもだったから助かった。


 貴族でも嫌な奴ばかりでは無いらしい、当たり前か。身分に関わらず人間にはいろんな奴がいる、そうそう嫌な人間ばかりにあたっていてはたまらない。


「そして、やってきたぞ。俺の楽園に――!!」


 俺とディーレは今回の依頼の報酬で、特別にウィズダム国立図書館を使えるようになった。ああ、俺を魅了する本という、美女よりも素晴らしい知識が今ここに!!ちなみに動物は立ち入り禁止ということで、ミゼの奴はここには入れずに宿屋で留守番だ。


「…………図書館ではお静かに願います」


 はい、すいませんでした。俺は大人しく図書館の職員さんに頭を下げて反省した。


広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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