第三十九話 若さが怖くて仕方がない
「レクス様、あちらに何かございますよ」
俺達が歩きながら神様論議をしていると、そうミゼが前方の街道の方を見て言った。俺もその視線の先を見てみると、街道の脇にある森の中に古い木か、何かの残骸があった。
「こんな人気のないところに薪の山か?いや、元は馬車だろうか?」
「おかしいですね、馬車ならば乗っていた方はどちらに行かれたのでしょう」
「相当に古そうです、旅の途中で故障を起こして放棄。ついでに薪として利用したのでしょうか」
俺達はそろって意味が分からないと首を傾げたが、俺にとって少しだけ気にかかった部分があった。ただ、あまりにもこの残骸が古すぎるのと、確証は無かったので仲間に推測だけでものを言うのは止めておいた。
「よくわからないがもうすぐ国境だ、用心だけはしておこう」
「はい、わかりました」
「他の国に行くのは初めてです、何だかわくわくしてきます」
それから、俺達は順調に街道を進んでいったのだが、時々隠してはあるが同じような馬車らしき残骸を見かけるようになった。中にはまだ新しいものもあり、今度は俺も仲間に注意を促しておいた。
「最初のものは古くて分からなかったが、新しい残骸からは血の匂いがした。盗賊などが近くにいるかもしれない、ディーレ、ミゼ。一応、気をつけろよ」
「盗賊、国境の近くは国の中心から離れた場所です。恐ろしい話ですが、そういう方々がやはりいるのですね。神よ、我らの旅のご加護を」
「大丈夫です、お二人ならば盗賊ごとき敵にはなりません」
俺は植物から生気を貰って生きる、草食系のヴァンパイアだ。だが、血の匂いには敏感で、その人間によってほんの僅かな違いを嗅ぎ分けることもできる。
まぁ、そうは言っても役にはほとんどたっていない。酒作りの名人は同じような酒を並べられて、その僅かな匂いや味で産地を当てたりできるという。
ああ、この血はまさしくアンダーグラン産の血でしょう。ほんのりと焦げるような香りと、僅かな独特の苦みが感じられます。…………そんな利き酒のような、馬鹿なことを血でする予定は俺にはない。
そうしてやや警戒しながら歩いていたら、俺たちはよく見慣れた光景を目にした。盗賊ではない、盗賊にしては殺気がない。それは5人ほどの冒険者たちだった。
「あれっ、こんにちは。貴方達も冒険者ですか?これからカルバルの村にいくんですか?」
「いや、俺達はただウィズダム国にいく為に、国境を目指しているだけだ」
俺達は国境の近くまで来ていた、その途中でランク銅の他の冒険者に遭遇した。彼らは5人、剣士が3人に魔法使いが1人、回復役が1人という構成のパーティだった。彼らは陽気な様子で無邪気に俺たちに話しかけてきた。
「そうですか、この先のカルバルの村に盗賊が出るんだそうです。私達のパーティはその退治に向かうところです」
「…………あの、レクスさん、レクスさん」
「ああ、分かった、分かった」
全員がランク銅のこの冒険者はバランスはなかなか良いが、盗賊退治となるとその規模によっては彼らには荷が重い。
ディーレはそれを察して俺の後ろから、どうか助けてあげてくださいと恐る恐る、俺に合図をしてきた。俺も盗賊は嫌いだ、わざわざ探して退治まではしないが、こうして縁があったら潰すしかないな。
「俺達も少し休みたいので、そのカルバル村に行ってもいいかな?ああ、依頼は受けていないから、もちろん金銭を要求したりはしない」
「貴方はランクが鉄の冒険者!?経験豊富な方が一緒だと心強いです、短いですが道中よろしくお願いします!!」
このランク銅の冒険者たちは新人にしては大人しく、素直に俺達の同行を認めた。俺達は国境をまっすぐに目指すのは止めて、カルバルという村に寄ってみることになった。
「レクスさん、僕の気のせいでしょうか。あれはちょっと、…………酷すぎます」
「いや、ディーレ。普通の新人冒険者ならあんなもんだ、お前が才能にめぐまれているんだよ」
「本当に新人ですね、素直なのは良いことでもあり、悪いことでもあります」
俺達が一緒に旅することになった5人の新人達、全員がはっきりいって強いとは言えなかった。
剣士は特に技術もなく、ただ剣を振るうことができるだけだった。魔法使いは初級の攻撃魔法を日に数回、行使できるだけだった。回復役もそう変わりがない、攻撃魔法が使えない彼は初級の回復魔法を、やはり日に数回使えるだけだった。
「なぁ、鉄の冒険者として忠告なんだが、お前達はもう少し仕事を選んだ方がよくないか?」
「え?そうですか?僕らは同じ村の幼なじみで連携をとることに慣れています、こう見えても結構強いと思いますよ。村に来たモンスターだって、追い払うことができたんです」
「それはどんなモンスターだったんだ?」
「ゴブリンが数匹でした、奴らは簡単に斬り殺せましたし、仲間の使う魔法を恐れてすぐに逃げ出しました!!」
「………………」
「………………」
「………………」
俺と仲間達はその冒険者たちの、彼らが凄いと思いこんでいる冒険談。そんな話の数々にお互いにやや呆れて、言葉も出なくなってしまった。他にもいろいろ話を聞いてみたが、どれも似たりよったりの同じような話ばかりだった。
例えば話に出てきたゴブリンという魔物は単体なら弱い、数匹ならこの5人でも運が良ければ、ただ追い払うくらいは簡単だっただろう。
ゴブリンは人間の子ども程度の力しかない、それに臆病で誰かを襲っても反撃されるとすぐに逃走する。ゴブリンの怖さはその数にあるのだ、数匹程度なら追い払うのは別に難しいことじゃない。
「ここがカルバル村です、私達は依頼の詳しい内容を聞いてきます。レクスさん達が休めるような、そんな場所がないかも聞いてきますよ」
「…………そうか、頼んだ」
カルバル村には、俺達がこのランク銅の冒険者達に出会って一日ほどで着いた。俺が着いたとたんに分かったことがある、だからディーレとミゼにこっそりと合図を送り、彼ら新人冒険者達についていかせた。
「これは酷い、まさかこんなに酷いとは思わなかった」
俺は村に着いた途端に気づいたことを確認しに動いた、草食系とはいえヴァンパイア。俺は高い魔力を生かして、『隠蔽』で姿を消し、村の中ですぐに目的のものをみつけだした。
それは古いものから新しいものまで様々なものがあったが、まだ間に合ったものもあった。ディーレの奴がいるから助かる、俺ではこれを助けるのは少し難しい。俺はそれに簡単な適切な処置をして、できるだけ丁寧にそこから運び出した。
「あっ、レクスさん。盗賊達の場所が分かりました、東の森辺りにいるそうです。それに貴方達の為に使ってない納屋を貸してくれるとか、そこでゆっくりと休んでいてください」
「貴方達も冒険者だとか、一晩だけでもゆっくり休んでいってください。これから、この方々が盗賊退治をしてくれます。これでようやく村も救われます、有難いことです」
「………………悪いがそれはできないな」
俺はディーレとミゼに合図を送る、俺の仲間はその合図に従って動いた。新人冒険者達と村長と数人の村人の間に入り、いつでも動ける体勢をとってくれた。
「この村自体が盗賊なんだ、いいや、ただの盗賊よりもずっと恐ろしい奴らだ」
そう言って俺は助け出した者をくるんだ包みから、その場にいたディーレの腕の中にゆっくりと降ろしてみせた。
「…………う……ぁ…………」
俺が村の奥で助け出した少女は両足の腱を切られ、またその体には肩から先の両腕もついていなかった。
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